異世界マッチョ

文字の大きさ
上 下
59 / 133

59 マッチョさん、スッキリする

しおりを挟む
 朝だ。野営とはいえ久々にぐっすりと眠ったら頭がスッキリした。身体も軽い。
 きちんとした食事、トレーニング、睡眠の三つは何がなんでも欠かせないものだな。
 軽くストレッチをする。疲労感はあるが、悪くは無い。

 万全とは言えない状態で何体も魔物を倒したと思うと、少しだけ強さというものへの実感が湧いてくる。体幹トレーニングを取り入れたタイミングが転換点だったと思う。あれをしっかりやり続けていたからこそ、大斧が思ったところに無意識で運べる。
 睡眠不足が酷くなるにつれて不機嫌というか無感情になってしまっていたが、フェイスさんに旅に誘われたことを感謝しないといけないな。とはいえやはりしっかりと眠りたいが。

 外に出るとフェイスさんが起きていた。もしかして一晩中歩哨をしていたのか?
 「よう、起きたか。」
 「フェイスさん、おはようございます。ずっと起きていたんですか?」
 「龍族の連中がオカしかったからなぁ。なにか仕掛けてくるとしたら夜だと思ったんだが、なにも無かったな。ツイグはどうした?」
 「まだ寝てますよ。よっぽど疲れていたのでしょう。」
 それは私もおなじだ。毎日こうまで歩いて戦闘を繰り返していたら、やはり足に来る。精神的にもキツくなる。
 「俺も少し眠っておく。一時間経ったら起こしてくれ。なにも起きないだろうが、いちおう歩哨頼むぞ。」
 「分かりました。」
 食事を作って食べながらでいいだろう。私は廃墟の入り口で朝食を作って食べた。ふたりの分は準備だけして、起きてから食べさせたらいいだろう。
 
 あれ。龍族の一人がこちらに来た。私はいちおう斧に手を伸ばす。
 「争う気は無い。話に来た。」
 無骨な物言いだな。
 「私とでしょうか、フェイスさんにでしょうか?」
 「あの石碑のことを知っている人間なら、誰でもいい。」
 じゃぁ私でいいか。フェイスさんは寝たばかりだしな。
 「あの石碑についてどこまで知っている?」
 答えてもいいだろう。
 「女性と子どものお墓、ということまでしか知りません。そもそもあの女性が誰なのかも分かっていません。」
 「お前たち以外に誰か石碑について知っている人間はいるか?」
 「石碑の存在自体は数人の人族が知っているはずです。書かれた内容については昨日知りました。」
 フェイスさんがパーティでここに来たときに見つけたのだ。パーティの一人であったルリさんも知っているだろうし、他のメンバーも知っているだろう。
 「・・・そうか。人間王は知っているのか?」
 「私には分かりません。」
 ん?王家が先祖のお墓を知らないなどということがあるのだろうか?
 「・・・そうか。朝食の邪魔をしたな。一時間後にはここを出て里に向かう。」
 「一時間半後にしてください。フェイスさんに伝えておきます。」
 朝食を摂る時間くらい大切にしなければ。
 「承知した。・・・フェイス?あの御仁はもしや鬼人フェイスか?」
 あの人そういう名前で呼ばれていたのか。
 「たぶん本人だと思います。」
 鬼人とまで呼ばれる人族はフェイスさん以外にいないだろう。

 フェイスさんが起きてツイグも起こし、朝食を食べてもらった。
 「さっき龍族の人が来て、お墓について少し聞かれましたよ。」
 「あー、うとうとしながら聞いてた。龍族の宗教が絡むと面倒だな。」
 「彼らの宗教とあの石碑は、なにか関係があるんでしょうか?」
 「分からん。それも族長に聞いてみないとな。」
 「マッチョさん、龍族ってほかの種族よりも精霊信仰が深いらしいんすよ。」
 ツイグでも知っている事なのか。深いというと?
 「アイツらの宗教では、水と一体化する修行を二百年以上続けて水の精霊の恩寵を受けられるという考え方のはずだ。長く辛い修行自体がアイツらの生活の一部でもある。」
 なるほど。私の龍族に対しての第一印象は、僧兵だ。あながち間違いでも無いだろう。
 「実際にその修行で水の精霊の恩寵が受けられたのでしょうか?」
 「さぁな。肝心なところは、そこまでやらないと精霊に認められないと、アイツらが本気で考えている点だ。精霊至上主義みたいな言い方をしてもいいかもな。」
 二百年の修行か。
 私は二百年も筋トレを続けられるだろうか?
 いや、愚問だな。
 寿命が続く限り、肉体が動く限り、私はトレーニングを続けるだろう。
 彼らにとって修行が生活の一部であるように、トレーニーにとって筋トレは人生の一部であるのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約破棄ですか? では、最後に一言申しあげます。

にのまえ
恋愛
今宵の舞踏会で婚約破棄を言い渡されました。

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人
SF
元気いっぱい恋する乙女の小学5年生 安部まりあ。 ある日突然彼女の前に現れたのは、願いを叶える魔獣『かがみん』だった。 まりあは、幼馴染である秋月灯夜との恋の成就を願い、魔力を授かり魔法少女となる決意を固める。 しかし、その願いは聞き届けられなかった。 彼への恋心は偽りのものだと看破され、失意の底に沈んだまりあは、ふとある日のことを思い出す。 夏休み初日、プールで溺れたまりあを助けてくれた、灯夜の優しさと逞しい筋肉。 そして気付いた。 抱いた気持ちは恋慕ではなく、筋肉への純粋な憧れであることに。 己の願いに気付いたまりあは覚醒し、魔法少女へと変身を遂げる。 いつの日か雄々しく美しい肉体を手に入れるため、日夜筋トレに励む少女の魔法に満ち溢れた日常が、今幕を開ける―――。 *小説家になろうでも投稿しています。 https://ncode.syosetu.com/n0925ff/

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...