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11 マッチョさん、訓練を受ける
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翌日。フェイスさんと共に魔物退治に行く。
フェイスさんの装備は大剣に鉄鎧に鉄兜。ずいぶんと凝ったデザインだ。その辺で買える量産品ではないことが一目で分かる。
依頼された場所に行ってみたらさっそくコボルトがいた。そしていつも通りに逃げられた。
「ふむ・・・なるほどなぁ・・・」
「こうなっちゃうので、私はまだ実戦経験も無いんですよ。」
「ふっ・・・ふはははは!」
すごく笑われている。
「逃げ出して実戦経験を積めないルーキーはいたが、逃げられて実戦をやったことが無いなんてのは初めて聞いたぞ!なんだそれ!」
爆笑されているが、それ故に問題も出てくる。
「ですので、今度すこし稽古をつけていただけないでしょうか?いきなり強敵と戦うとかできるかどうか分かりませんし。」
フェイスさんの顔がピクリと動き、真剣な顔つきになった。
「たしかに。強さということと、能力が発揮されるということは別の話だ。よし、帰ったら少し教えてやろう。」
やった!異世界でトレーナーを見つけた。
「よろしくお願いします!」
ずっとダンベル代わりだった大斧も、これでようやく武器として使うことができる。
「ああ、少し腕が見たい。あそこにある木を、斧で思い切りぶった切ってみろ。」
「分かりました。」
成人男性の胸回り程度はあるだろうか。だいたい直径1mほどかな。歩いて近づき、大斧を取り出し、呼吸を整える。斧を両手で持ち、鼻から息を吸い、全力で横殴りに叩きつけた。
「ふんっ!」
バーベルを持ち上げた時みたいな声が出た。
一発で八割ほど斧が入った。あっ、危ない。こっちに倒れてくる。みしみしと音を立てて傾いたあとに、どすんと音が鳴って木は倒れた。
「どうでしょうか?」
フェイスさんが口を開けてポカンとしている。
「いや、斧ってのはそういう使い方じゃないんだけれどもな・・・」
違うのか。木を切り倒したことなど経験が無いので、とりあえず全力でやってしまった。
「ちょっとその斧を見せてみろ。」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
フェイスさんが両手に持ち替えて、まじまじと見ている。
「重量がかなりあるな。叩きつけるだけでも大ダメージを与えるだろう。というかメイスより重いじゃねぇか。そしてこの切れ味。なかなかの業物だな。慣れてくれば、あの程度の木をナタで枝を切るように倒せるようになるだろう。」
いや、私は木こりになりたいわけでは無い。トレーニングにはなるかもしれないが、タンパク質を十分に摂取できるような仕事ではないことは調査済みだ。
「ふーむ、いくつか分かった。あとはギルドの練習場で教えよう。」
「ありがとうございます。」
ギルドの練習場は、映画で見たローマの闘技場を小さくしたようだった。こんな施設もあったのか。防具を付けたまま訓練に臨んだ。
「まずは木刀からだ。ほれ。」
フェイスさんから投げられた木刀を掴む。
「さてと。まずはお前と俺との力関係について話そう。素手だと俺が勝てる要素はほぼゼロだ。まぁ十回やって一勝か一引き分けにできたら上出来だろうな。」
ふむ。
「で、その木刀でお互いに戦うとする。木刀のみでだ。そうすると俺の勝率はだいたい八割くらいまで上がる。まぁこれでもギルマスだからな。」
ふーむ、そこまでの差があるのか。
「まぁものは試しだ。打ってこい。」
「分かりました。」
私が振り上げた木刀は振り下ろす前にあっさりとフェイスさんに弾かれ、フェイスさんの木刀は私の喉の手前で止められた。明確な差がある。これは筋肉とは別の話だ。冷や汗がどっと噴き出す。
「パワーはお前の方が上だ。だがまるで技量がない。明らかに戦い慣れていない人間の動きだ。斧の扱いもまるで素人だったからな。」
図星を突かれた。そもそも戦うために肉体を鍛えたワケではない。
「大剣と斧は基本的な扱いや弱点もおなじだ。武器の初速が勝敗を分ける。ふつうのサイズの剣よりも速く動かせない分、的に当てづらいからな。道具を速く正確に動かす。これが技量だ。まぁ慣れないうちは軽い棒でその辺のカカシを叩いたり、マキ割りでもやった方がいいだろう。止まっているものに正確に当てられるようになってから、動くものに当てられる訓練をした方がいい。」
「なるほど・・・」
トレーニングに美しい姿勢や正しい姿勢があるように、剣術にもやはり正しいやり方というものがあるようだ。魔物退治や筋トレ以外にもやる事が増えた。
「あとは視線だな。目の動きでなにがやりたいのか丸わかりだ。魔物でもその辺を見抜く奴はいるぞ。まぁ実際に経験したほうが早いな。もう一本やっておくか。」
「はい!」
目線、正確さ、速さか。
対象をぼんやりと見て、素早く。
今度は胴払いを狙う。途中で軌道を変え、頭を狙った。
フェイスさんの顔に笑みが浮かんでいる。
完全に読まれていた。が、私の手はもう止まらない。フェイスさんは私の木刀を受けに来ている。私の一撃をいなされてまた一本取られるだろう。これが技量の差か。
ボキッ!なにかが折れる音がした。
グシャ!なにかが潰れる音がした。
「ふぐぅお!」フェイスさんの声がした。
フェイスさんの木刀が折れて、綺麗に私の木刀が頭へ入ってしまった。倒れて泡を吹いている。兜はつけていたし木刀だったから死んではいないと思うんだけれど、これはマズいのではないだろうか。誰かを呼びに行ったほうが良さそうだ。
