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50 マッチョさん、久々に丁稚さんを見る
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「親方ぁ、この重い箱なんなんですぁ・・・」
「いいから黙って運べ!俺もかついでいるだろうが!」
「ふぇーい・・・」
久しぶりに丁稚さんの顔も見た。なにやら重そうな箱を持って、一緒に山道を歩いている。
ここはタベルナ村から歩いて数十分ほど離れた山の近くだ。王都からソロウまで馬車で移動し、ソロウで丁稚さんと謎の箱を拾い、タベルナ村までやってきた。そこからは徒歩だ。
「武器屋さん、あとどれくらいで着くんですか?」
「もう間もなくですよ。」
ドワーフの二人はそわそわしている。そんなに高炉が気になるのか。
いや。私だってまだ使ったことのないマシンがあったら、同じように落ち着かないだろう。これは嗜好の問題だ。
「着きました。こちらです。」
「見たところただの土山ですが・・・」
「埋めてあるんですよ。この方が風化しづらいものでして。」
よく見ると周辺と土の色が少し違う。シャベルを使って私たちは交互に土を掘り返した。近くに沢があるのがありがたい。喉が乾いたらあれを飲めばいい。
「そろそろ出てきますので、最後は私が掘り返します。」
出てきた。私の大斧すら作り出せる巨大な高炉だ。
私はこれを知っていた。そう、焼き物に使う登り窯というやつではないだろうか?傾斜を利用して大きい窯を作るところをテレビで見た記憶がある。
ドワーフの二人は興味深そうに見ている。
「なるほど。傾斜地を利用して空気が入りやすいようにすることで火力を上げているのか。」
「排熱で風車を回して、さらに入っていく空気を増やすことってできませんかね?」
「炉の強度次第だろうなぁ。だがいい考えだ。」
「材料はこれ、なんなんでしょうか?珍しい石に見えますが。」
「・・・どっかで見たことがあるな。ああ、里にある炉が予想外に高温になった時に、土の一部がこういう発色をしていたことがあるぞ。何度も窯を作ってレンガを作らなくてはいけないと思っていたが、意外と数回でどうにかなるかもしれないな。」
技術話が盛り上がり過ぎて、私が話に入るスキがない。ん?丁稚さんの様子がおかしいな。
「お、お、お、親方ぁ、これって・・・」
「おう。ウチに伝わる高炉だ。これを使えばお前も一人前ってことだ。」
「いいんですかぁ?俺まだまだ分からないことだらけっすよ・・・」
「俺だって分からないことだらけだ。だがなぁ。知ろうっていう姿勢があれば、いつかは分かるもんだ。いつになるかは俺にも分からんが、お前なら分からんことでもいつか分かるようになるだろう。」
「あ、ありがとうございます!」
丁稚さんが泣いている。
「彼が一人前になる儀式も兼ねていたようだな。もしドワーフの里で技術を学びたいというなら、ワシが直々に教えるからいつでも来なさい。」
「ふぇぇ・・・ドワーフ王まで・・・ありがとうございます!」
「すいません。アホな弟子ですが、その時が来たらよろしくお願いします。良かったなぁオマエ。」
「ふぇい!」
「ってことは親方。この荷物の中身は・・・」
「おうよ。燃料だ。お前クチが軽いからなぁ。誰にも言うんじゃねぇぞ!」
「言うワケ無いじゃないですかぁ!」
どこかでぽろっと言いそうな言い方だ。
担いできた箱の中には黒い石が入っていた。これが燃料のようだ。ドワーフ王が手に取って見ている。
「・・・なんだこれ?」
「石炭っぽいですが、石炭じゃないみたいですね。なんですかね?」
「窯も秘伝ですが、その燃料も秘伝でして。まずは窯を開きます。おい、やり方しっかり見ておけよ!次はお前が窯を開くんだからな!」
「ふぇい!」
武器屋さんは柏手を二つ打ち、一礼してから燃料に火をつけ始めた。
まずは空炊き。マキで火力を上げていく。次に石炭。最後にさっきの謎の石だ。
「鉄をくれ。剣を作って試し打ちする。」
「ふぇい!」
ドワーフ二人も真剣に見ている。
