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45 マッチョさん、わずかに歴史を紐解く
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石碑についてのちにロキさんに聞いたところ、やはり石碑の近くで襲われた気がするという話だった。ロキさんは恐怖と怒りに囚われていたのだ。場所まであまり正確には憶えていないのだろう。
「石碑についてはよく知っています。あのあたりは私が牧草地として使っていた場所なので。」
「あの石碑自体は、ドワーフ族に広く知られたものだったのですか?」
「なにか書いてあって、それが初代人間王によるものだということは知られていましたが、あまり興味を持つ人もいませんでした。なにか記念碑的なものなのだろう程度の感覚でしたね。」
歴史とともにその役割も忘れられてしまったということか。
石碑の話を里長にも話したら、実際に見てみたいということなので連れて行った。
「ここか。そういやこんなのがあったな、くらいにしか思っていなかったよ。どれ・・・」
里長が祈りを捧げる。なにも起きない。
「うーん、なにかが足りないみたいだな。もしかしたらドワーフに一人だけしか勇者が産まれないのかもしらんし。まぁマッチョが見つけて読んだんだ。たぶんここでの祈りが精霊に通じたんだろうなぁ。」
「他にこういう、文らしきものが書かれた石碑というものはどこかにありませんか?」
「いや、俺たちの領土の中ではここだけだろう。他は山ばっかりだしなぁ。」
新しいことはなにも分からなかった。
ロキさんが回復するまで初代王のテキストの解読作業でもやろうかと思ったのだが、これがけっこうな難題だった。技術的なテキストなので私では分からないのだ。スケッチから推測しようにも、私にはこの手の素養が無い。スケッチにはトレーニング機材の設計図もあった。こちらは私にも仕組みは分かるが、細かい用語が分からない。
一度王都へ戻った時に、解読チームの中から技術文書に強い人間を引っ張ってきて解読してもらうしか方法が無さそうだ。が、解読チームのメンバーは学者然としていてあまり筋肉質では無い。ドワーフたちに受け入れてもらえればいいのだが。
里長は早く人間国の高炉を見たいと言いだした。
数百年も機能するようなトレーニングマシンを作れるほどの高炉なのだ。技術者としてそりゃ血が騒ぐだろう。その高炉で里長の大業物を作ることになるかもしれない。
だがさすがに私でも、一国の国王が勝手に他国をふらふらしていいかどうかくらいの分別はつく。
とりあえずはドロスさんが出立するついでに、ドワーフ王が高炉を探すために人間国を訪れる旨を人間王に伝えてもらい、許可が出たら行くということで納得してもらった。他国の王なのだ。警護も必要だろう。
ロキさんは無事に回復した。
腱が傷ついていないか心配だったが、どうやら厚い筋肉に守られて無事だったらしい。
私の差し入れも効果的なようだった。まさかタベルナ村のハムがこういう局面で役に立つとは思わなかった。回復食というものはいつだって準備しておくものなのだな。
「そういえばなにか映像を見たんですよね。その後なにか分かりましたか?」
例えば魔王の見た目とか。
「なんでしょう。魔王と戦うというのに、みな楽しそうでしたね。仲が良かったのでしょう。ニャンコ族、龍族、人族、エルフ族、ドワーフ族。」
ちょっと待て。多種族でパーティを組んだなどという話は聞いてないぞ。
「里長。魔王を封印したパーティって今ロキさんが言ったメンバーで間違いないですか?」
「いや、俺も初めて聞いた。ロキ、そのメンバーで間違いないか?」
「はい。僕もちょっと不思議だったのでしっかりと憶えています。」
なにがどう不思議なのだ?
「不思議というと、なにが不思議だったのですか?」
「ああ、マッチョはなんか遠い国から来たんだったな。この大陸の人間ならよく知っているが、種族間で仲が悪いんだ。俺たちは特にエルフ族が苦手でなぁ。戦争したこともあるらしい。」
「龍族とニャンコ族の仲も悪いと聞いています。」
「広く知れ渡っているからなぁ。お互いに近くに居たら戦争になってしまうっていうんで、初代人間王がお互いに近くに住まないように、人間国を中心として東西南北バラバラに住まわせたんだよ。どの種族にとっても住みやすい環境をわざわざ探してくれてな。」
そこまで仲が悪いのか。
「輪の中心にはいつも人間がいたビジョンが見えたので、初代人間王が種族間の橋渡しをしてくれていたのかもしれませんね。」
ふーむ。伝説的な英雄とか超人という言葉さえ陳腐に聞こえる。初代王は千年続くような大陸の安定したあり方まで模索していたのだろう。
「そのパーティ全員が精霊の恩寵を受けた状態のビジョンが、ロキさんには見えたんでしょうか?」
「いえ。精霊の恩寵を受けられるには時間制限があるようです。それもビジョンで示されました。でも、人間王は長時間にわたって恩寵を受け続けられたみたいですね。」
人間王と他の種族でなにが違っていたのだろうか。
「人間王の見た目とか特徴は分かりますか?」
「恩寵がない状態でも筋肉質でした。あと、なにか手に持っていましたけれど、あれ武器なんでしょうかね?」
筋肉質。やはり筋トレが精霊の恩寵の反動を和らげるようだ。そして反動が和らぐからこそ、精霊は初代王に長い時間の精霊の恩寵を与えたのだろう。
それにしても、分かりやすい武器を持っていない?まさか手ぶらで魔王を封印しにいったのか?