予想外のトラブルで勝率二割のほうが来てしまった。
フェイスさんの装備は大剣に鉄鎧に鉄兜。ずいぶんと凝ったデザインだ。その辺で買える量産品ではないことが一目で分かる。
依頼された場所に行ってみたらさっそくコボルトがいた。そしていつも通りに逃げられた。
「ふむ・・・なるほどなぁ・・・」
「こうなっちゃうので、私はまだ実戦経験も無いんですよ。」
「ふっ・・・ふはははは!」
すごく笑われている。
「逃げ出して実戦経験を積めないルーキーはいたが、逃げられて実戦をやったことが無いなんてのは初めて聞いたぞ!なんだそれ!」
爆笑されているが、それ故に問題も出てくる。
「ですので、今度すこし稽古をつけていただけないでしょうか?いきなり強敵と戦うとかできるかどうか分かりませんし。」
フェイスさんの顔がピクリと動き、真剣な顔つきになった。
「たしかに。強さということと、能力が発揮されるということは別の話だ。よし、帰ったら少し教えてやろう。」
やった!異世界でトレーナーを見つけた。
「よろしくお願いします!」
ずっとダンベル代わりだった大斧も、これでようやく武器として使うことができる。
「ああ、少し腕が見たい。あそこにある木を、斧で思い切りぶった切ってみろ。」
「分かりました。」
成人男性の胸回り程度はあるだろうか。だいたい直径1mほどかな。歩いて近づき、大斧を取り出し、呼吸を整える。斧を両手で持ち、鼻から息を吸い、全力で横殴りに叩きつけた。
「ふんっ!」
バーベルを持ち上げた時みたいな声が出た。
一発で八割ほど斧が入った。あっ、危ない。こっちに倒れてくる。みしみしと音を立てて傾いたあとに、どすんと音が鳴って木は倒れた。
「どうでしょうか?」
フェイスさんが口を開けてポカンとしている。
「いや、斧ってのはそういう使い方じゃないんだけれどもな・・・」
違うのか。木を切り倒したことなど経験が無いので、とりあえず全力でやってしまった。
「ちょっとその斧を見せてみろ。」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
フェイスさんが両手に持ち替えて、まじまじと見ている。
「重量がかなりあるな。叩きつけるだけでも大ダメージを与えるだろう。というかメイスより重いじゃねぇか。そしてこの切れ味。なかなかの業物だな。慣れてくれば、あの程度の木をナタで枝を切るように倒せるようになるだろう。」
いや、私は木こりになりたいわけでは無い。トレーニングにはなるかもしれないが、タンパク質を十分に摂取できるような仕事ではないことは調査済みだ。
「ふーむ、いくつか分かった。あとはギルドの練習場で教えよう。」
「ありがとうございます。」
ギルドの練習場は、映画で見たローマの闘技場を小さくしたようだった。こんな施設もあったのか。防具を付けたまま訓練に臨んだ。
「まずは木刀からだ。ほれ。」
フェイスさんから投げられた木刀を掴む。
「さてと。まずはお前と俺との力関係について話そう。素手だと俺が勝てる要素はほぼゼロだ。まぁ十回やって一勝か一引き分けにできたら上出来だろうな。」
ふむ。
「で、その木刀でお互いに戦うとする。木刀のみでだ。そうすると俺の勝率はだいたい八割くらいまで上がる。まぁこれでもギルマスだからな。」
ふーむ、そこまでの差があるのか。
「まぁものは試しだ。打ってこい。」
「分かりました。」
私が振り上げた木刀は振り下ろす前にあっさりとフェイスさんに弾かれ、フェイスさんの木刀は私の喉の手前で止められた。明確な差がある。これは筋肉とは別の話だ。冷や汗がどっと噴き出す。
「パワーはお前の方が上だ。だがまるで技量がない。明らかに戦い慣れていない人間の動きだ。斧の扱いもまるで素人だったからな。」
図星を突かれた。そもそも戦うために肉体を鍛えたワケではない。
「大剣と斧は基本的な扱いや弱点もおなじだ。武器の初速が勝敗を分ける。ふつうのサイズの剣よりも速く動かせない分、的に当てづらいからな。道具を速く正確に動かす。これが技量だ。まぁ慣れないうちは軽い棒でその辺のカカシを叩いたり、マキ割りでもやった方がいいだろう。止まっているものに正確に当てられるようになってから、動くものに当てられる訓練をした方がいい。」
「なるほど・・・」
トレーニングに美しい姿勢や正しい姿勢があるように、剣術にもやはり正しいやり方というものがあるようだ。魔物退治や筋トレ以外にもやる事が増えた。
「あとは視線だな。目の動きでなにがやりたいのか丸わかりだ。魔物でもその辺を見抜く奴はいるぞ。まぁ実際に経験したほうが早いな。もう一本やっておくか。」
「はい!」
目線、正確さ、速さか。
対象をぼんやりと見て、素早く。
今度は胴払いを狙う。途中で軌道を変え、頭を狙った。
フェイスさんの顔に笑みが浮かんでいる。
完全に読まれていた。が、私の手はもう止まらない。フェイスさんは私の木刀を受けに来ている。私の一撃をいなされてまた一本取られるだろう。これが技量の差か。
ボキッ!なにかが折れる音がした。
グシャ!なにかが潰れる音がした。
「ふぐぅお!」フェイスさんの声がした。
フェイスさんの木刀が折れて、綺麗に私の木刀が頭へ入ってしまった。倒れて泡を吹いている。兜はつけていたし木刀だったから死んではいないと思うんだけれど、これはマズいのではないだろうか。誰かを呼びに行ったほうが良さそうだ。
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