鍛治仕事など私には分からないが、武器屋さんと丁稚さんの呼吸が合っていることだけは分かる。肉体労働の調和というものは、なにか筋肉に訴えかけるものがある。何度もハンマーで叩き、ひっくり返し、また叩く。高炉が立てる火の音と鉄を叩く音だけが甲高く山に響く。
「桶に水。忘れていた。急げ。」
「ふぇい!」
武器屋さんが器用に片手で濡れた手ぬぐい使い、顔を覆う。真っ赤な鉄の塊を桶に入れる。
「蒸気の量も質もいつもの仕事とは違う。安易に覗きこむなよ?顔が無くなるぞ。」
「ふぇ、ふぇい!」
鉄の塊は音と蒸気を出しながら、剣のかたちになってきた。
「まぁざっとこんなもんで。」
試作品が出来上がった。まだ冷え固まっていないが、剣だ。
「・・・想像以上だな。ここまでの火力が出るのか。」
「凄いですね。取り扱いに注意しないと、私たちも怪我しちゃいますよ。」
「荒い鉄で作ったので、まぁ強度は並よりやや強い程度でしょうな。ドワーフ王に見せるのもお恥ずかしいような品です。」
ドワーフ王は出来上がった剣のほうではなく、高炉のほうを見ている。
「・・・これ、いきなり鉄鉱石から鉄の塊を作るんじゃなくて、鉄鉱石をデカい釜みたいなものに入れて、鉄の純度を上げてやることもできるんじゃねぇか?釜の中で上下でうまいこと分離できるんじゃねぇのかな。」
「大親方。それって良質な鉄自体を作るってことですか?」
「おお。これだけ高温ならできるんじゃねぇかな?」
「で、その融けた鉄を入れる釜ってどうやって作ればいいんでしょう?」
「あーそうだな。どうやって作るかなぁ・・・」
武器屋さんが目を丸くしている。
「いやぁ、さすがはドワーフ王。凄い発想ですねぇ。そういう考え方はしたことが無かったなぁ・・・この炉の最高温度よりも、鉄が溶ける温度は少し低いハズです。炉と同じ素材で、釜というか入れ物状のものを作ればいいのではないでしょうか?」
「おおお、いいかもなぁ。やってみる価値はありそうだな。」
あれこれと議論をしている鍛冶屋さんやドワーフ王を見て、私は前にいた世界のことを思い出していた。かつて私は仲間と筋肉について語り合っていた。どこをどう鍛え上げ、その結果どういう見た目になるのか議論していたのだ。トレーニング自体も楽しかったが、そういう議論自体も筋肉にとって良いことだったと思う。
私も彼らのように、筋肉について語る相手がこの世界でも作れるのだろうか?
「いいから黙って運べ!俺もかついでいるだろうが!」
「ふぇーい・・・」
久しぶりに丁稚さんの顔も見た。なにやら重そうな箱を持って、一緒に山道を歩いている。
ここはタベルナ村から歩いて数十分ほど離れた山の近くだ。王都からソロウまで馬車で移動し、ソロウで丁稚さんと謎の箱を拾い、タベルナ村までやってきた。そこからは徒歩だ。
「武器屋さん、あとどれくらいで着くんですか?」
「もう間もなくですよ。」
ドワーフの二人はそわそわしている。そんなに高炉が気になるのか。
いや。私だってまだ使ったことのないマシンがあったら、同じように落ち着かないだろう。これは嗜好の問題だ。
「着きました。こちらです。」
「見たところただの土山ですが・・・」
「埋めてあるんですよ。この方が風化しづらいものでして。」
よく見ると周辺と土の色が少し違う。シャベルを使って私たちは交互に土を掘り返した。近くに沢があるのがありがたい。喉が乾いたらあれを飲めばいい。
「そろそろ出てきますので、最後は私が掘り返します。」
出てきた。私の大斧すら作り出せる巨大な高炉だ。
私はこれを知っていた。そう、焼き物に使う登り窯というやつではないだろうか?傾斜を利用して大きい窯を作るところをテレビで見た記憶がある。
ドワーフの二人は興味深そうに見ている。
「なるほど。傾斜地を利用して空気が入りやすいようにすることで火力を上げているのか。」
「排熱で風車を回して、さらに入っていく空気を増やすことってできませんかね?」
「炉の強度次第だろうなぁ。だがいい考えだ。」
「材料はこれ、なんなんでしょうか?珍しい石に見えますが。」
「・・・どっかで見たことがあるな。ああ、里にある炉が予想外に高温になった時に、土の一部がこういう発色をしていたことがあるぞ。何度も窯を作ってレンガを作らなくてはいけないと思っていたが、意外と数回でどうにかなるかもしれないな。」
