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47 マッチョさん、イラつく
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王都に着くと、例によって謁見の間に通された。
モストマスキュラーはもう必要ないだろう。なんだかこういう環境にも慣れてきた。
私が先頭に立って進み、ドワーフ王とドワーフたちがその後に続く。ドワーフ王は立ったままだ。人間王と対等だという立場を取らないといけないのだろう。
「報告は受けている。ずいぶんと収穫が多かったようだな、マッチョ。」
「はい。色々分かったことはありますが、より分からなくなったこともあります。」
「たしかにそうだな。」
ん?
なんだか王がデカく見える。固有種を倒した余裕なのだろうか。
いや違うっ!
コイツっ、肩と背筋の筋肥大に成功してやがるっ!
バーンマシンをコツコツと使っていたのだろう。わざわざ見せたいと言っていたのはこれか?これのことか?
私はゆっくりと息を吐いた。
アタマに来てはいけない。相手は王なのだ。出し抜かれたとしても怒ってはいけない。
だが腹立たしい。私が働いている時に、なにを悠長に筋トレに精を出しているのだ。
こういう手会いは元にいた世界にもいた。
私はかつてこういう人間にどう対処していただろうか?
・・・!?
異世界じゃなくても普通にムカついていただけではないか!
なぜこういうマウントが腹立たしいのか分からない。もはやトレーニーの本能と言ってもいいだろう。
落ち着かないが、落ち着け。
私はこの謁見の場できちんと対処できたのだろうか。怒りで沸騰しそうなところに、チラチラ見える上腕二頭筋が余計に腹だたしい。ドワーフ王がなにやら話し、私もなにか話したと思う。が、なにを話したのかまるで憶えていない。私がイラついている間に謁見は終わった。
別室で王やドワーフたちと話す。フェイスさんと一緒に異世界人だとか初代王の話をした部屋だ。
「とりあえずドワーフ国からの依頼はだいたいこれで終わりだ。人間領内の鉱山探索には軍の者を同行させるが、それで異論は無いな?」
「材料が手に入るってんならそれで大丈夫だ。お前ら、いい山を見つけて来いよ?」
「はい!」
立派な山師のドワーフたちだ。きっと良質な鉱山を見つけるだろう。
「で、今日の本題は初代王の時代の高炉だ。まさか俺の領土にそんなたいそうなものがあるとはな・・・」
「俺もマッチョに聞いてビックリした。あ、お前らもう下がって休ませてもらえ。仕事の準備ができたら明日からでも始めてくれ。カイトだけここに残れ。」
山師ドワーフたちが挨拶をして別室に案内されていく。人間国というか、この城の華麗さに目を回していたな。無理もない。
「で、マッチョが使っている大斧がその高炉で作ったものなのか。マッチョ、見せてもらえるか?」
「はい。どうぞ。」
「ふぉっ!」重いとは言いたくないらしい。気になりだしたらそういう細かいところまで腹が立ってくるな。
「ふーむ、立派なものなのは分かるが、これがそこまで凄い斧なのか?」
「素人目には分かりづらいかもしれないな。いつだったか人間国の国宝の剣を見せてもらっただろう?たぶん同じ高炉で作ってある。切れ味も同じレベルだと考えてもらっていい。」
「あれと同じレベルか・・・ふむ、私も興味が出てきた。よし、すぐにでもその武器屋をこの城へやってくるように手配しよう。」
「それと人間王。ワシとこのカイトに、その高炉を使う許可をくれんか?本当に初代王の時代の高炉があるのなら、是非とも使いたい。もちろん武器も提供する。」
「はっはっはっ!勿論だ!ドワーフに使わせずに誰に使わせるというのだ?高炉の調査もやってもらって構わないし、ドワーフ国に高炉を作ってもいい。まぁその武器屋が教えてくれたらだがな。」
「・・・今回は借りができたようだな。」
「なに。武器でも防具でもしっかり作ってもらって、借りは返してもらう。ところでマッチョ。俺になにか言うことがあるんじゃないのか?」
クソッ!なにをニヤニヤしていやがる?
「・・・腕と背中が見事に鍛えられていますね。大きくなっています。」
「そうだろう!例の宝具のおかげでうまいこと鍛え上げられてな!早くお前にも見せたいと思っていたのだ!」
魔王の脅威の話とか、もうどうでもよくなっているなコイツ。
筋肉が私よりもまだ小さいという一点だけが、私を少しずつ落ち着かせた。まぁ少しずつだが。
そもそもトレーニーはトレーニングをすること自体が当たり前のことなのだ。王の成長を素直に喜ぶべきなのだろう。忙しさはトレーニングを怠る理由にはならない。
なにより今の王の筋肉の真価を知る人間は、この異世界において私以外にいないだろう。王にとって、初めて筋肉の価値や質を知る人間が私なのだ。そう思うと苛立ちも少しだけ収まる。まぁ少しだけだが。
「ああそうだ。カイト、あれを出してくれ。」
「分かりました。」
箱から出されたものは、私も図で見憶えがあるものだ。
「これは・・・なんだ?」
「マッチョが言うには、初代人間王が愛用していた武器らしい。近接戦闘用のものだな。今回は世話になるんで、手土産のひとつでもと思って作ってきたんだ。」
「・・・これが初代王の武器か!恩に着るぞドワーフ王よ!」
ずいぶんとご満悦だ。
人間王にとって、初代人間王は憧れの存在のようだ。
私にとってのランドクルーザー岡田みたいなものだろう。
つい最近、なんだか雑に扱った気もするが。
モストマスキュラーはもう必要ないだろう。なんだかこういう環境にも慣れてきた。
私が先頭に立って進み、ドワーフ王とドワーフたちがその後に続く。ドワーフ王は立ったままだ。人間王と対等だという立場を取らないといけないのだろう。
「報告は受けている。ずいぶんと収穫が多かったようだな、マッチョ。」
「はい。色々分かったことはありますが、より分からなくなったこともあります。」
「たしかにそうだな。」
ん?
