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10 マッチョさん、呼び出される
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その後、私は適当にギルドの依頼をこなしていった。
あまりに簡単に逃げるので、だんだん斧を取り出すのも面倒くさくなってきた。大声を上げて逃げない魔物の時だけ斧を取り出したが(そしてあっさり逃げられたが)、まだ一度も武器として使っていない。トレーニング用具としてはスクワットや腹筋のウエイトに使えるので重宝している。
装備を点検し、依頼をこなし、食事を摂り、筋トレをする。筋トレに熱が入り過ぎて筋肉痛を感じた時は、休日にして街を歩き、タンパク質を多めに補給する。
淡々と地道なことを続けることは嫌いではないし、お金は貯まってゆく。
しかしなんだかこう、ハリが無い。
そもそも実戦経験が無いままお金が増えてゆくことに、ものすごく抵抗感がある。
こういう心理状態になることはトレイニーとして自己評価できる点だと思う。天から降って湧いたような評価やお金というものは、慢心や油断を産む。地道に積み上げてきた筋肉が評価されるように、やはり積み上げるものが無いと私は満足感を得られないようだ。
その一方でギルド内での私の評価はじょじょに上がっていった。壁いっぱいだった依頼はかなり減り、怪我で病院にいたギルドメンバーも戻ってきた。パーティを組んで依頼をこなす人たちも見るようになった。ようやくブラックでは無い環境になったのだ。ギルドは少しずつ活気づいていった。顔見知りも増えていき、挨拶くらいはするような間柄になった人もいた。
ふう。今日も魔物退治をするか。気乗りしなくても仕事だ。
ギルドに行って討伐依頼を確認しようとしたら、ルリさんに呼び止められた。
「マッチョさん、ギルマスがお呼びです。」
なんだろう。
ルリさんに案内されて、部屋の前に来る。コンコン。
「失礼します。マッチョさんをお連れしました。」
「うん、下がっていいぞ。」
「はい、失礼します。」
身長185cm程度、体重は約80kgほど。体脂肪率は15%前後。なんというか、戦場で鍛え上げた肉体という感じの男が目の前にいる。
「お前がマッチョか。噂通りいいカラダだな。ソロウの街のギルドマスター、フェイスだ。」
「マッチョです。初めましてフェイスさん。」
「まぁ座れ。」
簡単な応接セットをアゴで指した。私は下座に座った。
「要件はお前の報告内容だ。魔物逃亡回数が十回以上だろ。」
正確には毎日3回×50日程度なので150回を超えていると思う。
「あー、たしかに十回は超えていますね。」間違いではない。
「ギルドの規定で、次の討伐には俺も帯同する。というのも、魔物逃亡に関しては正確に把握した方がいいんでな。」
うーん、私の仕事っぷりを疑われているのだろうか。たしかにやる気はあまり無い。
「まぁお前の肉体を見たら、だいたいこの辺の魔物なら逃げるだろう。形式的なものだ。」
ピンと来た。
「ああ、魔物逃亡の場合はギルドから報酬が上乗せされますから、そちらの問題でしょうか?別に上乗せ報酬は無くてもいいんですが。」
「いや、カネの問題だけではない。まぁたまにカネ目的でそういうことをやらかす奴もいる。しかしギルドが損失を被るだけが問題ではない。この件は死者が出ることもある。というのも、ギルドの討伐依頼というものは魔物の死体を見て確認してから完了することが多いからだ。しかし魔物逃亡の場合はそうではない。」
「なるほど。魔物が逃げてしまうと、死体が確認できませんものね。」
「うむ。魔物が逃亡した場合、倒した場合と比べて圧倒的に魔物との接触率が減る。魔物同士で情報共有をしているからだと思われるが、単純にその地域には来なくなる。ギルドとしても名声が上がるので上乗せ報酬を追加しているのだが、これが仮に虚偽申告だとすると、いないはずの魔物がそこに出没するようになる。」
「ああ・・・それは危険ですね。」
近隣の住民が安全地帯だと思ってその地域を通ったら、魔物に襲われるなどという事態もあるのか。たしかにこれはギルドマスターの仕事だ。
「まぁギルドの事務方や受付ももとはギルドの冒険者だった奴が多い。本当に怪しければとっくに俺のところに報告が来ていたはずだ。重ねて言うが、今回の帯同はあくまで形式的なものだ。俺個人としてはお前の報告を疑っているわけではない。まぁいちおう規則だからな。明日は俺もお前についていく。」
「分かりました。依頼の方は私が決めてもいいんでしょうか?」
「任せる。できれば魔物逃亡の現場が見られる依頼がいい。」
「ではオークかコボルトあたりを選びましょう。みんな逃げちゃうんですよ。」
