異世界マッチョ

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17 マッチョさん、補給する

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 「鶏卵と小麦粉はありますね。では調理場をお借りします。」
 なにができるんだろう。
 ギルドの詰所は、冒険者にギルド職員、それに防衛戦に参加した人たちでいっぱいになった。美味しそうにハムを食べている。いいなぁ。私の分も残しておいて欲しい。
 「マッチョさん、マジ凄かったっす!」
 「マッチョさん、ゴチっす!ハム激ウマっす!」
 「マッチョさん、一生ついていきます!」
 一生ついてこられても困るなぁ。
 戦勝のお祝いだ。はっちゃける人たちもいるだろう。
 
 「しかしマッチョ、お前スゴいな。パワーだけで身体強化魔法を使う魔物を倒すなんて話、聞いたことが無いぞ。というか固有種自体が珍しいんだけれどもな。」
 フェイスさん、もう飲んでる。ルリさんも飲み始めた。
 私も水分補給をしておこう。クエン酸を入れたいところだが、胃が受け付けない気がする。いつもの温かいお茶を飲むことにした。水分補給だけしっかりしておこう。
 「フェイスさん、以前固有種と戦ったことがあるんですよね?」
 「俺の時はパーティだったからな。その時も身体強化魔法を使う魔物だったんだが、魔法ってのはずっと使い続けられるワケじゃねぇんだ。だからひたすら打ち込んで、相手の魔法切れまで粘ってやっと倒したんだよ。今回のより小物だったしな。」
 「逃げても良かったんですけれど、珍しいからやりたいって言って聞かなかったんですよね・・・」
 ルリさんにとってはあんまりいい思い出ではないらしい。
 「ま、まぁ今回は経験が生きただろう?やっておくモンなんだよ、チャンスがあれば、ああいうのは。」
 「まぁたしかに今回はあの時の経験に助けられましたけれどもね・・・」
 機嫌が悪いなぁ。話を変えよう。
 「他の魔法を使う魔物ともやったことがあるんですか?」
 「固有種自体が珍しいからな。俺は身体強化魔法のやつしか知らない。風の魔法を使うとか、火の魔法を使うとか、とんでもなく手強いやつもいるらしい。」
 魔法、あるじゃないか。
 「なんで人間は魔法が使えないんでしょうかね?」
 「いや、なんで魔物は魔法が使えるんだ?」
 ああ、そうか。そうだよな。魔物だけがなんで魔法を使えるんだろう?
 「人間が魔法を使えるようにならないか、という研究もあったことはあったんですよね。でも魔法自体がどういうものなのか分からなかったんです。魔物は魔法が使えるものなんだっていう理解で止まっていますね。」
 「ああそうだ、思い出した。魔法を使える魔物ってのは絶対に魔石ってのを持っている。魔物の体内にある石なんだが、これの正体がまったく分からない。で、初代王からの伝統で、魔石はすべて王都で保管することになっている。あれに魔物が寄ってくることは分かっているからな。王都の迎撃部隊で魔物をまとめて倒せばいいっていうワケだ。」
 「魔石自体の研究も行われていますし、私もそちらの文献を読んだりもしたのですが、実際のところアレがなにを意味するのか分かっていないというのが現状ですね。なぜ魔物が寄ってくるのかも分かっていません。」
 (へぇー、そうなんだ。)
 (俺らの知らない話ばっかりだなぁ。)
 「お前らには関係ないだろ。ソロウの生まれでソロウの育ちなんだ。辺境まで行ける冒険者なんかいないだろうが。」
 「まぁそうすねぇ~」
 「俺らじゃなぁ。マッチョさんやギルマスくらい強ければ行ってみたいけれどなぁ・・・」
 旅か。私もこの街を離れてどこかに旅立つ時が来るんだろうか?

 「できましたぞー!」
 調理場から村長さんが一皿運んできてくれた。
 これは・・・ハンバーグ?
 「どうぞマッチョさん。これなら食べられるでしょう。」
 食べられそうだ。
 「いただきます。」
 一口食べる。
 旨い!
 この世界に飛ばされてから一番旨い料理だった。なんだこの絶妙な香辛料の組み合わせは。つくねのような味を想像していたが、これは鶏肉のハンバーグだ。養鶏の手腕といい、料理の腕といい、この村長はどれだけデキる男なのだ。
 「旨いです!」
 (いいなぁ、マッチョさん・・・)
 (いい匂いするもんなぁ・・・俺らも食いたいよなぁ・・・)
 (一口でいいから、俺も食いたいなぁ・・・)
 うーん、ひとりで食べづらい雰囲気になってきた。
 「あのー、あと何皿くらいできますか?もっと食べたいんですが。」
 「十皿はいけますぞ!すぐに焼き上げますから!」
 「じゃー私にはもう一皿だけください。残りはみなさんで食べてください!」
 また歓声が上がる。肉に対して歓声が上がる光景は嫌いではない。
 「珍しい料理だな。名前はあるのか?」
 「かの地ではハムブルクと呼ばれていましたね。辺境の地を旅していたときに、余った豚の肉片をミンチにして焼き上げていました。今回は鶏肉で代用して、タベルナ村秘伝のスパイスを混ぜ合わせてあります。」
 「へぇー、旨そうだ。俺にも一皿頼めるか?」
 「もちろんですぞ!」
 ハンバーグという点がいい。ミンチにした分だけ肉の消化にエネルギーを使わずに済むからだ。その分だけ吸収率も上がる。BCAAほどの効能は無いにしても、これなら明日の筋肉痛を最小限に抑えられるはずだ。
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