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60 マッチョさん、龍族の里へ行く
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ほぼ一日がかりで山と沢を超え、龍族の里へと来た。
ほとんど手つかずの自然そのものを用いた里だ。大きな清流があり、そこを中心にして大木の上に荷物を置いて暮らしている。生活自体は水の中が多いようだ。清流で龍族が水ごりをしているのが見える。静謐で清潔。生存に必要なもの以外は余計なものを持たないあたり、修行僧のような印象をより際立たせている。夕日と里の風景とのコントラストが美しいな。
私は初代王の高炉の近くで行ったトレーニングの数々を思い出した。清流による負荷をかけることで下半身にはより粘りが出るだろうし、膝や腰や股関節にかかる負荷も軽減される。長期滞在することになったら、是非私もあの清流を使わせていただきたいものだ。
「着いて間もなくで悪いが、我々の長老に会ってほしい。」
トロールは龍族が倒してくれたが、沢越えがけっこう効いた。ああいう下半身に負荷のかかる場所を歩くのは人間向きではないな。ほとんどトレイルラインニングだった。龍族はしっぽがあるから安定するのだろう。
「少し休ませてくれ。やはり山と沢は龍族の領域だな。」
「・・・我々も速度を落としたのだがな。人族には厳しい道のりだったか。30分後に来る。」
龍族の小隊長は消えていった。里の手前で私たちは休憩することになった。
「ツイグ、まずは呼吸を整えろ。呼吸が落ち着いたら背筋を伸ばして深呼吸だ。」
「はいっす・・・」
いいアドバイスだ。私もフェイスさんのアドバイスに従うことにした。呼吸が落ち着いてきたので水を補給する。
「しかし妙だな・・・」
「何がですか?」
「この辺はもっとトロールが出るはずだ。ちょっと遭遇数が少ないんだよな。」
「龍族がたくさん倒したんじゃないんですか?」
「それにしても少な過ぎるな。前に来たときの三分の一くらいだぞ?同じ土地でそこまで減るか?」
魔物の増え方や減り方というものは分からないが、少なくともフェイスさんの感覚ではおかしなことがこの龍族の領土内で起こっているということなのだろう。
樹上の建物の中でもっとも立派な小屋が龍族の族長の部屋だった。木登りをしなくてはいけないのかと思ったが、いちおう来客用にはしごがあるらしい。私たちを先導してきた小隊の隊長が手助けしてくれた。
小隊長が老いた龍族の横に武装して並ぶ。龍族の族長はずいぶんと年をとっていた。龍族の族長選びは年齢で決まるのかもしれないな。まだパワーはありそうだが、機敏には動けないだろう。
「・・・フェイスか?」
「ご無沙汰ですな、族長。いつぞやは世話になりました。」
「フェイスさん知り合いだったんすか?言ってくださいよ!けっこうビビってたんすよ!」
「前に来たって言っただろうが。」いや、龍族の里にまで来たとは聞いてなかった気がする。
「お前が来たということは、王の命令で例の石碑を調査しに来たのか?」
「いえ、個人的な興味で来ました。あれを読める人間がいるので。」
私とツイグは挨拶をするように促された。
「マッチョと言います。よろしくお願いします。」
「ツ、ツイグです。王様を前にして緊張しているっす!」
「龍族族長、マクドナルドだ。いちおう国ということになっているが、小さな里だ。族長と呼んでくれて構わない。」
けっこうフランクな人だな。ドワーフ国の里長もそうだったが、亜人というのは人間ほど面倒くさくないらしい。
「単刀直入に伺いますが、龍族は西の廃墟の祠が墓だということをご存じだったのですか?」
「うむ。どういう人物かは知らんがな。」
あのお墓を前にした時に違和感を感じた理由が分かった。廃墟の中にあるにも関わらず、あのお墓は綺麗だったのだ。龍族の人たちが手を入れてくれていたのだろう。
「人族にあそこが墓と知られるのは禁忌とされていた。我々にとって禁忌というものがどれほどの重さを持つものか、フェイスなら分かるだろう。」
「・・・殺されるかと思いましたよ。」
「里に来たのは正解だったな。お前以外だったら殺していたかもな。」
剣呑というか狂信的だな。ツイグがビビりまくっている。
「そこまでして人族に知られたくない理由というのは?」
「あの墓は初代人間王が直々に作ったとされている。そして我らがこの土地に住むにあたって、あの墓を未来永劫に大切にするように初代人間王に頼まれたと言われている。その際にくれぐれも人族にも他の種族にも他言するなと、我々の祖先が言われたのだろう。それがそのまま禁忌となったのだと思う。」
ふーむ。恩義もあるし頼まれたからそうするという龍族の言い分は理解できる。だが初代王はなぜ人族に知られてはいけないと思ったのだろうか?
