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34 マッチョさん、ドワーフの里へ着く
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私もドロスさんも戦闘をしないままドワーフ国が近くなってきた。スクルトさんの小隊がコボルトを倒していくうちに、我々の姿を見るとコボルトたちが逃げるようになってしまったからだ。
しかし快適な旅だったな。荷物を持たなくてもいいし、テントもあるし、魔物は軍が追い払ってくれる。私は馬車でドロスさんと喋っていただけだ。
「大丈夫ですかね、魔物災害。けっこう逃げられたカンジでしたけれど。」
「うーん、そろそろ起きてもおかしくない状態じゃなぁ。スクルト、魔物撤退数はどの程度だ?」
「ざっと300程度だと思います。ただ、遠目から逃げるタイプもいますから、けっこう大き目の魔物災害になるかもしれません。」
「起きそうとかではなく、起きるものだと思って行動した方がいいな。マッチョ君も自分の装備を確認しておきたまえ。」
「分かりました。」
オークキングを倒すのは大変だったからなぁ。固有種の出ない魔物災害であってほしい。
ある山を越えたところから、街道が完全に整備されていた。
「どういうことなのでしょう?これ。」
「ドワーフ達が街道整備をやってくれたのだろう。いや、やり続けてくれていた、というべきか。」
つまるところ、我々人間の国のほうがいままで交流をサボってきていたのだ。直近数年で行ったような補修の仕方ではない。ドワーフ達は我々との交流を心待ちにしていたのかもしれない。
「初代王との有意義な日々を、彼らは忘れなかったんじゃろうなぁ。」
人間たちは見放されたワケでは無かったのか。ドワーフたちは事情を察して、待っていてくれたのだ。数百年も。
「ドワーフという種族の人たちは、長命なのですか?」
「いや、百歳かそこらのはずじゃな。」
数世代とはいえ、ここまで待てるものなのか。器の大きさという尺度で言えば、人間が敵うスケールでは無い。
「工兵たちはここで帰らせましょう。もう必要が無いでしょうし。」
「そうじゃな。あまり大人数で行くのも礼を欠いている。」
私と、ドロスさんと、スクルトさんの小隊で進むことになった。早ければ今日のうちにも到着するそうだ。
もうひとつ山を越えたら、見事な草原が見えた。人の手が入っている草原で、牛が草を食べている。ドワーフとの初コンタクトだ。
「こんにちは。人間の方が珍しいですね。」
「こんにちは。人間王の使者としてやって来ました。」
初めてのドワーフだが、想像とかなり違った。身長155cm程度、体重45kg前後、体脂肪率が13%前後というところか。痩躯と言ってもいい。
「ああ、そういえば人間王から使者が来るという話は聞いてますよ。王城はあちらの方向です。」
「ありがとうございます。」
ずいぶんと付き合いやすい人のようだ。親切で礼儀正しい。ドワーフと言えば荒くれ者で大酒のみで肉ばかり食べて立派な体躯で手先が器用で、という印象だったのだが。
「なんだか少し珍しいドワーフでしたね。彼が牛飼いのドワーフでしょうか?」
「ワシが昔会ったドワーフは、ケンカ好きで酒飲みでゴツくてデカい声でそこそこ強かったぞ。」
彼が特別なのか。体格や性格も一般的なドワーフとは違うようだ。
王城と呼ばれたところへ着いた。
ソロウよりも小さいが、城壁で囲まれた城塞都市だ。大岩をくりぬいてそこに住み着いたというカンジだ。スクルトさんは小隊を率いて城壁の外で待機。魔物災害があった場合に備えて斥候と地形の確認をし始めた。
「別の国から使者が来たというのに、ずいぶんとこう、普通の応対ですね。特別扱いされないというか。出迎えすらないんですか。」
「これがドワーフ流なのじゃろう。彼らは手に仕事を持ち、働くことに生きがいを感じている。鍛治仕事やら採掘やら肉体労働を好んで行うし、それ以外のことにはあまり興味がない。仕事と肉と酒とケンカがあれば、彼らは満足じゃからのう。だから初代王と交流を持つ前に滅びかけたんじゃがな。」
社交のひとつもできない集団か。国というよりも里とか村に近い印象だな。
だが、私もドワーフの肉体に興味が行き過ぎて、肝心のことを忘れていた。彼らから畜産のノウハウをもらう代償に、なにを差し出せばいいのだろうか?まぁ一回や二回の会談ですぐにもらえるという話でも無いだろう。今回は筋肉質な男が街道整備を終えて挨拶に来た程度で構わないと思う。
ドロスさんと私で街に入ると、あっという間にドワーフたちに囲まれた。
旅人も珍しいし、私の筋肉も珍しいし、私の斧にも興味津々だった。人間王の采配、お見事です。
「ヒト族の旅人の大きな方。不躾ですが、そちらの斧を見せていただけねぇでしょうか?」
「どうぞ。」片手で私の斧を渡した。
「ふぉっ!重っ!!」毎回このくだりがあるなぁ。
ドワーフたちはやはり鍛治仕事に興味があるらしく、私の斧は大人気だ。
「うーん、なんだこの斧。デカい金属の塊を、デカい炉で一気に固めたのか?」
「メイスより重い斧なんて、なにが目的で作ったんだこれ。」
「研ぎもいい腕だ。薄っぺらい紙でも切れそうだな。」
「てか、そちらのヒト族のカラダ、なんなんですか。ワシらよりデカいじゃないですか。」
「というより、本当にヒト族ですか?」
ドワーフから見た一般的なヒト族のカラダとは違うらしい。
