異世界マッチョ

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33 マッチョさん、ドワーフ国へ向かう

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 手記の解読を手伝ってくれているチームにも、ドワーフ国に行く旨を伝えた。私がいないと解読が進まないのだが、テキストを書き写すだけでもけっこうな作業量なので、私がいない間も進捗には問題が無さそうだ。帰ってきてからの私の仕事量が不安になるが、まぁ急がなくても大丈夫だろう。
 解読メンバーの一人、ロゴスに至っては簡単なものなら読めるようになってきていた。なんでも私が翻訳した文章と手記の文字列から推測して、少しずつ英語が読めるようになってきたらしい。辞書すらないというのに語学マニアって恐ろしいな。まだ私のサポートは必要だが、魔王やトレーニングに関する記述を彼が見つけてしまうかもしれない。そのうち私の英語のミスを彼が指摘するようになるかもしれないな。
 
 ドロスさんのところへも挨拶をしに行ったら、私に同行すると言い出した。
 「ワシも一度、ドワーフの工房を見学したかったんじゃよ。いい武器が手に入るかもしらんし、ついでに道中でマッチョ君たちを鍛えてやるわい。」
 いちおう国を代表して行くので、勝手に人を増やしてもいいものなのかどうか判断がつかない。王に話をしたら、メンバー選定も好きにしていいとのことだった。
 「お前とドロスの二人で行けば、街道の安全にもつながるだろう。悪いことではない。」とのこと。
 ああそうか。街道の魔物を追い払って、安全に移動できるようにするということも念頭にあったのか。人間王のこういう人的資源の配分というか、政治判断に関しては敵うワケがないな。相手は本職だ。
 軍の方はスクルトさんが厳選した騎馬小隊と工兵が約五百人。人海戦術で一気に街道整備を行う手はずだ。工兵たちへの指示もスクルトさんに回した。もと提督のドロスさんもいるのだから、指揮系統としてはドロスさん、スクルトさんというかたちになる。私はオブザーバー兼大使ということになる。私もいちおう人間国の人間ということになっているので、まぁ私が大使でも問題ないだろう。

 出発前に王を訪ねたとき、ソフィーさんから新型の回復薬をもらった。水で溶かして飲むと疲労回復に一役買うらしい。レモネードを粉末状にしたものだそうだ。スポーツドリンクみたいなものだろう。そこまで追い込まれる可能性は少ないとは思ったが、軍が私の荷物も運んでくれるので、ありがたく持っていくことにした。
 さらにタベルナ村からハムが届いた。軍全体に食べさせるワケにもいかないが、私一人が食べるワケにもいかない。上の人間とだけこっそり食べよう。これも私の荷物に忍ばせた。
 ソロウからは私の金属鎧も無事に届いた。こちらに来てからはドロスさんとの訓練でだいぶヘタって来たので、ドワーフ国へ行く前にメンテナンスを頼んでいたのだ。今回は装備もバッチリだ。いつかのように権力者の前でトレーニングウエアという恰好での謁見は避けたい。

 ドワーフ国へと向かう。
 馬車には私とドロスさん。すぐ外では警護にスクルトさんがいた。
 街道の痛みはなかなか酷い箇所もあった。痛んだ石畳があればそれを削り、新しい石畳をはめてゆく。 街道に人員を配置し、直しては馬車で次へと進む。資材は人間国から次々と馬車で送られてくる。
 わざわざ人間国に来るドワーフと言えば、ドワーフ王くらいのものだ。ドワーフたちの生活は彼らの国で完結しているのかもしれない。
 「マッチョ君も早く馬に乗れればいいのじゃろうがなぁ。」
 「うーん、練習が必要ですねぇ。」
 「街道整理は物流と軍事の高速化を目的としていますから、今回はこれでいいんじゃないでしょうか。」
 「ほっ。スクルトも言うようになったのう。どの程度の強さになったのか、あとでもんでやろう。」
 「お手柔らかにお願いします。剣聖どの。」
 「だいたいどれくらいで着きそうですか?」
 「このペースだと二週間くらいですかね。街道が整備されたら馬で二日もかからなくなると思いますよ。」
 
 難所で立ち止まる。
 「ここは、街道自体を拡張整理した方がいいですね。馬車が通られませんから。」
 馬に乗った人間が一人通れるか通れないか、という程度か。数日ここで作業を進め、その間に私とスクルトさんはドロスさんの指導を受けるようになった。馬車の移動による運動不足を解消しようとするせいか、ドロスさんの指導は厳しくなるばかりだった。私とスクルトさんの二人がかりで崩そうとしても、軽くスポーツでもやっているかのように軽やかだだ。疲弊した肉体にソフィーさんにもらった疲労回復薬がものすごく効いた。
 夕食には私のハムを提供した。誰もが唸る味だ。さすが村長さんです。
 「かなり古い街道のようですが、本当に今は使われていないのですね。」
 「初代王が作った街道での。初代王の時代にはドワーフ国と多くの交流があったそうじゃ。ドワーフは別の国に迫害されていたのじゃが、初代王はドワーフたちとウマが合って同盟を組むことにした。初代人間王が人間の国を統一した功績の影には、ドワーフ達の尽力があったとされているのじゃ。」
 「へぇー。じゃぁなんで交流が途絶えちゃったんですか?」
 「跡目争いが酷くてなぁ。ドワーフのほうに見放されてしまったのじゃよ。」
 種族全体が見放されるとか、どれだけえげつない荒れ方をしたのだろうか。
 「ところでマッチョ君。キミはずいぶんと肉体が変わったようじゃの。」
 私ですら分からない肉体の変化が見て分かるのか。さすが剣聖と呼ばれるだけのことはある。
 「道具を持って止める筋肉を、意識して鍛えるようにしました。しかし、見て分かるものなのですか?私自身もまだよく使い方が分かっていないのですが。」
 「いや、見事な鍛え方だと思っての。体重自体はあまり変化は無いだろうが、動きの良さは実感するところがあるじゃろう。疲れづらくなったとか。」
 言われてみるとその通りだ。疲れにくくなったし、思った通りに動きやすくなった。
 「マッチョさん、そんなに変わったのですか?私には以前のマッチョさんとあまり変わらなく見えるのですが。」
 スクルトさんの反応のほうが正しい。体幹が多少大きくなったところで、見た目では分からないのだ。
 「所作で分かるじゃろう。武器を扱う技術をしっかりと身につけるための素地ができてきた、とでも言えばいいんじゃろうか。ワシが一本取られる日も、そう遠くないかもしれないのう。」
 いや、剣聖から一本取るほどの強さなど私は求めていない。
 しかし筋肉を褒められることは単純に嬉しい。誰も私の変化になど気づかないだろうと思っていたし、私自身も体幹を鍛え上げることでどう私が変化するのかまで分からなかった。疲労感はあっても筋肉痛が起こらないインナーマッスルのトレーニングはわずかに私を不安にさせていた。
 だが、私のトレーニングの方向は間違っていなかった。なにせ剣聖のお墨付きのカラダなのだ。
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