いや。初代王はバーンマシンを使っていた。それにドワーフ族に残された手記に、アレが書いてあった。
「ちょっと待っててください。」
私は個室から手記を持ってきて、ロキさんに見せた。
「手元にこういうものを持っていませんでしたか?」
「ああ、持っていました。これ武器だったんですか。」
「殴るとか蹴るとか投げるに特化した武器です。」
バーンマシンは格闘家がよく用いるトレーニング用具だ。つまり初代人間王は格闘家として魔王と対峙したのだ。そしてこのメモ。ちょっと変わったダンベルなのかと思ったが、これはおそらく人間王専用の武器、ナックルだ。
「ちょっと俺にも見せてくれ。ふーん、超近接用の格闘武器か。距離も取らないで魔物やら魔王に向かっていくなんて、凄いというよりも少しネジが飛んでいたのかもな。」
「少し違うかもしれません。初代王は武器を扱う素養が無かったのではないでしょうか?殴るや投げるでしたら、私の国にも教え方というものがありますし。」
私も武器の扱い方が分からなかったから、なんとなくルリさんの趣味で斧使いになってしまったのだ。
「ああ、剣とか槍に慣れてなかったってことか。たしかに子どもの頃から遊んでいなかったら、手慣れた道具の方が熟達が早くなるか。それに魔法を使われたら距離を詰めるしかないし、近接武器の方が都合が良かったのかもな。これならウチの高炉でも作れるぞ。切れ味も関係ないし、剣や槍のように薄く作る必要も無いからな。硬度だけは保証できんが。」
「では人間王へのお土産に作っていただけませんか?初代王の武器を再現したと言えば喜ぶと思いますよ。」
「アイツにとって憧れの存在だろうからなぁ。分かった、作っておこう。」
だいたい知りたいことは分かったと思う。
そして私にはこれから大仕事が待っている。
ロキさんへの筋トレの指導である。
「石碑についてはよく知っています。あのあたりは私が牧草地として使っていた場所なので。」
「あの石碑自体は、ドワーフ族に広く知られたものだったのですか?」
「なにか書いてあって、それが初代人間王によるものだということは知られていましたが、あまり興味を持つ人もいませんでした。なにか記念碑的なものなのだろう程度の感覚でしたね。」
歴史とともにその役割も忘れられてしまったということか。
石碑の話を里長にも話したら、実際に見てみたいということなので連れて行った。
「ここか。そういやこんなのがあったな、くらいにしか思っていなかったよ。どれ・・・」
里長が祈りを捧げる。なにも起きない。
「うーん、なにかが足りないみたいだな。もしかしたらドワーフに一人だけしか勇者が産まれないのかもしらんし。まぁマッチョが見つけて読んだんだ。たぶんここでの祈りが精霊に通じたんだろうなぁ。」
「他にこういう、文らしきものが書かれた石碑というものはどこかにありませんか?」
「いや、俺たちの領土の中ではここだけだろう。他は山ばっかりだしなぁ。」
新しいことはなにも分からなかった。
ロキさんが回復するまで初代王のテキストの解読作業でもやろうかと思ったのだが、これがけっこうな難題だった。技術的なテキストなので私では分からないのだ。スケッチから推測しようにも、私にはこの手の素養が無い。スケッチにはトレーニング機材の設計図もあった。こちらは私にも仕組みは分かるが、細かい用語が分からない。
一度王都へ戻った時に、解読チームの中から技術文書に強い人間を引っ張ってきて解読してもらうしか方法が無さそうだ。が、解読チームのメンバーは学者然としていてあまり筋肉質では無い。ドワーフたちに受け入れてもらえればいいのだが。
里長は早く人間国の高炉を見たいと言いだした。
数百年も機能するようなトレーニングマシンを作れるほどの高炉なのだ。技術者としてそりゃ血が騒ぐだろう。その高炉で里長の大業物を作ることになるかもしれない。
だがさすがに私でも、一国の国王が勝手に他国をふらふらしていいかどうかくらいの分別はつく。
とりあえずはドロスさんが出立するついでに、ドワーフ王が高炉を探すために人間国を訪れる旨を人間王に伝えてもらい、許可が出たら行くということで納得してもらった。他国の王なのだ。警護も必要だろう。
ロキさんは無事に回復した。
腱が傷ついていないか心配だったが、どうやら厚い筋肉に守られて無事だったらしい。
私の差し入れも効果的なようだった。まさかタベルナ村のハムがこういう局面で役に立つとは思わなかった。回復食というものはいつだって準備しておくものなのだな。
「そういえばなにか映像を見たんですよね。その後なにか分かりましたか?」
例えば魔王の見た目とか。
「なんでしょう。魔王と戦うというのに、みな楽しそうでしたね。仲が良かったのでしょう。ニャンコ族、龍族、人族、エルフ族、ドワーフ族。」
ちょっと待て。多種族でパーティを組んだなどという話は聞いてないぞ。
「里長。魔王を封印したパーティって今ロキさんが言ったメンバーで間違いないですか?」
「いや、俺も初めて聞いた。ロキ、そのメンバーで間違いないか?」
「はい。僕もちょっと不思議だったのでしっかりと憶えています。」
なにがどう不思議なのだ?
