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41 マッチョさん、とりあえず二日酔い対策の飲みものを用意する
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大食堂は昨日の混乱がそのままになっていた。まだ牛肉が残っていたので調理をしてもらい、野菜と果物とパンを多めに頂いた。筋肉痛は無い。一晩眠ったら私の嫉妬や混乱も落ち着いてきた。私の肉体は私が作り上げるしかないのだ。今日はじっくりと筋トレをしたい。
「マッチョ君、おはよう。早いのう。」
「ドロスさん、おはようございます。」
ドロスさんもあれだけ飲んで普通だ。かつての悪癖は消えたのだろうか、それとも酒の量があの程度では足りなかったのだろうか。
そういえば、ルリさんってドロスさんの娘さんだったのか。そりゃビビって交際を申し込む男性も少ないだろう。ましてはフェイスさんにとっては師匠の娘さんだ。下手に恋仲にでもなったら殺されるかもしれない、くらいの危機感はあるかもしれない。
「マッチョ君。交渉は終わったし、ワシは工房の見学と剣術の指導が終わったら数日後には帰るつもりだ。キミはどうするのかね?」
たしかに仕事は終わった。だが、魔王や精霊の恩寵についてさらに調べることは、急ぎ帰ること以上に重要なことだろう。
「私はもう少し残ります。精霊の恩寵についてより細かな報告があった方がいいでしょうし、こちらに残っている手記の翻訳の下準備もやってしまいたいです。」どちらも王が必要としている情報だ。私個人としても気になる。
「そうか。では今回の成果はワシが報告しておこう。マッチョ君はこちらで自分の仕事をしたまえ。」
「ありがとうございます。剣聖に言付けさせるなど、なんだか申し訳がないです。」
「こういう仕事はやれる人間が勝手にやったらいい。気にすることではないよ。」
こういう柔軟性がある考え方は、王にもフェイスさんにも見受けられる。個としても面子の置き所が私がいた世界とは違うのだろう。元いた世界よりも仕事がラクだ。
「失礼します。おはようございます、ドロス様、マッチョ様。」
昨日会った、里長のお付きの方だ。
「改めまして、ロイスと申します。里長が二日酔いで倒れているので、私が代理として参りました。なにかお困りでしたら、申し付けてください。」
「昨夜スクルトが来ていたが、つい飲ませてしまった。なにか用事があって来たのではないのかな?」
「スクルト様からお話は伺っています。軍の怪我人と固有種を早く王都へ運びたい旨でしたので、私が許可しました。部隊にも連絡済みで、そろそろ搬送が始まると思います。スクルト様は二日酔いで寝ていますが・・・」
あの大酒のみの集団に囲まれたのだ。スクルトさんと言えども無事では済まないだろう。とはいえあの狂騒の中でしっかりと用件だけは伝えるべき人に伝えているあたり、軍人としての一分を感じさせる。
ロイスさんはドワーフ族の中のデキる男なのだな。ドワーフ族は事務的な作業が苦手な印象があるのに、意外と多様だ。ロイスさんはこの通りだし、ロキさんは牛飼い。他にも専業の人がいるのだろうか、あるいはドワーフの中でも変わり種なのだろうか。
「私は初代王の手記の解読をするための下準備をしたいと思います。できれば個室で扉がついていて、静かな部屋が欲しいです。手記の紛失でもしたらドワーフ族の損失なので。」人族に対しての失望へも繋がってしまう。
「承知しました。手記と部屋の手配をさせていただきます。人間国の王都へハトを送ることもできますが、急ぎ伝えることは無いでしょうか?」
なんだろうなぁ。スクルト隊の受け入れや固有種の受け入れもあるだろうし。こちらで初代王の手記が見つかったので翻訳の準備にかかることも伝えないと。
「ワシが文面を考えよう。ワシらの前にスクルト隊が帰る理由も伝えねばならぬのでな。」
「ありがとうございます。ドロスさんにお任せします。」
ドワーフ国で拘束されている、とでも思われたら面倒なことになる。外交ってのは神経ばかり使ってあれこれと余計なことばかり考えなくてはいけなくなるな。今回は私が適任者だったのでドワーフの里までやって来たが、私にやり続けられる仕事ではない。
ああ、そうだ。
「私の持ち物の中に二日酔いに効きそうな薬があります。いま持ってきて調合するので、里長とスクルトさんに飲ませてください。」
「人間国にはそんなものもあるのですか。マッチョ様、ありがとうございます。」
私は外に出て、馬車の中の私物からソフィーさんからもらった回復薬を持ち出し、城内の大食堂に戻って調合をした。ソフィーさんは濃度を薄くすると吸収率が上がると言っていたな。二日酔いなど、ほとんど脱水症状とビタミン不足で起こるものだ。私はずいぶんと長いこと二日酔いになっていないが、若いときにスポーツドリンクで二日酔いを緩和したことはある。
「できました。起きたらでいいので、これをお二人に飲ませてください。」
ドワーフに効くかどうか分からないが、亜人という程度に人間に似ているならば毒にはならないだろう。
「ロイスさん、ちょっと・・・」
ロイスさんの部下らしき人がロイスさんを呼び出した。開けっ広げなドワーフが静かに話しているのは珍しい光景なのかもしれない。ロイスさんの顔色が変わって、こちらへやって来た。
「ドロス様、マッチョ様。ロキが目を覚ましました。ロキに話を聞くのであれば、里長のあと、ということになりますが。いかがなさいますか?」
「もちろん聞けるなら聞くわい。」
「話してみたいです。よろしくお願いします。」
上腕三頭筋が反応した?
