異世界マッチョ

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53 マッチョさん、トレーニングのついでに護衛をする

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 里長とカイトさんが武器屋さんの指導を受けている。
 だがほとんど説明の必要は無かったようだ。ドワーフともなれば、昨日ちょっと見ただけで使い方が分かってしまうものなのか。職人たちが高炉の前で働いているあいだは私がヒマなので、適当な木を切り倒し、丁稚さんに腹筋台を作ってもらった。私が腹筋をしていない間はベンチになるだろう。
 里長とカイトさんが一振りずつ剣を作り、出来を確認する。
 「鉄を選ばせてもらったせいか、けっこういい出来だなぁ。ドロスに渡す剣はこれでいいか。けっこう軽いし。」
 「ウチの高炉で作るものよりもいい出来ですよ。研ぎ次第ではかなりの剣になるんじゃないんですか。」
 ドロスさん、試し打ちの剣を渡されるのか。
 
 「で、今日の本題はレンガだ。昨日カイトとも話したんだが、むかしのドワーフ王が高炉をここに作ったのは、原材料が近くにあるからなんじゃないのかと思ってなぁ。ドワーフ王ってのは鍛治の腕で選ぶことが多いんだが、たまに山見が上手い奴が選ばれることもあるんだ。」
 「色々焼いてみましょう。この辺で色の違う土を取ってきて、持ってきています。」
 「高炉の材料になるものが近くにあったから、ここに作ったと・・・なるほど。ドワーフの方はやはり考えることが違いますね。私はいい傾斜があるからここに作ったものだと思っていましたよ。」
 「レンガ材さえ分かれば、この高炉の補修もできるからなぁ。ジンカにも世話になっているし、ドワーフ王として、また数百年は使える高炉にしたいと思ってな。」
 「ありがとうございます!補修材さえ分かれば、まだまだ使えますよ。おい見ておけ!ドワーフの方が作るレンガなど、滅多に見られるもんじゃねぇぞ!」
 「ふぇい!」

 私以外の四人は盛り上がっているが、私は腹筋も追い込めたので近くの沢に行ってスクワットを始めた。目につくところにいたらいちおう護衛として仕事していることになるだろう。たぶん魔物も出ないだろうし。
 以前から川の流れの中でのスクワットには興味を持っていたのだ。どこかの空手道場の番組でこういうスクワットの仕方を見たことがある。実際にやってみると、これはなかなかにいいな。バランスを取らなくてはいけないので、足の指先にまで力が入る。力を入れないとあっという間に水の流れで転んでしまうだろう。体幹にまで同時に効いていることが分かるぞ。足の粘りがもう一段上がりそうだ。
 スクワットでの追い込みが終わったら、下半身の体幹トレーニングもやってみよう。川があるとトレーニングの幅が広がる。
 屋外で行うトレーニングも気持ちがいいものだな。

 「おお、やはり同じ色のレンガが出来たか。カイトの読み通りだったな。」
 「痛んでいたレンガにこれを使えばまだまだ使えそうですね。問題は接合部分ですが。」
 「この土でなにか容器状のものをつくればいいんじゃないでしょうか?冷えたらレンガと同じ強度になるでしょうし。」
 「温度が問題だなぁ。水で急冷させてもいいものかどうか、まずは作って試してみようか。」
 「・・・まったく凄い発想ですねぇ。一介の武器屋では思いつかないですよ。」
 「こういう高炉を使いこなせる時点で、ジンカは一介の武器屋っていうレベルじゃないだろう。ドワーフでもコイツを扱うには相当に苦労すると思うぞ。カイトは飛び切り腕がいいからなぁ。」
 
 下半身の体幹トレーニングも試してみる。
 まずは水の抵抗が無いところからだな。
 左足を身体の中央へ持ってきてバランスを取り片足で立つ。右足の膝は正面を向いたまま上に引き上げる。足首から先が糸で吊られているイメージだ。
 ぐっ、これは効く。十回程度が限度か。
 スクワットの前にこちらをやっておくべきだったな。スクワットで追い込んだ筋肉がぷるぷるしている。どうしてもやりたい順番でトレーニングをやってしまい、結果としてメニューが偏るあたりが、トレーニーとしての私の弱点でもある。
 できれば水の抵抗がある状態でもやってみたかったが、かなりのバランス感覚と足の粘りを必要とする。しかしこれをしっかりやっておけば、バーベルを持ち上げるときも下半身がブレないだろう。いいトレーニングを思い出して良かった。左足も十回、三セットずつやっておこう。

 「これで器はできたと。十個作って八個は割れるのか。土の調合具合によっては、多少良くなるかもなぁ。」
 「大親方、焼き入れ時間も短すぎるのかもしれませんね。じっくり時間をかけて、徹底的に水分を飛ばした方がいいかもしれません。」
 「ドワーフの方は土の見方も一流ですね。私は鉄ばっかりでして。」
 「建築材として使うからなぁ。どうにも俺らは木の家ってのが落ち着かなくてなぁ。」
 「土の見方は慣れればすぐにできると思いますよ。鉄を見極められたら土も見極められると、ドワーフの格言にあります。」
 「あとで教えていただきたいですね。」
 「うむ。それくらいのことはいくらでも教えるぞ。」
 「おい、お前も一緒に教わるんだ。人族でここまで土を読める人間なんかいないぞ!」
 「ふぇい!」

 上半身も鍛えたいな。
 せっかくベンチがあるので、大斧を使ってベンチプレスを行う。
 大斧が軽い。が、負荷の軽さは回数と上下動の速度で調整する。
 うむ。バッチリと効いてきた。二十回を一セットとして、三セット試してみよう。
 腕立て伏せよりはこちらの方がやはり私の性分に合っている。なによりベンチがあるだけで、筋トレしている感が強くなることが素晴らしい。
 上腕三頭筋もやっておこう。
 右手の肘を左手で固定し、右手の二の腕が身体にたいして直角になるようにする。ここから大斧を持って右肘をゆっくりと伸ばし、ゆっくりと縮める。
 うーむ、負荷が強すぎるか?十回もできないな。五回を一セットとして左右交互に鍛えていこう。できればもう少し軽いもので鍛えたほうが良さそうだが、あいにくと手持ちは大斧しかない。

 「接合材が厄介だな。そろそろ日も暮れて来たし、こっちは明日以降に回すか?」
 「そうですね。レンガのほうは目途がつきましたし。あとは精度ですね。木枠に入れて一気に作れば歩留まりも良くなるんじゃないでしょうか?」
 「問題は温度ですね。高炉が古くなっているので、場所によっては高温になりきらないかもしれませんよ。」
 「高炉内の温度が分からないのか。それならなおのこと、やはり木枠で一回試した方がいいな。焼け具合で高炉内のどこが高温になって、どこが低温になるか分かるんじゃないのか?」
 「ああ、そういうやり方もありますか。なるほど・・・」
 「じゃぁそれをやったら今日は上がりだな。おいマッチョ!お前ぜんぜんこっちを見ないな・・・鍛治仕事には興味はないのか?」
 「無いです。」
 「こんな面白ぇこと、そうそう無いと思うんだけれどなぁ・・・」
 職人四人組だって私のトレーニングになんの興味も示さなかったではないか。
 これは趣味嗜好の問題である。いや、宗教上の問題でもあるか。
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