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52 マッチョさん、久々に揚げ物を食す
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前菜のハム、ハムブルク、鶏むね肉のタベルナ村風ソースがけ。それに多めのお野菜をいただいた。
鶏むね肉のタベルナ村風ソースかけは、さらに完成度が上がっている。しっとり感としずる感がさらに増した。初めて食べるドワーフの二人は食べたとたんに奇声を上げて悶絶した。無理もない。
「さて。新作ですぞー!」
これは・・・トンカツか。上腕の半分くらいの大きさのヒレカツだな。揚げ物は摂取しないようにしているので少しがっかりした。
「マッチョさん、油はダメだという話でしたが少量ならいいでしょう。これは大丈夫だと思いますよ。先ほどのソースより少し多めの油しか使っていないので。お好みで塩をつけて召し上がってみてください。」
そんな揚げ料理があるのか?
「そうですか。村長さんが言うのでしたら、いただいてみます。」
先に食べたドワーフ王とカイトさんがさらに悶絶している。いや、そうは言ってもトンカツでしょう。
私も一口いただいた。
「むうっ!」
これは唸る味だ。声が出てしかるべき驚きだ。
私が知っているトンカツと味も香りもしずる感もまるで違う。どうなっているのだ?
もう一切れ食べてみる。ああ、ようやく分かった。蒸した豚料理に近い感触なのだ。
しかもこれは豚も違うな。野趣が強くて噛めば噛むほど肉の味が口の中に溢れだす。肉の厚さもいい。タンパク質にかぶりついている感覚を演出する食感だ。正直たまらない。
「どうです?いい豚が手に入ったので素材の味を生かそうと思ったんですが、調理の都合上この方法が最良でしてな。まだ誰にも食べさせていない料理なのですぞ。」
「信じられないくらい美味しいです。宗教上の理由で一皿しか食べられないのが残念ですが。」
「俺はおかわりが欲しいな。とんでもなく旨い豚料理だ。できれば脂身がついているところを食いたい。」
「僕にも親方と同じものをください。」
「マッチョさんのお客人でしたら、出せるだけ出しますぞ!」
ヒレカツよりもロースカツの方が美味しそうだが、これ以上の脂質の摂取は避けたい。
なるほど。本物のトンカツというものは油で揚げる目的が違うのか。
衣をクリスピーに仕上げることが目的ではない。
適度な調理温度で豚肉を衣と同時に揚げることによって、加熱の際に生じた豚肉の肉汁を徹底的に逃がさないようにできているのだな。旨さを逃がさない蒸し料理の一種と考えたほうがしっくりと来る。まったくこの村長さん、どういう料理の腕をしているのだ。
「いいなぁ、マッチョさんたち。村長の料理なんて食べたくてもなかなか食べられないんですよ?私や他の人たちがどう頑張ってお料理しても、村長と同じ味にはならないんですよねぇ。不思議ですけれど。」
いつぞやのマントをくれた女性だ。安定したいい筋肉の付き方をしている。トレーニングを続けているのだろう。
「週末に来られる人も食べられないんですか?」
「ええ。他の人がお料理していますから。村長は他にも仕事がたくさんありますしね。」
「これだけの腕なのですから、是非料理に専念してほしいですけれどね。」
「他の方や地方領主の方もそう言ってくださるのですが、なかなか村長ほどの能力を持った人というのがこれまた居なくて。そういう話をすると領主の方々は料理以上に村長に興味を持ってしまって、実務要員として引き抜こうとするんですよね。」
そりゃそうだろうなぁ。異常なまでの村の発展っぷりを見ると替えが効かない人材であることは間違いが無い。
「マッチョさんに来ていただいたのだ。今日はやれるだけ私が調理しますぞ!」
食堂が湧いた。
村長のレアごはんが食べられるのだ。そりゃ湧くだろう。
ついでに私も感謝されているが、なんだか気持ちが入っていない感謝のされ方だ。誰もが村長が作る料理のほうに夢中になっている。
