40 / 133
40 マッチョさん、悶々とする
しおりを挟む
連続式と呼ばれるドワーフ流の飲み比べだ。お互い空のグラスを机に置き、火酒をお互いのグラスに注ぐ。グラスをぶつけたあとに、一気に酒を煽り、グラスの底を机に叩きつける。これをどちらかが潰れるまで繰り返す。ずいぶんと危険な飲み方だ。
ドロスさんは涼しい顔をしている。というか、二人とも喋らなくなってきたので、どれだけ酔っ払っているのか見当がつかない。
「いい酒じゃのう。こういう飲み方はなんだか勿体ないのう。」
「酒だけはなぁ、なにがなんでも旨いモンを作らないとなぁ。酒が明日の仕事を決めるからなぁ。」
里長はあの酔っ払いっぷりで明日も働くつもりなのだろうか。
「お土産に持って帰って、じっくり飲むとしようかのう。」
「おう、くれてやるくれてやる。俺に勝ったららな。」
「新しい剣も欲しいのう。せっかくだから、里長が作る頑丈で軽いやつがええのう。」
「おう、くれてやるるくれてやるる。俺に勝ったららな。」
ほぼ勝負は決まったのではないだろうか。里長は完全にドロスさんに乗せられている。
「里長ぁ、ドワーフなのに人族に連続式で負けちゃうんですかぁ?」
「うるせぇ!まらまらこれかららろ・・・・」
里長の呂律が怪しくなってきている。趨勢が決まったようだ。
さらに追加で二杯。里長がテーブルに突っ伏して大いびきとともに倒れたところで、勝負は決まった。勝者のドロスさんに歓声が上がる。
ドロスさんが自分のグラスに火酒を入れて、もう一杯飲む。スクルトさんが仕事をするタイミングだ。
グラスを机に叩きつけてドロスさんは立ち上がった。
「さて。ワシは疲れたから今日のところはこれで寝かせてもらう。いいかの?」
「勿論です!お見事でした!」
「連続式でドワーフに飲み勝った人間は初めて見ました!」
「明日は指導してくれるんですよね?剣聖、お願いします!」
ドロスさんがドワーフに囲まれてしまったせいで、スクルトさんは完全にタイミングを失ったようだ。
「・・・スクルト。なにをしようとしている?」
スクルトさんがビクリとした。手斧はベルトの背中側に刺して隠している。
「い、いえ特に・・・」
「妙な気配が見えたと思ったが、気のせいじゃったか。どうも今日は自信が揺らぐ日じゃのう・・・」
その直感は正解です、ドロスさん。
「ではスクルト、ワシの代わりにドワーフたちと飲んでいけ。」
「は、はい!」
ドワーフたちが湧き立つ。ドロスさんはとっとと今日のベッドを教えてもらい、そのまま眠るつもりのようだ。ドロスさんから一本取るよりはマシだろうが、スクルトさんも明日は使いものにならないかもしれない。
少しトレーニングをしようと私は外に出た。前回の魔物災害では負荷が大きすぎて回復が大変だったが、今回はあまり働いていないので負荷が足りない気がする。何発か魔法を捌いただけだ。
スクワットをしながら今日のことを思い出す。
精霊の恩寵について考えていた。
精霊の声を聞くという伝承があるということは、この世界には精霊がいることになる。声が聞こえるくらい身近な存在としてだ。そしてあの身体能力。身体強化魔法か、それ以上に上乗せされた能力に見えた。人族最強である剣聖ドロスですら時間がかかった固有種を一撃で倒す強さ。
精霊の恩寵さえあればどんな魔物でも倒せそうだというのに、初代人間王のパーティですら魔王は封印することで精一杯だったのか。魔王という存在はどれほど桁違いなのか。そんなものが存在していたらおちおち筋トレもできないではないか。
いや。先のことよりもまずは今の状況で肝心のことが分かっていない。
なぜロキさんは唐突に精霊の恩寵を受けることになったのだ?
なぜ里長ではないのだ?
うーむ、筋トレの最中だというのに、筋肉以外のことを考えている。筋肉が嫉妬しそうなので、私はトレーニングを止めることにした。意識が筋肉に行かない以上はトレーニングの効果があまり期待できない。
嫉妬?
私は、精霊の恩寵を受けたロキさんの肉体に嫉妬していたのか。
こういう感情は久しぶりだ。自分で鍛え上げた肉体ではなく、他人の肉体を羨ましいなどと思うとは。
あまりいい傾向ではないな。
トレーニーは自分で鍛え上げた肉体を信じるべきだ。捧げた時間もエネルギーも労力も、そしてその結果としての肉体も、すべて自分の責任に依るものだ。肉体を育てるにも才能があるし、大きな切れた筋肉を作るには体質もある。だが、私が私の肉体を信じなければ、誰が私の肉体を信じるというのだ?