「不思議というと、なにが不思議だったのですか?」
「ああ、マッチョはなんか遠い国から来たんだったな。この大陸の人間ならよく知っているが、種族間で仲が悪いんだ。俺たちは特にエルフ族が苦手でなぁ。戦争したこともあるらしい。」
「龍族とニャンコ族の仲も悪いと聞いています。」
「広く知れ渡っているからなぁ。お互いに近くに居たら戦争になってしまうっていうんで、初代人間王がお互いに近くに住まないように、人間国を中心として東西南北バラバラに住まわせたんだよ。どの種族にとっても住みやすい環境をわざわざ探してくれてな。」
そこまで仲が悪いのか。
「輪の中心にはいつも人間がいたビジョンが見えたので、初代人間王が種族間の橋渡しをしてくれていたのかもしれませんね。」
ふーむ。伝説的な英雄とか超人という言葉さえ陳腐に聞こえる。初代王は千年続くような大陸の安定したあり方まで模索していたのだろう。
「そのパーティ全員が精霊の恩寵を受けた状態のビジョンが、ロキさんには見えたんでしょうか?」
「いえ。精霊の恩寵を受けられるには時間制限があるようです。それもビジョンで示されました。でも、人間王は長時間にわたって恩寵を受け続けられたみたいですね。」
人間王と他の種族でなにが違っていたのだろうか。
「人間王の見た目とか特徴は分かりますか?」
「恩寵がない状態でも筋肉質でした。あと、なにか手に持っていましたけれど、あれ武器なんでしょうかね?」
筋肉質。やはり筋トレが精霊の恩寵の反動を和らげるようだ。そして反動が和らぐからこそ、精霊は初代王に長い時間の精霊の恩寵を与えたのだろう。
それにしても、分かりやすい武器を持っていない?まさか手ぶらで魔王を封印しにいったのか?
いや。初代王はバーンマシンを使っていた。それにドワーフ族に残された手記に、アレが書いてあった。
「ちょっと待っててください。」
私は個室から手記を持ってきて、ロキさんに見せた。
「手元にこういうものを持っていませんでしたか?」
「ああ、持っていました。これ武器だったんですか。」
「殴るとか蹴るとか投げるに特化した武器です。」
バーンマシンは格闘家がよく用いるトレーニング用具だ。つまり初代人間王は格闘家として魔王と対峙したのだ。そしてこのメモ。ちょっと変わったダンベルなのかと思ったが、これはおそらく人間王専用の武器、ナックルだ。
「ちょっと俺にも見せてくれ。ふーん、超近接用の格闘武器か。距離も取らないで魔物やら魔王に向かっていくなんて、凄いというよりも少しネジが飛んでいたのかもな。」
「少し違うかもしれません。初代王は武器を扱う素養が無かったのではないでしょうか?殴るや投げるでしたら、私の国にも教え方というものがありますし。」
私も武器の扱い方が分からなかったから、なんとなくルリさんの趣味で斧使いになってしまったのだ。
「ああ、剣とか槍に慣れてなかったってことか。たしかに子どもの頃から遊んでいなかったら、手慣れた道具の方が熟達が早くなるか。それに魔法を使われたら距離を詰めるしかないし、近接武器の方が都合が良かったのかもな。これならウチの高炉でも作れるぞ。切れ味も関係ないし、剣や槍のように薄く作る必要も無いからな。硬度だけは保証できんが。」
「では人間王へのお土産に作っていただけませんか?初代王の武器を再現したと言えば喜ぶと思いますよ。」
「アイツにとって憧れの存在だろうからなぁ。分かった、作っておこう。」
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
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