彼らの目から見たら人を超えた筋肉に見えるのか。なかなか悪くない気分だが、慢心が筋肉に伝わるといけない。称賛のことばは筋肉を成長させるが、トレーニーの慢心は筋肉を簡単に小さくしてしまうものなのだ。
しかし快適な旅だったな。荷物を持たなくてもいいし、テントもあるし、魔物は軍が追い払ってくれる。私は馬車でドロスさんと喋っていただけだ。
「大丈夫ですかね、魔物災害。けっこう逃げられたカンジでしたけれど。」
「うーん、そろそろ起きてもおかしくない状態じゃなぁ。スクルト、魔物撤退数はどの程度だ?」
「ざっと300程度だと思います。ただ、遠目から逃げるタイプもいますから、けっこう大き目の魔物災害になるかもしれません。」
「起きそうとかではなく、起きるものだと思って行動した方がいいな。マッチョ君も自分の装備を確認しておきたまえ。」
「分かりました。」
オークキングを倒すのは大変だったからなぁ。固有種の出ない魔物災害であってほしい。
ある山を越えたところから、街道が完全に整備されていた。
「どういうことなのでしょう?これ。」
「ドワーフ達が街道整備をやってくれたのだろう。いや、やり続けてくれていた、というべきか。」
つまるところ、我々人間の国のほうがいままで交流をサボってきていたのだ。直近数年で行ったような補修の仕方ではない。ドワーフ達は我々との交流を心待ちにしていたのかもしれない。
「初代王との有意義な日々を、彼らは忘れなかったんじゃろうなぁ。」
人間たちは見放されたワケでは無かったのか。ドワーフたちは事情を察して、待っていてくれたのだ。数百年も。
「ドワーフという種族の人たちは、長命なのですか?」
「いや、百歳かそこらのはずじゃな。」
数世代とはいえ、ここまで待てるものなのか。器の大きさという尺度で言えば、人間が敵うスケールでは無い。
「工兵たちはここで帰らせましょう。もう必要が無いでしょうし。」
「そうじゃな。あまり大人数で行くのも礼を欠いている。」
私と、ドロスさんと、スクルトさんの小隊で進むことになった。早ければ今日のうちにも到着するそうだ。
もうひとつ山を越えたら、見事な草原が見えた。人の手が入っている草原で、牛が草を食べている。ドワーフとの初コンタクトだ。
「こんにちは。人間の方が珍しいですね。」
「こんにちは。人間王の使者としてやって来ました。」
初めてのドワーフだが、想像とかなり違った。身長155cm程度、体重45kg前後、体脂肪率が13%前後というところか。痩躯と言ってもいい。
「ああ、そういえば人間王から使者が来るという話は聞いてますよ。王城はあちらの方向です。」
「ありがとうございます。」
ずいぶんと付き合いやすい人のようだ。親切で礼儀正しい。ドワーフと言えば荒くれ者で大酒のみで肉ばかり食べて立派な体躯で手先が器用で、という印象だったのだが。
「なんだか少し珍しいドワーフでしたね。彼が牛飼いのドワーフでしょうか?」
「ワシが昔会ったドワーフは、ケンカ好きで酒飲みでゴツくてデカい声でそこそこ強かったぞ。」
彼が特別なのか。体格や性格も一般的なドワーフとは違うようだ。
王城と呼ばれたところへ着いた。
ソロウよりも小さいが、城壁で囲まれた城塞都市だ。大岩をくりぬいてそこに住み着いたというカンジだ。スクルトさんは小隊を率いて城壁の外で待機。魔物災害があった場合に備えて斥候と地形の確認をし始めた。
「別の国から使者が来たというのに、ずいぶんとこう、普通の応対ですね。特別扱いされないというか。出迎えすらないんですか。」
「これがドワーフ流なのじゃろう。彼らは手に仕事を持ち、働くことに生きがいを感じている。鍛治仕事やら採掘やら肉体労働を好んで行うし、それ以外のことにはあまり興味がない。仕事と肉と酒とケンカがあれば、彼らは満足じゃからのう。だから初代王と交流を持つ前に滅びかけたんじゃがな。」
社交のひとつもできない集団か。国というよりも里とか村に近い印象だな。
だが、私もドワーフの肉体に興味が行き過ぎて、肝心のことを忘れていた。彼らから畜産のノウハウをもらう代償に、なにを差し出せばいいのだろうか?まぁ一回や二回の会談ですぐにもらえるという話でも無いだろう。今回は筋肉質な男が街道整備を終えて挨拶に来た程度で構わないと思う。
ドロスさんと私で街に入ると、あっという間にドワーフたちに囲まれた。
旅人も珍しいし、私の筋肉も珍しいし、私の斧にも興味津々だった。人間王の采配、お見事です。
「ヒト族の旅人の大きな方。不躾ですが、そちらの斧を見せていただけねぇでしょうか?」
「どうぞ。」片手で私の斧を渡した。
「ふぉっ!重っ!!」毎回このくだりがあるなぁ。
ドワーフたちはやはり鍛治仕事に興味があるらしく、私の斧は大人気だ。
「うーん、なんだこの斧。デカい金属の塊を、デカい炉で一気に固めたのか?」
「メイスより重い斧なんて、なにが目的で作ったんだこれ。」
「研ぎもいい腕だ。薄っぺらい紙でも切れそうだな。」
「てか、そちらのヒト族のカラダ、なんなんですか。ワシらよりデカいじゃないですか。」
「というより、本当にヒト族ですか?」
ドワーフから見た一般的なヒト族のカラダとは違うらしい。
彼らの目から見たら人を超えた筋肉に見えるのか。なかなか悪くない気分だが、慢心が筋肉に伝わるといけない。称賛のことばは筋肉を成長させるが、トレーニーの慢心は筋肉を簡単に小さくしてしまうものなのだ。
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