「まぁそのカラダを見たら逃げるだろうな。俺だって敵にお前がいたら大変そうだから逃げたい。」
酷い言われようだが、評価はされているんだろう。
あまりに簡単に逃げるので、だんだん斧を取り出すのも面倒くさくなってきた。大声を上げて逃げない魔物の時だけ斧を取り出したが(そしてあっさり逃げられたが)、まだ一度も武器として使っていない。トレーニング用具としてはスクワットや腹筋のウエイトに使えるので重宝している。
装備を点検し、依頼をこなし、食事を摂り、筋トレをする。筋トレに熱が入り過ぎて筋肉痛を感じた時は、休日にして街を歩き、タンパク質を多めに補給する。
淡々と地道なことを続けることは嫌いではないし、お金は貯まってゆく。
しかしなんだかこう、ハリが無い。
そもそも実戦経験が無いままお金が増えてゆくことに、ものすごく抵抗感がある。
こういう心理状態になることはトレイニーとして自己評価できる点だと思う。天から降って湧いたような評価やお金というものは、慢心や油断を産む。地道に積み上げてきた筋肉が評価されるように、やはり積み上げるものが無いと私は満足感を得られないようだ。
その一方でギルド内での私の評価はじょじょに上がっていった。壁いっぱいだった依頼はかなり減り、怪我で病院にいたギルドメンバーも戻ってきた。パーティを組んで依頼をこなす人たちも見るようになった。ようやくブラックでは無い環境になったのだ。ギルドは少しずつ活気づいていった。顔見知りも増えていき、挨拶くらいはするような間柄になった人もいた。
ふう。今日も魔物退治をするか。気乗りしなくても仕事だ。
ギルドに行って討伐依頼を確認しようとしたら、ルリさんに呼び止められた。
「マッチョさん、ギルマスがお呼びです。」
なんだろう。
ルリさんに案内されて、部屋の前に来る。コンコン。
「失礼します。マッチョさんをお連れしました。」
「うん、下がっていいぞ。」
「はい、失礼します。」
身長185cm程度、体重は約80kgほど。体脂肪率は15%前後。なんというか、戦場で鍛え上げた肉体という感じの男が目の前にいる。
「お前がマッチョか。噂通りいいカラダだな。ソロウの街のギルドマスター、フェイスだ。」
「マッチョです。初めましてフェイスさん。」
「まぁ座れ。」
簡単な応接セットをアゴで指した。私は下座に座った。
「要件はお前の報告内容だ。魔物逃亡回数が十回以上だろ。」
正確には毎日3回×50日程度なので150回を超えていると思う。
「あー、たしかに十回は超えていますね。」間違いではない。
「ギルドの規定で、次の討伐には俺も帯同する。というのも、魔物逃亡に関しては正確に把握した方がいいんでな。」
うーん、私の仕事っぷりを疑われているのだろうか。たしかにやる気はあまり無い。
「まぁお前の肉体を見たら、だいたいこの辺の魔物なら逃げるだろう。形式的なものだ。」
ピンと来た。
「ああ、魔物逃亡の場合はギルドから報酬が上乗せされますから、そちらの問題でしょうか?別に上乗せ報酬は無くてもいいんですが。」
「いや、カネの問題だけではない。まぁたまにカネ目的でそういうことをやらかす奴もいる。しかしギルドが損失を被るだけが問題ではない。この件は死者が出ることもある。というのも、ギルドの討伐依頼というものは魔物の死体を見て確認してから完了することが多いからだ。しかし魔物逃亡の場合はそうではない。」
「なるほど。魔物が逃げてしまうと、死体が確認できませんものね。」
「うむ。魔物が逃亡した場合、倒した場合と比べて圧倒的に魔物との接触率が減る。魔物同士で情報共有をしているからだと思われるが、単純にその地域には来なくなる。ギルドとしても名声が上がるので上乗せ報酬を追加しているのだが、これが仮に虚偽申告だとすると、いないはずの魔物がそこに出没するようになる。」
「ああ・・・それは危険ですね。」
近隣の住民が安全地帯だと思ってその地域を通ったら、魔物に襲われるなどという事態もあるのか。たしかにこれはギルドマスターの仕事だ。
「まぁギルドの事務方や受付ももとはギルドの冒険者だった奴が多い。本当に怪しければとっくに俺のところに報告が来ていたはずだ。重ねて言うが、今回の帯同はあくまで形式的なものだ。俺個人としてはお前の報告を疑っているわけではない。まぁいちおう規則だからな。明日は俺もお前についていく。」
「分かりました。依頼の方は私が決めてもいいんでしょうか?」
「任せる。できれば魔物逃亡の現場が見られる依頼がいい。」
「ではオークかコボルトあたりを選びましょう。みんな逃げちゃうんですよ。」
「まぁそのカラダを見たら逃げるだろうな。俺だって敵にお前がいたら大変そうだから逃げたい。」
酷い言われようだが、評価はされているんだろう。
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