なんだか王がデカく見える。固有種を倒した余裕なのだろうか。
いや違うっ!
コイツっ、肩と背筋の筋肥大に成功してやがるっ!
バーンマシンをコツコツと使っていたのだろう。わざわざ見せたいと言っていたのはこれか?これのことか?
私はゆっくりと息を吐いた。
アタマに来てはいけない。相手は王なのだ。出し抜かれたとしても怒ってはいけない。
だが腹立たしい。私が働いている時に、なにを悠長に筋トレに精を出しているのだ。
こういう手会いは元にいた世界にもいた。
私はかつてこういう人間にどう対処していただろうか?
・・・!?
異世界じゃなくても普通にムカついていただけではないか!
なぜこういうマウントが腹立たしいのか分からない。もはやトレーニーの本能と言ってもいいだろう。
落ち着かないが、落ち着け。
私はこの謁見の場できちんと対処できたのだろうか。怒りで沸騰しそうなところに、チラチラ見える上腕二頭筋が余計に腹だたしい。ドワーフ王がなにやら話し、私もなにか話したと思う。が、なにを話したのかまるで憶えていない。私がイラついている間に謁見は終わった。
別室で王やドワーフたちと話す。フェイスさんと一緒に異世界人だとか初代王の話をした部屋だ。
「とりあえずドワーフ国からの依頼はだいたいこれで終わりだ。人間領内の鉱山探索には軍の者を同行させるが、それで異論は無いな?」
「材料が手に入るってんならそれで大丈夫だ。お前ら、いい山を見つけて来いよ?」
「はい!」
立派な山師のドワーフたちだ。きっと良質な鉱山を見つけるだろう。
「で、今日の本題は初代王の時代の高炉だ。まさか俺の領土にそんなたいそうなものがあるとはな・・・」
「俺もマッチョに聞いてビックリした。あ、お前らもう下がって休ませてもらえ。仕事の準備ができたら明日からでも始めてくれ。カイトだけここに残れ。」
山師ドワーフたちが挨拶をして別室に案内されていく。人間国というか、この城の華麗さに目を回していたな。無理もない。
「で、マッチョが使っている大斧がその高炉で作ったものなのか。マッチョ、見せてもらえるか?」
「はい。どうぞ。」
「ふぉっ!」重いとは言いたくないらしい。気になりだしたらそういう細かいところまで腹が立ってくるな。
「ふーむ、立派なものなのは分かるが、これがそこまで凄い斧なのか?」
「素人目には分かりづらいかもしれないな。いつだったか人間国の国宝の剣を見せてもらっただろう?たぶん同じ高炉で作ってある。切れ味も同じレベルだと考えてもらっていい。」
「あれと同じレベルか・・・ふむ、私も興味が出てきた。よし、すぐにでもその武器屋をこの城へやってくるように手配しよう。」
「それと人間王。ワシとこのカイトに、その高炉を使う許可をくれんか?本当に初代王の時代の高炉があるのなら、是非とも使いたい。もちろん武器も提供する。」
「はっはっはっ!勿論だ!ドワーフに使わせずに誰に使わせるというのだ?高炉の調査もやってもらって構わないし、ドワーフ国に高炉を作ってもいい。まぁその武器屋が教えてくれたらだがな。」
「・・・今回は借りができたようだな。」
「なに。武器でも防具でもしっかり作ってもらって、借りは返してもらう。ところでマッチョ。俺になにか言うことがあるんじゃないのか?」
クソッ!なにをニヤニヤしていやがる?
「・・・腕と背中が見事に鍛えられていますね。大きくなっています。」
「そうだろう!例の宝具のおかげでうまいこと鍛え上げられてな!早くお前にも見せたいと思っていたのだ!」
魔王の脅威の話とか、もうどうでもよくなっているなコイツ。
筋肉が私よりもまだ小さいという一点だけが、私を少しずつ落ち着かせた。まぁ少しずつだが。
そもそもトレーニーはトレーニングをすること自体が当たり前のことなのだ。王の成長を素直に喜ぶべきなのだろう。忙しさはトレーニングを怠る理由にはならない。
なにより今の王の筋肉の真価を知る人間は、この異世界において私以外にいないだろう。王にとって、初めて筋肉の価値や質を知る人間が私なのだ。そう思うと苛立ちも少しだけ収まる。まぁ少しだけだが。
「ああそうだ。カイト、あれを出してくれ。」
「分かりました。」
箱から出されたものは、私も図で見憶えがあるものだ。
「これは・・・なんだ?」
「マッチョが言うには、初代人間王が愛用していた武器らしい。近接戦闘用のものだな。今回は世話になるんで、手土産のひとつでもと思って作ってきたんだ。」
「・・・これが初代王の武器か!恩に着るぞドワーフ王よ!」
ずいぶんとご満悦だ。
人間王にとって、初代人間王は憧れの存在のようだ。
私にとってのランドクルーザー岡田みたいなものだろう。
つい最近、なんだか雑に扱った気もするが。
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