やはり精霊の恩寵で変化したあの肉体は、私にとってインパクトが強すぎたようだ。私だけではない。私の筋肉も動揺しているのだろう。それほどの肉体の変化だったのだ。
里長、とっとと起きてくれないかなぁ。
「マッチョ君、おはよう。早いのう。」
「ドロスさん、おはようございます。」
ドロスさんもあれだけ飲んで普通だ。かつての悪癖は消えたのだろうか、それとも酒の量があの程度では足りなかったのだろうか。
そういえば、ルリさんってドロスさんの娘さんだったのか。そりゃビビって交際を申し込む男性も少ないだろう。ましてはフェイスさんにとっては師匠の娘さんだ。下手に恋仲にでもなったら殺されるかもしれない、くらいの危機感はあるかもしれない。
「マッチョ君。交渉は終わったし、ワシは工房の見学と剣術の指導が終わったら数日後には帰るつもりだ。キミはどうするのかね?」
たしかに仕事は終わった。だが、魔王や精霊の恩寵についてさらに調べることは、急ぎ帰ること以上に重要なことだろう。
「私はもう少し残ります。精霊の恩寵についてより細かな報告があった方がいいでしょうし、こちらに残っている手記の翻訳の下準備もやってしまいたいです。」どちらも王が必要としている情報だ。私個人としても気になる。
「そうか。では今回の成果はワシが報告しておこう。マッチョ君はこちらで自分の仕事をしたまえ。」
「ありがとうございます。剣聖に言付けさせるなど、なんだか申し訳がないです。」
「こういう仕事はやれる人間が勝手にやったらいい。気にすることではないよ。」
こういう柔軟性がある考え方は、王にもフェイスさんにも見受けられる。個としても面子の置き所が私がいた世界とは違うのだろう。元いた世界よりも仕事がラクだ。
「失礼します。おはようございます、ドロス様、マッチョ様。」
昨日会った、里長のお付きの方だ。
「改めまして、ロイスと申します。里長が二日酔いで倒れているので、私が代理として参りました。なにかお困りでしたら、申し付けてください。」
「昨夜スクルトが来ていたが、つい飲ませてしまった。なにか用事があって来たのではないのかな?」
「スクルト様からお話は伺っています。軍の怪我人と固有種を早く王都へ運びたい旨でしたので、私が許可しました。部隊にも連絡済みで、そろそろ搬送が始まると思います。スクルト様は二日酔いで寝ていますが・・・」
あの大酒のみの集団に囲まれたのだ。スクルトさんと言えども無事では済まないだろう。とはいえあの狂騒の中でしっかりと用件だけは伝えるべき人に伝えているあたり、軍人としての一分を感じさせる。
ロイスさんはドワーフ族の中のデキる男なのだな。ドワーフ族は事務的な作業が苦手な印象があるのに、意外と多様だ。ロイスさんはこの通りだし、ロキさんは牛飼い。他にも専業の人がいるのだろうか、あるいはドワーフの中でも変わり種なのだろうか。
「私は初代王の手記の解読をするための下準備をしたいと思います。できれば個室で扉がついていて、静かな部屋が欲しいです。手記の紛失でもしたらドワーフ族の損失なので。」人族に対しての失望へも繋がってしまう。
「承知しました。手記と部屋の手配をさせていただきます。人間国の王都へハトを送ることもできますが、急ぎ伝えることは無いでしょうか?」
なんだろうなぁ。スクルト隊の受け入れや固有種の受け入れもあるだろうし。こちらで初代王の手記が見つかったので翻訳の準備にかかることも伝えないと。
「ワシが文面を考えよう。ワシらの前にスクルト隊が帰る理由も伝えねばならぬのでな。」
「ありがとうございます。ドロスさんにお任せします。」
ドワーフ国で拘束されている、とでも思われたら面倒なことになる。外交ってのは神経ばかり使ってあれこれと余計なことばかり考えなくてはいけなくなるな。今回は私が適任者だったのでドワーフの里までやって来たが、私にやり続けられる仕事ではない。
ああ、そうだ。
「私の持ち物の中に二日酔いに効きそうな薬があります。いま持ってきて調合するので、里長とスクルトさんに飲ませてください。」
「人間国にはそんなものもあるのですか。マッチョ様、ありがとうございます。」
私は外に出て、馬車の中の私物からソフィーさんからもらった回復薬を持ち出し、城内の大食堂に戻って調合をした。ソフィーさんは濃度を薄くすると吸収率が上がると言っていたな。二日酔いなど、ほとんど脱水症状とビタミン不足で起こるものだ。私はずいぶんと長いこと二日酔いになっていないが、若いときにスポーツドリンクで二日酔いを緩和したことはある。
「できました。起きたらでいいので、これをお二人に飲ませてください。」
ドワーフに効くかどうか分からないが、亜人という程度に人間に似ているならば毒にはならないだろう。
「ロイスさん、ちょっと・・・」
ロイスさんの部下らしき人がロイスさんを呼び出した。開けっ広げなドワーフが静かに話しているのは珍しい光景なのかもしれない。ロイスさんの顔色が変わって、こちらへやって来た。
「ドロス様、マッチョ様。ロキが目を覚ましました。ロキに話を聞くのであれば、里長のあと、ということになりますが。いかがなさいますか?」
「もちろん聞けるなら聞くわい。」
「話してみたいです。よろしくお願いします。」
上腕三頭筋が反応した?
やはり精霊の恩寵で変化したあの肉体は、私にとってインパクトが強すぎたようだ。私だけではない。私の筋肉も動揺しているのだろう。それほどの肉体の変化だったのだ。
里長、とっとと起きてくれないかなぁ。
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