異世界マッチョ

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46 マッチョさん、トレーナーになる

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 ロキさんはよき生徒だった。規律を重んじ、賢い。ロキさんの性格は必ず筋肉の成長につながる。
 まずはスクワット、腹筋、背筋、腕立て伏せだ。ギリギリまで追い込める回数を三回ずつこなす。
 次に体幹だ。軽いうちから取り入れたほうが体幹は強くなるだろう。地味だがこの世界では必要な筋肉だ。
 有酸素運動も取り入れた。心拍120超えをスタート時間にして、最初は15分走。最終的には45分走にして、脂肪燃焼効果と瞬発力を手に入れたい。
 食事がやや塩分過多であることはトレーニングに関してはいいことだろう。汗まみれになりながらトレーニングをするのだ。塩分補給もしっかりやっておいた方がいいだろう。
 そして実践トレーニング。他のドワーフたちに混じって斧の使い方を教えてもらっていたが、まだ実戦には早すぎたようだ。動き自体は既に精霊の恩寵のおかげで頭では理解できているようだが、実行するための肉体がまだついていない。しばらくは素振りや的当てでトレーニングを積んでもらうことにした。
 なにを始めるのであれ、最初が肝心だ。やり始めた時が一番伸びる。ロキさんの肉体は強く逞しく育っていくだろう。

 意外とドワーフの里はトレーニング環境として悪くは無い。
 タンパク質は必ずあるし、トレーニング機材は作ればよい。
 とりえあえず腹筋台を作ってもらいながら、メモのテキストから簡単な辞書を作っていった。よくよく読むと、どうも機材やら機械に関しての英語は初代王も適当に書いたように思える。それが結果的に天然の暗号文になってしまっている。このパーツの形がどうとか図を見てもらいながらカイトさんに説明し、用語をひとつひとつ解読していった。実際にパーツを作ってもらってみて、図と私のトレーニングマシンの知識と里長の知見を合わせながら、マシンを作っていく。
 腹筋台は作れたが、チンニングマシンとなるとなかなか難しかった。やはり精度が出ないとああいう動きのあるマシンは難しいのだ。バーンマシンなどよく作れたものだ。他のマシンの作成は後日の課題になる。
 バーベルと重りはけっこう簡単にできた。基準になる重ささえできれば、1kg単位のように適当に作ればいい。材料を倍にしたら倍の重さになるのだ。ロキさんもトレーニングが捗るだろう。私のトレーニングも捗る。

 ロキさんにトレーニングの指導をしながら気づいたことがある。
 以前、人間王のトレーニングルームに入ったときに違和感を感じていたが、ようやくその正体が分かった。
 チェストプレスが無いのだ。
 あれだけトレーニング機材に拘っていた初代王が、基本とも言えるマシンを作らなかった理由がようやく分かった。初代王は大胸筋をあえて鍛えなかったのだ。
 格闘家は大胸筋を鍛えない人が多い。単純に胸に筋肉がついていると、腕を振り回しにくいからだ。戦うことを職業とする上では必要のない重さと物体になる。
 たしかに私も斧を横に振り回すときに、大胸筋が当たって振り幅が小さくなる。が、その小さな振り幅で戦うことはコンパクトに武器を用いることにもつながるので、悪いことばかりではないと思っている。

 ロキさんとともにトレーニングを終えると、今度はロキさんがドワーフの後輩に牛のことについて教えた。
 ドワーフの牛たちは後輩に任せて、ロキさん自身が人間国に畜産を教えに来てくれるそうだ。魔物災害でかなりの牛がやられたと思ったのだが、意外と逃げ切っては戻ってきていた。ロキさんは戻って来た一頭一頭の見分けがつくようで、ずいぶんと喜んでいた。
 精霊の恩寵を賜った勇者を里長が外に出すのだろうかと思ったが、どうやら逆のようだ。
 「ロキには里を出て人間国に行ってもらう。勇者としての見分も深めてもらわなくてはいけないし、人間国からならどこに魔王やら固有種やらが出たとしても、対処がしやすくなるからな。固有種も倒したことだししばらくは平和だろう。まぁ里は俺たちがなんとかするから任せておけ。」とのこと。
 里長も本格的に魔王について考え始めたらしい。

 トレーニングに翻訳にと里で忙しくしているうちに、人間国からたっぷりの鉄鉱石と石炭、それに使者がやって来た。ドワーフ王を国賓として招待する旨、私をドワーフ王の護衛にする旨、それに人間国の鉱山をドワーフに見てもらうために数人を招待する旨が書かれた正式な書類だ。
 仕事として私がドワーフの里に留まっていることは分かるが、とっとと帰ってこいという意味なのだろう。一カ月以上も王都を離れていたのだ。こちらに来たら来たでやる事も確認することも多すぎた。
 畜産技術を教えるためにドワーフの里にロキさんが残ることを確認した旨もしっかり書いてあった。
 ロキさんの準備が整い次第、いつでもロキさんを人間国に招待する旨も書かれていた。

 ロイスさんとの事務的な話が終わってから、私は使者の方と話をした。
 「私が離れて一カ月ほどですが、なにか人間国でありましたか?」
 「魔物災害に珍しく固有種が出たので、王と精鋭近衛兵で撃破しました。それくらいでしょうかね。盛り上がりましたよ。」
 固有種を倒す程度には人間王は強いのか。まぁなかなか鍛えられた肉体だったからな。その程度のことはできてしまうだろう。王都に引きつけてわざと災害を起こすという話を以前どこかで聞いた気がする。固有種が出たのはイレギュラーだったのだろうが、魔物災害自体が人間王の強さを示すイベントみたいになっているのか。
 「王から私になにか言付けみたいなものはありますか?」
 「やる事があって留まっていることは分かるが、戻って来られるようなら見せたいものがあるので戻ってこい、という話でしたね。」
 なんだろう。

 私と里長とカイトさん、それに加えて山見が得意な鉱山系ドワーフ数人。
 使者の人が帰国するのに合わせて、一緒に人間国へ向かうことになった。
 「そういえば、街道整理をしっかりされていたようですね。こちらに来る途中からしっかりとした街道が出来ていて驚きましたよ。」
 「毎年人間国にドワーフの長が行くことは決まっていたからなぁ。俺たちの領土の分だけでも街道を作っておいた方が、毎年ラクできるだろう?若い連中が魔物を倒したり街道用の石を作ったりする研修にちょうどいいってんで、毎年少しずつ直していってたんだよ。けっこう立派なモンだろう?」
 とくに人間国や種族としての人間について思い入れがあったワケではなく、ドワーフ族なりの理由というものがあったのか。
 種族間の交流がどうとか適当なことを言っていたのは誰だったのだろうか。
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