かつての料理の発展は、国家や領主の外交に関わるものだったという話を聞いたことがある気がする。旨い料理を作る凄さというものもあるのだな。
ドワーフの二人もずいぶんと慣れたようだ。最初は人間国の集落ということで少し緊張していたようだが、お酒が入ったせいかずいぶんと和んで周囲の人たちと会話している。試作品の蒸留酒も提供されたので、里長は凝りもせずにドワーフ流の飲み比べを始めた。
「ちと酸っぱいが、これも旨いな。なんだこの村、天国なのか?」
すぐ近くに初代王の高炉までありますしね。
「次は俺がいかせてもらいます。ハイドさん、落ちてもらいますよ!何人も潰されてはタベルナ村の恥ですからね!」お酒で潰れたところで別に恥ではない。正直相手が悪すぎる。
「ドワーフ相手に連続式で勝負とは度胸もある。いい村だなぁ!」
すっかり里長は上機嫌だ。既に二人潰しているからだろうか。カイトさんの応援も熱が入る。
ようやく手が空いたようだ。村長が私のテーブルにやってきた。
「村長さん、ありがとうございました。美味しかったです。」
「新作を食べていただけるかヒヤヒヤしましたが、お口にあったようで良かったです。」
「ドワーフ国に向かう前に挨拶に来ましたが、村長さんはお留守でして。」
「ああ、聞いてますよ。最近は私の方が忙しくてすれ違いになってしまったようですな。豚舎の建築費、改めてありがとうございました。きちんとお支払いしますぞ。この村は最近人が多く来てくれて、思ってた以上に早くお金が貯まりそうなのですよ。滞在客用の新しい宿も作っているんですぞ。」
完全に村の規模では無くなっているな。なにもかもこのデキる男の手腕だ。
「凄い発展の仕方ですねぇ。」
「まだまだ大きくなると思いますぞ!魔王など出なければこの村はもっと潤いますぞ!」
魔王。そうか、ドワーフの里で勇者が出たことまで耳に入っているかもしれないな。だが、私がいろいろ説明していいものなのかどうか判断がつかない。
「ああそうそう。マッチョさんには相談なしに進めていたのですが、ハムを入れる樽にこういう焼き印を押してもいいでしょうかな?」
焼き印のデザインを見せてもらった。
バルクアップさせた広背筋だ。細部まで器用に再現してある。
「村の恩人ですからな。一番売れそうな商品の商標にしたいのですよ。」
私のマークが入った商品が売られるのか。
少し恥ずかしいが、悪くない。人間王も筋トレに関する知識を少しずつ公表していくという話だったし、トレーニングを広めるという意味で筋肉のマークはよい啓蒙にもなるかもしれない。
「よろしいですかな?」
「はい。やっちゃってください。」
「マッチョさん印のハム、売りまくりますぞ!」
その名前で売り出されるのは少し恥ずかしい。ああそうだ。ついでだからいまのうちに聞いておこう。
「旅先でハムブルクを食べたいのですが、調理法を教えてもらえますか?あれはどうも筋肉に特に効くようなので。」
「もちろんですぞ!あとで詳しい調理法を書いてお渡しします。ですがなんとか内密にお願いしますぞ!この村の名物料理ですからな!」
よい回復食の作り方を手に入れた。またトレーニングが捗る。
鶏むね肉のタベルナ村風ソースかけは、さらに完成度が上がっている。しっとり感としずる感がさらに増した。初めて食べるドワーフの二人は食べたとたんに奇声を上げて悶絶した。無理もない。
「さて。新作ですぞー!」
これは・・・トンカツか。上腕の半分くらいの大きさのヒレカツだな。揚げ物は摂取しないようにしているので少しがっかりした。
「マッチョさん、油はダメだという話でしたが少量ならいいでしょう。これは大丈夫だと思いますよ。先ほどのソースより少し多めの油しか使っていないので。お好みで塩をつけて召し上がってみてください。」
そんな揚げ料理があるのか?
「そうですか。村長さんが言うのでしたら、いただいてみます。」
先に食べたドワーフ王とカイトさんがさらに悶絶している。いや、そうは言ってもトンカツでしょう。
私も一口いただいた。
「むうっ!」
これは唸る味だ。声が出てしかるべき驚きだ。
私が知っているトンカツと味も香りもしずる感もまるで違う。どうなっているのだ?