「初代王は自分が消えたあとに内戦が起こることまで予想していたのかもしれない。墓の存在が誰かに利用されるのを嫌がったのだろう。」
内戦。人間国で他種族がドン引きするレベルでの内戦が起こったという話は聞いたことがある。
「よく今まで初代王のものだとバレませんでしたね。」
「初代王が消えたあとは問題も起きたらしい。我らの先祖が対処したと思うがな。」
探りを入れてきた人間を殺したということか。龍族って怖いな。
「あの墓のためにわざわざ人国の領土にまで入ってきていたということですか。」
「年に一度くらいだがな。だが今回はちょっと事情が違う。里の危機があるかもしれないので、いくつか部隊を作って里の周辺から見回りをさせていたのだよ。墓の周辺も問題があるかもしれないので調査をしていた。周辺警戒が終わったら人間国へと伝令にするつもりだったのだがな。」
「危機と言いますと?」
「トロールとの遭遇数が急速に減っている。我々はトロールを統率する固有種が出現したのではないかと考えている。」
ほとんど手つかずの自然そのものを用いた里だ。大きな清流があり、そこを中心にして大木の上に荷物を置いて暮らしている。生活自体は水の中が多いようだ。清流で龍族が水ごりをしているのが見える。静謐で清潔。生存に必要なもの以外は余計なものを持たないあたり、修行僧のような印象をより際立たせている。夕日と里の風景とのコントラストが美しいな。
私は初代王の高炉の近くで行ったトレーニングの数々を思い出した。清流による負荷をかけることで下半身にはより粘りが出るだろうし、膝や腰や股関節にかかる負荷も軽減される。長期滞在することになったら、是非私もあの清流を使わせていただきたいものだ。
「着いて間もなくで悪いが、我々の長老に会ってほしい。」
トロールは龍族が倒してくれたが、沢越えがけっこう効いた。ああいう下半身に負荷のかかる場所を歩くのは人間向きではないな。ほとんどトレイルラインニングだった。龍族はしっぽがあるから安定するのだろう。
「少し休ませてくれ。やはり山と沢は龍族の領域だな。」
「・・・我々も速度を落としたのだがな。人族には厳しい道のりだったか。30分後に来る。」
龍族の小隊長は消えていった。里の手前で私たちは休憩することになった。
「ツイグ、まずは呼吸を整えろ。呼吸が落ち着いたら背筋を伸ばして深呼吸だ。」
「はいっす・・・」
いいアドバイスだ。私もフェイスさんのアドバイスに従うことにした。呼吸が落ち着いてきたので水を補給する。
「しかし妙だな・・・」
「何がですか?」
「この辺はもっとトロールが出るはずだ。ちょっと遭遇数が少ないんだよな。」
「龍族がたくさん倒したんじゃないんですか?」
「それにしても少な過ぎるな。前に来たときの三分の一くらいだぞ?同じ土地でそこまで減るか?」
魔物の増え方や減り方というものは分からないが、少なくともフェイスさんの感覚ではおかしなことがこの龍族の領土内で起こっているということなのだろう。
樹上の建物の中でもっとも立派な小屋が龍族の族長の部屋だった。木登りをしなくてはいけないのかと思ったが、いちおう来客用にはしごがあるらしい。私たちを先導してきた小隊の隊長が手助けしてくれた。
小隊長が老いた龍族の横に武装して並ぶ。龍族の族長はずいぶんと年をとっていた。龍族の族長選びは年齢で決まるのかもしれないな。まだパワーはありそうだが、機敏には動けないだろう。
「・・・フェイスか?」
「ご無沙汰ですな、族長。いつぞやは世話になりました。」
「フェイスさん知り合いだったんすか?言ってくださいよ!けっこうビビってたんすよ!」
「前に来たって言っただろうが。」いや、龍族の里にまで来たとは聞いてなかった気がする。
「お前が来たということは、王の命令で例の石碑を調査しに来たのか?」
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「マッチョと言います。よろしくお願いします。」
「ツ、ツイグです。王様を前にして緊張しているっす!」
「龍族族長、マクドナルドだ。いちおう国ということになっているが、小さな里だ。族長と呼んでくれて構わない。」
けっこうフランクな人だな。ドワーフ国の里長もそうだったが、亜人というのは人間ほど面倒くさくないらしい。
「単刀直入に伺いますが、龍族は西の廃墟の祠が墓だということをご存じだったのですか?」
「うむ。どういう人物かは知らんがな。」
あのお墓を前にした時に違和感を感じた理由が分かった。廃墟の中にあるにも関わらず、あのお墓は綺麗だったのだ。龍族の人たちが手を入れてくれていたのだろう。
「人族にあそこが墓と知られるのは禁忌とされていた。我々にとって禁忌というものがどれほどの重さを持つものか、フェイスなら分かるだろう。」
「・・・殺されるかと思いましたよ。」
「里に来たのは正解だったな。お前以外だったら殺していたかもな。」
剣呑というか狂信的だな。ツイグがビビりまくっている。
「そこまでして人族に知られたくない理由というのは?」
「あの墓は初代人間王が直々に作ったとされている。そして我らがこの土地に住むにあたって、あの墓を未来永劫に大切にするように初代人間王に頼まれたと言われている。その際にくれぐれも人族にも他の種族にも他言するなと、我々の祖先が言われたのだろう。それがそのまま禁忌となったのだと思う。」
ふーむ。恩義もあるし頼まれたからそうするという龍族の言い分は理解できる。だが初代王はなぜ人族に知られてはいけないと思ったのだろうか?
「初代王は自分が消えたあとに内戦が起こることまで予想していたのかもしれない。墓の存在が誰かに利用されるのを嫌がったのだろう。」
内戦。人間国で他種族がドン引きするレベルでの内戦が起こったという話は聞いたことがある。
「よく今まで初代王のものだとバレませんでしたね。」
「初代王が消えたあとは問題も起きたらしい。我らの先祖が対処したと思うがな。」
探りを入れてきた人間を殺したということか。龍族って怖いな。
「あの墓のためにわざわざ人国の領土にまで入ってきていたということですか。」
「年に一度くらいだがな。だが今回はちょっと事情が違う。里の危機があるかもしれないので、いくつか部隊を作って里の周辺から見回りをさせていたのだよ。墓の周辺も問題があるかもしれないので調査をしていた。周辺警戒が終わったら人間国へと伝令にするつもりだったのだがな。」
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