異世界マッチョ

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66 マッチョさん、量産型プロテインを飲む

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 「族長、部隊を里に入れてもいいか?固有種の腑分けを里の中でやるワケにもいかないだろう。」
 「部隊にトロールの死体を里の外に出させましょう。衛生兵も連れて来たので怪我人の手当ても我々が手伝います。」
 「よろしい。我らもずいぶんと傷ついた。感謝するぞ、人族の軍人。」
 「龍国と人間国の交流の復活を考えておいてください。これは人間王からの正式な要請でもあります。」
 「固有種の出現に勇者の誕生。ふむ・・・ここが変化の時か。皆の説得は難しいと思うが善処しよう。」
 何度も戦って楽勝であったはずのトロールが、組織して集団で龍族の里を襲ってきたのだ。
 そして精霊の恩寵の顕現と、勇者の出現。それは魔王復活も意味する。龍族といえどもひとつの種族だけで里や生活を支えきれなくなってくるかもしれない。

 さて。仕事も終わったし日も暮れる。
 専門家が来て怪我人を診察している以上、素人がどうこう言えることは無いな。
 小屋に戻って休憩しようとしたら、さっきの体脂肪の人が話しかけてきた。
 「あなたがマッチョさんですよね?身体を見れば分かると王宮薬師のソフィーさんから聞いています。改めましてタカロス大尉です。山岳戦と補給が主な任務です。」
 要するに山のスペシャリストということか。
 「マッチョです。ソフィーさんが私になんの用なのでしょうか?」
 「あまり聞きなれない薬というか飲みものの量産に成功したので、今回は回復薬と一緒にマッチョさんに持っていけと言われました。名前はえーとたしか・・・」
 「サバスでしょうか?」
 「そうそう、サバスです。」
 あれの量産に成功したというのか。ということは大量のタンパク質の合成に成功したのか、あるいは抽出に成功したのか。経緯がどうであれ飲んでみたい。
 「瓶に適量水を入れて、振って混ぜるそうです。あまり水には溶けないようで。」
 タカロスさんが出してきたものは間違いなくサバスだ。あのマズさは衝撃的だったからなぁ。
 「作って飲んでみてもいいでしょうか?」
 「勿論です。そのために持ってきたのですから。」
 とりあえず希釈量は1.5倍にしておく。マズいと飲み込むのが大変だからだ。
 一息吐いて気合いを入れる。・・・頼むぞっ!
 ぐほぅっ!
 なぜだ?より一層マズくなっているではないか。
 ソフィーさんには味に問題があるという話をしたはずなのに。量産のほうを重視してしまったのか、あの人は。これではプロテインではなくただの薬だな。実際にソフィーさんは薬と考えているのかもしれない。
 「マズいですよね、それ。効果はあると言っていたんですが、うちの部隊でも途中で気分が悪くなってしまって飲み干せる人間はいないんですよね。作戦行動中は使用禁止ということにしました。」
 そうだろうなぁ。前にいた世界でも経験したことのない味だ。あまりにとんでもないレベルのマズさを経験すると、肝臓への負担が心配になるものなのか。プロテインのマズさが筋肉に悪影響を及ぼしそうな気になるなど、私のトレーニー歴でも初めての経験だ。ソフィーさんが味オンチだとしたら、今後サバスの改良開発はえらく難渋することになる。
 「うーん、これたぶん戦闘があることを見越して持ってきてくれたんですよね。」
 「まぁそうですね。衛生兵まで隊に組み入れましたから。」
 「戦闘後に飲むのが最適なのですが、龍族の方に飲ませて外交問題に発展しないでしょうかね?」
 「・・・どうしましょうか?」
 「止めておきましょう。少しでも弱っていたら消化できないかもしれません。」
 携帯用のプロテインが手に入ったことは嬉しいが、使いどころが難しい道具になってしまった。完全にタンパク質が手に入らない状況でしか使いたくは無いな。この世界に来てから初めて、私は筋肉に役立つ道具をもらって嬉しくないという感情を抱いた。これを量産しちゃったのか。

 立ち話をしていたらフェイスさんとツイグがやって来た。
 「マッチョ、あとの処理はタカロスや龍族に任せて俺たちはメシ食って休むぞ。明日には限界領域へと向かう。」
 「フェイスさん、旅を中断してマッチョさんと王都に帰ってもらえないでしょうか?後処理は我々の部隊がやりますので。」
 「なにか急ぎの用件でもあるのか?」
 「ドワーフの勇者が人間国に向かっている途中です。面識のあるマッチョさんには王宮にいてほしいんじゃないでしょうか?」
 もうそういう時期か。あっという間だったな。
 「王からの正式な要請か?」
 「いえ、特に言われてはいないので私の想像ですが。」
 「・・・だったら限界領域までコイツを連れていく。ドワーフの勇者と面識のある人間だったら師匠がいるだろう。限界領域がどういうところなのか知っておかないと、後々マッチョが苦労することになるかもしれん。次に行く機会もそうそう無いだろうしな。」
 フェイスさんのこの手の読みって当たるんだよな。
 「私もフェイスさんがそこまで言うのであれば行ってみたいです。」
 「俺も行ってみたいっす。今ならトロールと遭遇しないで済むかもしれないっすからね。」
 そうか。近隣の魔物を根絶やしにした可能性があるのか。とんでもない僻地に行くのであれば、今がベストなタイミングかもしれない。
 











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