異世界マッチョ

文字の大きさ
上 下
23 / 133

23 マッチョさん、王都へ着く

しおりを挟む
 王都では門番に足止めされることなく入れた。大斧を使う少し変わった格好の冒険者が来るということで、連絡がついていたらしい。ルリさんの仕事だとしたら感謝しないといけない。噂話として広まっているとしたら、ちょっと恥ずかしい。
 建物が高い。
 ソロウにも二階建てや三階建ての建物はあったが、ここは摩天楼じゃないか。七階建てくらいの建物があるが、どうやって建てたのだろう。うーむ、ローマの闘技場なんかもけっこうな高さだったから、頑張ればなんとか建てられる・・・のか?
 通りも広い。
 大門から一直線に王城へと向かえる作りになっている。あんまりヨーロッパでは見かけないタイプの区割りのような気がする。どちらかと言えばアジアの街の作り方だ。広さがあるので、通りの中央は車道として用いられ馬車や馬が往来している。
 そして人が多い。
 完全に都市だ。こちらの世界に来てから人の群れなど見ていなかったので、見ているだけで酔いそうになった。これだけの人たちが集まる場所であるならば、なにか筋肉にとって有益なものが見つかるかもしれない。
 そしてとにかく広い。さすが人間の王が住む都市だ。道に迷いそうだから、一人では出歩かないようにしよう。
 しかしこの建築様式、ずいぶんと変わっているな。写真でしか見たことが無いが、イスラム教のモスクに近い。いや、これはトルコやロシアの様式に近いのではないか?
 「相変わらず人ばっかりで落ち着かない場所だな。宿で一息ついたら、すぐギルド本部へ行くぞ。できるだけ早い報告が欲しいっていう話だったからな。」
 「そういえばグランドマスターって、どんな方なんですか?」
 「俺の師匠で、超絶おっかねぇジイさんだ。しばらく顔を出してなかったんで、できれば会いたくない・・・」
 ついに本音が出てしまった。

 ギルド本部。
 ソロウのギルドもなかなかに格式があったけれども、さらなる格式を感じる。立派そうな絵が飾ってあったり、ロビーがあったり。本部ともなると、なかなかいい筋肉の人間も見られる。体脂肪率15%を切っていそうな冒険者もいた。相当の強者なのだろう。
 なにやらヒソヒソと噂されている気もするが、やはり私の恰好がこの場にそぐわないのだろうか?フェイスさんが受付に案内を頼んでいる間にギルド内を見渡してみると、きちんとした身なりをしているか、防具をつけていたりする。私のようにリラックスした格好の人間は当然ながら一人もいない。というよりも、この世界でタンクトップに短パンという身なりの人はまだ見たことが無い。
 どんな依頼が来るのか受付あたりでちょっと聞いてみようと思ったら、フェイスさんが戻ってきた。
 「すぐに会えるそうだ。行くぞ。」
 「はい。」
 すごく視線を感じる。やはりこの恰好がダメなのだろう。どこまで宗教上の正装で押し通せるのだろうか。
 「あー、なんか噂になってるみたいだな、こないだの防衛戦。お前ひとりで300匹のオークを倒したことになってた。」
 また増えている。そっちが噂になっているのか。
 異世界で過大評価されるなど、ロクでもない仕事を押し付けられそうなので勘弁してほしい。私は普通に仕事をして、普通に筋トレがしたいのだ。

 コンコン。
 「失礼します。」
 「うむ。久しぶりだな、フェイス。」
 「師匠もお元気そうで。」
 「ロクに顔も見せない弟子がなにを言っている。」
 「いえ、その、ギルドが忙しくて・・・」
 「ソロウ程度の規模のギルドで、お前がなぜ忙しくなる。ルリもいるだろうに。」
 「ちょっと前まで人手不足で大変だったんですって。本当に。」
 うん。フェイスさんの言い分も間違いではないが、ギルド本部にできれば来たくなかった感が顔に出てしまっている。
 グランドマスターの身体は、身長155cm、体重55kg、体脂肪率15%というところか。どうもこの世界では、体脂肪率15%程度の人が強い気がする。スタミナが必要になる生き方をしていると、この程度の脂肪が必要になるのかもしれない。やはり一考しなければならないか。もしくはこの世界に馴染んでいくうちに、私の体脂肪率もその辺に落ち着くのかもしれない。冒険者でも戦闘の内容によっては、数日間も戦闘中などということもあるだろう。ましてや軍隊では長期戦など普通のことだと思う。
 「キミがマッチョ君だな。フェイスが世話になっている。グランドマスターのドロスだ。」
 「マッチョです。フェイスさんには色々教えていただいています。」
 小柄な体躯であるのに、眼前に立たれると圧が凄い。単純な力比べで負ける気はしないが、格闘あるいは剣術となると勝てる気がしない。それほどの差があるし、その差が私にも分かるようになってきた。
 「さて。挨拶がわりに練習場に行こうか。オークを500匹倒した人間が、どの程度の腕なのか見てみたい。」
 「えーと。その話はかなり盛られています。実際のところ100匹前後くらいだと思います。」
 「ではオーク100匹を倒した腕を見よう。」
 面白がられて噂ばかりが大きくなっている。
 ん?
 フェイスさんが脂汗をダラダラ流している。
 「だから装備を整えておけって言ったんだよ・・・マッチョ、死ぬなよ・・・」
 さすがに初対面で会ったばかりの人を殺さないとは思うけれども、あんまり脅さないで欲しい。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...