異世界マッチョ

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20 マッチョさん、装備を考えたりハムを食べたりする

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 「そういえば武器屋さんに、防具を金属製にしないかという話をされたんですが、やはり皮よりも金属の方がいいんでしょうか?」
 「お前なら金属の方がいいんじゃないのか?旅に出るなら毒を持った野生動物や魔物を相手にしないといけないこともあるからな。革製だと牙とか爪が貫通するぞ。」
 それは怖い。
 「毒消しとかは・・・」
 「あるにはあるが、効いてくるまで時間がかかるからなぁ。毒をもらった状態で戦うのはしんどいぞ。痛いし。あと毒によっては鎮痛剤と毒消しを併用できないからなぁ。」経験済みという感じの言葉だ。
 「毒消しで思い出した。お前に渡した鎮痛剤、ちゃんと色のついた瓶に入れて保管しておけよ。ああいうのを持っているか持っていないかってところで、冒険で生死を分けることになるからな。」
 都合のよい回復方法が無いこの世界では、たしかに痛み止めは大切だ。しかし私は生死がかかったような冒険に出なくてはいけないのか?もう少しヌルい旅でいいのだが。
 「まぁ俺の方の用事はこれで全部だ。三日後の早朝にはギルドに来てくれ。」
 「分かりました。」
 この街とお別れか。王都に行けばきちんとタンパク質を取れるほどの稼ぎになるのだろうか?
 
 ギルドの詰所に寄って、ルリさんと話をする。いちばんお世話になった人間だ。
 「マッチョさん、この街を離れちゃうんですよね・・・」
 やっぱり分かっていたか。有能かつ聡明だ。しかし目線は明らかに筋肉に行っている。いままでお世話になったお礼代わりにバルクアップのひとつでもしてあげたいところだが、あちこち痛んだ状態で筋肉に負荷はかけられない。この人は私と私の筋肉と、どちらと別れるほうが辛いのだろうか。
 「ルリさん、本当にお世話になりました。お別れは三日後ですけれどもね。」
 「まぁ仕方ありませんよね。お仕事がある場所に行かないと、食べられませんものね。」
 「えー、マッチョさんギルドからいなくなるんですか?」
 他の冒険者たちがギルドにやって来た。まだお酒臭いな。
 「ええ。魔物が少なくなって稼げないから、他の街に行ってこいとギルマスに言われて。」
 「あー、そうですよねぇ。しばらくは薬草採取とか、街道整理とか、あんまりお金にならない仕事ばっかですもんね。」
 「弱い魔物退治までマッチョさんにやられたら、俺らが食えなくなるもんなぁ・・・」
 「でも旅に冒険かぁ。いいなぁ・・・」
 「いちおう冒険者だからなぁ、俺らも。憧れるよなぁ・・・」
 一部の人間しか旅はできないようだ。そういえば私は前の世界でもたいした旅の経験が無い。こういう世界なら野宿をする必要もあるだろう。うーむ・・・
 「ルリさん、旅の経験はありましたよね?」
 「ええ、まぁありますけれど。」
 「旅に必要なものってどんなものでしょう?」
 「うーん。一般的な魔物退治に必要な道具に加えて、毛布に多めの食料とかですかね。携帯用のテントを持ち運べれば快適になりますよ。かさばっちゃいますけれど。」
 今回は意外なものが入っていなかった。
 「マッチョさん、どちらへ行くのか決めているんですか?」
 「いえ、まったく考えてないです。王都に行くことになったので、そちらに滞在してから決めようかと思っています。」
 さっき旅に出ることが、私の意思とは関係なく決まったのだ。
 「王都のほうが情報が集まりやすいですからね。グランドマスターとお話をしていたら、行きたいところも決まると思いますよ。」
 そうだな。いま考えても仕方が無い。装備を整えて、王都に行く準備にだけ専念しよう。
 「じゃぁ今日はこれで。また来ます。」
 「マッチョさんお疲れ様でした。」
 「マッチョさん、お疲れしたー!」
 「ハムの残りは、マッチョさん行きつけのお店に持っていくので食べてください!」
 そういえば村長が持ってきたハムをまだ食べてないぞ。塩漬けだろうから、保存食として使えるのではないだろうか?しかも待望のムネ肉だ。

 昼食を取りにいつもの食堂へ行く。
 「マッチョさん、ハム届いてますよ!食べますよね?」
 いつもの給仕のお姉さんだ。
 「ええ。いつものお肉セットと野菜セットと、ハムを一人前ください。」
 「承りましたー!」
 あの村長が樽いっぱいに持ってきたくらいだ。かなりの自信作なのだろう。即興で作ったハムブルクですらあの仕上がりだったのだ。いったいどんな味なのだろう?
 来た。
 待望のハムだ。見た目はサラダチキンの香草味に近い。ナイフで一口サイズに切り、フォークで口に運ぶ。さぁ、味はどうだ・・・
 美味い!
 そうか。防腐剤や添加物が入っていないハムだから、これほどの滋味が出るのか。
 サラダチキンなどと比べたら申し訳が無い。これでひとつの料理として成立している。あの村長はどれほどデキる男なのだ。
 「それ、美味しそうですよね。シェフも食べたがってましたよ。」
 「給仕さんも食べたいですか?」
 「そりゃもう!美味しいかどうかなんて見た目で分かりますよ!お仕事ですから。」
 「じゃぁお世話になったので、皆さん一皿ずつ食べてください。」
 「いやったー!ハムぅー!こーきゅーひーん!」
 肉に喜ぶ声を聞くのは嫌いではない。
 恒例の肉と野菜のセットを食べ終わったら、シェフが出てきた。いつも厨房のほうで忙しそうにしているから、初めて会ったな。
 「マッチョさん、ハムありがとうございます。本当に高価なものを頂いて・・・従業員を代表してお礼を言います。」
 頂きものだからなぁ。あまり畏まれても困る。
 「私、三日後にはこの街を出なくちゃいけないんですよ。色々ありまして。で、伺いたいのですが、このハムってどれくらい日持ちしますかね?」
 「よくできた塩漬けですからね。もうすぐ冬になりますし、冬を越せる程度には日持ちすると思いますよ。」
 まったく村長。なぜこれほどデキる男なのだ。私は心の中でガッツポーズを取り、顔は満面の笑みになってしまった。
 「では皆さんがいただいた残りを、出発の時にもらっていきます。」
 「だいたい樽半分くらいですかね。すぐに食べられるように、五人前ほど少し塩抜きをしておきます。」
 このシェフも分かっている。王都に着くまでどれくらいの日数がかかるか知らないが、タンパク質の補給だけは忘れてはいけないのだ。
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