他人の肉圧で圧倒されることなど、この世界に来てから初めてのことだ。嫉妬だけではなく、私は少し混乱もしているのだろう。
私はストレッチを入念に行い、その夜は悶々としながら眠りについた。
ドロスさんは涼しい顔をしている。というか、二人とも喋らなくなってきたので、どれだけ酔っ払っているのか見当がつかない。
「いい酒じゃのう。こういう飲み方はなんだか勿体ないのう。」
「酒だけはなぁ、なにがなんでも旨いモンを作らないとなぁ。酒が明日の仕事を決めるからなぁ。」
里長はあの酔っ払いっぷりで明日も働くつもりなのだろうか。
「お土産に持って帰って、じっくり飲むとしようかのう。」
「おう、くれてやるくれてやる。俺に勝ったららな。」
「新しい剣も欲しいのう。せっかくだから、里長が作る頑丈で軽いやつがええのう。」
「おう、くれてやるるくれてやるる。俺に勝ったららな。」
ほぼ勝負は決まったのではないだろうか。里長は完全にドロスさんに乗せられている。
「里長ぁ、ドワーフなのに人族に連続式で負けちゃうんですかぁ?」
「うるせぇ!まらまらこれかららろ・・・・」
里長の呂律が怪しくなってきている。趨勢が決まったようだ。
さらに追加で二杯。里長がテーブルに突っ伏して大いびきとともに倒れたところで、勝負は決まった。勝者のドロスさんに歓声が上がる。
ドロスさんが自分のグラスに火酒を入れて、もう一杯飲む。スクルトさんが仕事をするタイミングだ。
グラスを机に叩きつけてドロスさんは立ち上がった。
「さて。ワシは疲れたから今日のところはこれで寝かせてもらう。いいかの?」
「勿論です!お見事でした!」
「連続式でドワーフに飲み勝った人間は初めて見ました!」
「明日は指導してくれるんですよね?剣聖、お願いします!」
ドロスさんがドワーフに囲まれてしまったせいで、スクルトさんは完全にタイミングを失ったようだ。
「・・・スクルト。なにをしようとしている?」
スクルトさんがビクリとした。手斧はベルトの背中側に刺して隠している。
「い、いえ特に・・・」
「妙な気配が見えたと思ったが、気のせいじゃったか。どうも今日は自信が揺らぐ日じゃのう・・・」
その直感は正解です、ドロスさん。
「ではスクルト、ワシの代わりにドワーフたちと飲んでいけ。」
「は、はい!」
ドワーフたちが湧き立つ。ドロスさんはとっとと今日のベッドを教えてもらい、そのまま眠るつもりのようだ。ドロスさんから一本取るよりはマシだろうが、スクルトさんも明日は使いものにならないかもしれない。
少しトレーニングをしようと私は外に出た。前回の魔物災害では負荷が大きすぎて回復が大変だったが、今回はあまり働いていないので負荷が足りない気がする。何発か魔法を捌いただけだ。
スクワットをしながら今日のことを思い出す。
精霊の恩寵について考えていた。
精霊の声を聞くという伝承があるということは、この世界には精霊がいることになる。声が聞こえるくらい身近な存在としてだ。そしてあの身体能力。身体強化魔法か、それ以上に上乗せされた能力に見えた。人族最強である剣聖ドロスですら時間がかかった固有種を一撃で倒す強さ。
精霊の恩寵さえあればどんな魔物でも倒せそうだというのに、初代人間王のパーティですら魔王は封印することで精一杯だったのか。魔王という存在はどれほど桁違いなのか。そんなものが存在していたらおちおち筋トレもできないではないか。
いや。先のことよりもまずは今の状況で肝心のことが分かっていない。
なぜロキさんは唐突に精霊の恩寵を受けることになったのだ?
なぜ里長ではないのだ?
うーむ、筋トレの最中だというのに、筋肉以外のことを考えている。筋肉が嫉妬しそうなので、私はトレーニングを止めることにした。意識が筋肉に行かない以上はトレーニングの効果があまり期待できない。
嫉妬?
私は、精霊の恩寵を受けたロキさんの肉体に嫉妬していたのか。
こういう感情は久しぶりだ。自分で鍛え上げた肉体ではなく、他人の肉体を羨ましいなどと思うとは。
あまりいい傾向ではないな。
トレーニーは自分で鍛え上げた肉体を信じるべきだ。捧げた時間もエネルギーも労力も、そしてその結果としての肉体も、すべて自分の責任に依るものだ。肉体を育てるにも才能があるし、大きな切れた筋肉を作るには体質もある。だが、私が私の肉体を信じなければ、誰が私の肉体を信じるというのだ?
他人の肉圧で圧倒されることなど、この世界に来てから初めてのことだ。嫉妬だけではなく、私は少し混乱もしているのだろう。
私はストレッチを入念に行い、その夜は悶々としながら眠りについた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる