異世界マッチョ

文字の大きさ
上 下
22 / 133

22 マッチョさん、ソロウを離れる

しおりを挟む
 「うううう、マッチョさん、すいませーん・・・」
 「ツイグ、お酒はほどほどに。できれば飲まないほうが筋肉は大きくなります。」
 「了解っす。完全にお酒は止めれないでしょうけれども、しっかり憶えておくっす・・・」
 隣に座っているツイグが吐きそうな顔で話している。昨日は調子に乗ってかなり飲んでいたからなぁ。そして私が馬車を運転するハメになっている。昨日習ったばかりなのに。
 ハムを送ってもらう話は、私が出資した額を村が返すまでの利子としてタダで送ってもらえることになった。これでよほどの僻地ではない限り、当面どこに行ってもタンパク質の心配は無い。前途洋々だ。
 利子など要らなかったのだが、タベルナ村の住人からすれば村の恩人にお金まで無利子で借りる、というワケにもいかないだろう。ありがたく利子をいただくことにした。できればハムブルクの製法も知りたかったが、村長の許可無しには教えられないし、そもそも村長しか知らないそうだ。よい回復食だったので、作り方を是非とも知りたい。
 昨日休ませてもらった宿、あれは普通に宿だった。普通であることに驚いた。半年かそこらでここまで街が発展していることが凄い。次にもし会う機会があったら、あの村長さんは村長ではなく町長になっているかもしれない。
 しかし素晴らしい発展の仕方だった。筋肉に必要な栄養と仕事がすべて揃っていた。旅になど行かないで、タベルナ村でのんびりと肉体労働をしながら筋トレをするような日々を送ってもいい気がした。もはや故郷に帰ることも無いだろう。あの村が私の第二の故郷になるのかもしれない。

 ソロウに着いたらツイグに馬車の返還業務をやってもらい、私は武器屋さんへと向かった。装備を金属製へと変えることと、私の防具について打ち合わせをしたい。
 「こんにちはー。」
 「あ、マッチョさん。こんにちは。斧の方はもう仕上がってますよ。」
 べったりついた魔物の血のりが消えて、ピカピカに仕上がっている。鞘についていた汚れも綺麗になった。お気に入りの革靴を磨きに出して帰ってきた時のようにご機嫌だ。
 「いい仕上がりですね。鎧のほうは今後、金属製のものを使うことにしました。またお手数ですが、よろしくお願いします。」
 「あれ。マッチョさん二日後にはソロウを出るんですよね?」
 ああそうか。間に合わないのか。皮鎧だって急がせてしまったものな。
 「二日ではできませんよね。じゃぁ皮鎧の方を着ていきます。金属製の鎧は、出来次第でいいので王都へ送っていただけますか?」
 「うーん・・・それがですね。鎧のほうはけっこうダメージが大きくて。金額はそれほどでもないんですが、工程がほぼ作り直すのと同じ程度の日数になりそうなんですよ。なんか内側からも外側からも、かなり大きな力が加わったみたいで。マッチョさん出かけていたみたいですし、保留になっているものに手を加えるわけにもいきませんでしたし。」
 ・・・あれ。
 ということは、私は鎧なしで王都に行かなくてはいけないのか?
 「まぁマッチョさんの恰好は宗教上の正装というお話でしたし、その恰好で問題無いんじゃないでしょうか。」
 私はこの街に来たときと同様に、短パンとタンクトップでこの街を出ていかないといけないのか。
 しかも今度は大斧を背負っている。より不審者めいた見た目じゃないだろうか。子どもの頃にやったゲームで、これに似たような恰好のモンスターが出て来たような気がする。
 「この服で王都へ行っても、大丈夫でしょうか?」
 「宗教上の正装っていうお話を聞いてなければ、かなり怪しい人に見えちゃうかもしれないですね。デカい斧を背負ってますし。」ダメじゃないか。
 「なにかこう、私が着られるような服ってすぐにできないですかね?」
 「うーん、鎧の時ですらアレでしたからねぇ。二日でどうこうっていうのはちょっと・・・」
 やはりこの恰好で行くしかないのか。

 ソロウを離れる朝が来た。
 宿の主人に挨拶をし、朝食を摂り、ギルドへと向かった。
 「おい、なんだその恰好は。装備を整えておけって言ったよな?」
 タンクトップに短パンに革製の靴。それに毛皮のマントに大斧。そりゃフェイスさんも怒る格好だ。
 「修理が間に合わなかったんですよ。」
 「あー、吹っ飛ばされてたもんな。鎧の替えなんて持ってないか。しかしその恰好で王都に入れるのか・・・」
 そこはもうフェイスさんに頼るしかない。
 「いちおう宗教上の正装なので、フェイスさん口添えお願いします。」
 色々と不本意でこの恰好なのだ。宗教上の正装という話も間違いではない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...