技術話が盛り上がり過ぎて、私が話に入るスキがない。ん?丁稚さんの様子がおかしいな。
「お、お、お、親方ぁ、これって・・・」
「おう。ウチに伝わる高炉だ。これを使えばお前も一人前ってことだ。」
「いいんですかぁ?俺まだまだ分からないことだらけっすよ・・・」
「俺だって分からないことだらけだ。だがなぁ。知ろうっていう姿勢があれば、いつかは分かるもんだ。いつになるかは俺にも分からんが、お前なら分からんことでもいつか分かるようになるだろう。」
「あ、ありがとうございます!」
丁稚さんが泣いている。
「彼が一人前になる儀式も兼ねていたようだな。もしドワーフの里で技術を学びたいというなら、ワシが直々に教えるからいつでも来なさい。」
「ふぇぇ・・・ドワーフ王まで・・・ありがとうございます!」
「すいません。アホな弟子ですが、その時が来たらよろしくお願いします。良かったなぁオマエ。」
「ふぇい!」
「ってことは親方。この荷物の中身は・・・」
「おうよ。燃料だ。お前クチが軽いからなぁ。誰にも言うんじゃねぇぞ!」
「言うワケ無いじゃないですかぁ!」
どこかでぽろっと言いそうな言い方だ。
担いできた箱の中には黒い石が入っていた。これが燃料のようだ。ドワーフ王が手に取って見ている。
「・・・なんだこれ?」
「石炭っぽいですが、石炭じゃないみたいですね。なんですかね?」
「窯も秘伝ですが、その燃料も秘伝でして。まずは窯を開きます。おい、やり方しっかり見ておけよ!次はお前が窯を開くんだからな!」
「ふぇい!」
武器屋さんは柏手を二つ打ち、一礼してから燃料に火をつけ始めた。
まずは空炊き。マキで火力を上げていく。次に石炭。最後にさっきの謎の石だ。
「鉄をくれ。剣を作って試し打ちする。」
「ふぇい!」
ドワーフ二人も真剣に見ている。
鍛治仕事など私には分からないが、武器屋さんと丁稚さんの呼吸が合っていることだけは分かる。肉体労働の調和というものは、なにか筋肉に訴えかけるものがある。何度もハンマーで叩き、ひっくり返し、また叩く。高炉が立てる火の音と鉄を叩く音だけが甲高く山に響く。
「桶に水。忘れていた。急げ。」
「ふぇい!」
武器屋さんが器用に片手で濡れた手ぬぐい使い、顔を覆う。真っ赤な鉄の塊を桶に入れる。
「蒸気の量も質もいつもの仕事とは違う。安易に覗きこむなよ?顔が無くなるぞ。」
「ふぇ、ふぇい!」
鉄の塊は音と蒸気を出しながら、剣のかたちになってきた。
「まぁざっとこんなもんで。」
試作品が出来上がった。まだ冷え固まっていないが、剣だ。
「・・・想像以上だな。ここまでの火力が出るのか。」
「凄いですね。取り扱いに注意しないと、私たちも怪我しちゃいますよ。」
「荒い鉄で作ったので、まぁ強度は並よりやや強い程度でしょうな。ドワーフ王に見せるのもお恥ずかしいような品です。」
ドワーフ王は出来上がった剣のほうではなく、高炉のほうを見ている。
「・・・これ、いきなり鉄鉱石から鉄の塊を作るんじゃなくて、鉄鉱石をデカい釜みたいなものに入れて、鉄の純度を上げてやることもできるんじゃねぇか?釜の中で上下でうまいこと分離できるんじゃねぇのかな。」
「大親方。それって良質な鉄自体を作るってことですか?」
「おお。これだけ高温ならできるんじゃねぇかな?」
「で、その融けた鉄を入れる釜ってどうやって作ればいいんでしょう?」
「あーそうだな。どうやって作るかなぁ・・・」
武器屋さんが目を丸くしている。
「いやぁ、さすがはドワーフ王。凄い発想ですねぇ。そういう考え方はしたことが無かったなぁ・・・この炉の最高温度よりも、鉄が溶ける温度は少し低いハズです。炉と同じ素材で、釜というか入れ物状のものを作ればいいのではないでしょうか?」
「おおお、いいかもなぁ。やってみる価値はありそうだな。」
あれこれと議論をしている鍛冶屋さんやドワーフ王を見て、私は前にいた世界のことを思い出していた。かつて私は仲間と筋肉について語り合っていた。どこをどう鍛え上げ、その結果どういう見た目になるのか議論していたのだ。トレーニング自体も楽しかったが、そういう議論自体も筋肉にとって良いことだったと思う。
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