もう一切れ食べてみる。ああ、ようやく分かった。蒸した豚料理に近い感触なのだ。
しかもこれは豚も違うな。野趣が強くて噛めば噛むほど肉の味が口の中に溢れだす。肉の厚さもいい。タンパク質にかぶりついている感覚を演出する食感だ。正直たまらない。
「どうです?いい豚が手に入ったので素材の味を生かそうと思ったんですが、調理の都合上この方法が最良でしてな。まだ誰にも食べさせていない料理なのですぞ。」
「信じられないくらい美味しいです。宗教上の理由で一皿しか食べられないのが残念ですが。」
「俺はおかわりが欲しいな。とんでもなく旨い豚料理だ。できれば脂身がついているところを食いたい。」
「僕にも親方と同じものをください。」
「マッチョさんのお客人でしたら、出せるだけ出しますぞ!」
ヒレカツよりもロースカツの方が美味しそうだが、これ以上の脂質の摂取は避けたい。
なるほど。本物のトンカツというものは油で揚げる目的が違うのか。
衣をクリスピーに仕上げることが目的ではない。
適度な調理温度で豚肉を衣と同時に揚げることによって、加熱の際に生じた豚肉の肉汁を徹底的に逃がさないようにできているのだな。旨さを逃がさない蒸し料理の一種と考えたほうがしっくりと来る。まったくこの村長さん、どういう料理の腕をしているのだ。
「いいなぁ、マッチョさんたち。村長の料理なんて食べたくてもなかなか食べられないんですよ?私や他の人たちがどう頑張ってお料理しても、村長と同じ味にはならないんですよねぇ。不思議ですけれど。」
いつぞやのマントをくれた女性だ。安定したいい筋肉の付き方をしている。トレーニングを続けているのだろう。
「週末に来られる人も食べられないんですか?」
「ええ。他の人がお料理していますから。村長は他にも仕事がたくさんありますしね。」
「これだけの腕なのですから、是非料理に専念してほしいですけれどね。」
「他の方や地方領主の方もそう言ってくださるのですが、なかなか村長ほどの能力を持った人というのがこれまた居なくて。そういう話をすると領主の方々は料理以上に村長に興味を持ってしまって、実務要員として引き抜こうとするんですよね。」
そりゃそうだろうなぁ。異常なまでの村の発展っぷりを見ると替えが効かない人材であることは間違いが無い。
「マッチョさんに来ていただいたのだ。今日はやれるだけ私が調理しますぞ!」
食堂が湧いた。
村長のレアごはんが食べられるのだ。そりゃ湧くだろう。
ついでに私も感謝されているが、なんだか気持ちが入っていない感謝のされ方だ。誰もが村長が作る料理のほうに夢中になっている。
かつての料理の発展は、国家や領主の外交に関わるものだったという話を聞いたことがある気がする。旨い料理を作る凄さというものもあるのだな。
ドワーフの二人もずいぶんと慣れたようだ。最初は人間国の集落ということで少し緊張していたようだが、お酒が入ったせいかずいぶんと和んで周囲の人たちと会話している。試作品の蒸留酒も提供されたので、里長は凝りもせずにドワーフ流の飲み比べを始めた。
「ちと酸っぱいが、これも旨いな。なんだこの村、天国なのか?」
すぐ近くに初代王の高炉までありますしね。
「次は俺がいかせてもらいます。ハイドさん、落ちてもらいますよ!何人も潰されてはタベルナ村の恥ですからね!」お酒で潰れたところで別に恥ではない。正直相手が悪すぎる。
「ドワーフ相手に連続式で勝負とは度胸もある。いい村だなぁ!」
すっかり里長は上機嫌だ。既に二人潰しているからだろうか。カイトさんの応援も熱が入る。
ようやく手が空いたようだ。村長が私のテーブルにやってきた。
「村長さん、ありがとうございました。美味しかったです。」
「新作を食べていただけるかヒヤヒヤしましたが、お口にあったようで良かったです。」
「ドワーフ国に向かう前に挨拶に来ましたが、村長さんはお留守でして。」
「ああ、聞いてますよ。最近は私の方が忙しくてすれ違いになってしまったようですな。豚舎の建築費、改めてありがとうございました。きちんとお支払いしますぞ。この村は最近人が多く来てくれて、思ってた以上に早くお金が貯まりそうなのですよ。滞在客用の新しい宿も作っているんですぞ。」
完全に村の規模では無くなっているな。なにもかもこのデキる男の手腕だ。
「凄い発展の仕方ですねぇ。」
「まだまだ大きくなると思いますぞ!魔王など出なければこの村はもっと潤いますぞ!」
魔王。そうか、ドワーフの里で勇者が出たことまで耳に入っているかもしれないな。だが、私がいろいろ説明していいものなのかどうか判断がつかない。
「ああそうそう。マッチョさんには相談なしに進めていたのですが、ハムを入れる樽にこういう焼き印を押してもいいでしょうかな?」
焼き印のデザインを見せてもらった。
バルクアップさせた広背筋だ。細部まで器用に再現してある。
「村の恩人ですからな。一番売れそうな商品の商標にしたいのですよ。」
私のマークが入った商品が売られるのか。
少し恥ずかしいが、悪くない。人間王も筋トレに関する知識を少しずつ公表していくという話だったし、トレーニングを広めるという意味で筋肉のマークはよい啓蒙にもなるかもしれない。
「よろしいですかな?」
「はい。やっちゃってください。」
「マッチョさん印のハム、売りまくりますぞ!」
その名前で売り出されるのは少し恥ずかしい。ああそうだ。ついでだからいまのうちに聞いておこう。
「旅先でハムブルクを食べたいのですが、調理法を教えてもらえますか?あれはどうも筋肉に特に効くようなので。」
「もちろんですぞ!あとで詳しい調理法を書いてお渡しします。ですがなんとか内密にお願いしますぞ!この村の名物料理ですからな!」
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