異世界マッチョ

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8 マッチョさん、恥じ入る

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 村長を城門まで見送って、ギルドへと向かう。
 やはりギスギスした雰囲気だ。まぁあれだけ依頼が貯まっていたらこういう雰囲気になる。
 「あ、マッチョさんこんにちはー!装備の件、どうなりました?」ルリさんの声だ。
 「ええ、おかげさまでなんとか決まりそうです。アドバイス通りに斧でいくことにしました。明後日には出来上がる予定です。」
  「斧にしましたか!斧を振るときって筋肉がカッコいいんですよね。」
 この人の趣味だったのか。
 「で、今日は装備の話とは別に、ルリさんに質問がありまして。」 
 「はい、私に分かることならなんでも。」
 「魔物退治に行くときの食料ってどういったものがあるんでしょうか?」
 「うーん、日持ちする固めのパンと水とかですね。あと今は高くなっちゃいましたが、干し肉とか。」
 干し肉!
 いいぞ。タンパク質が取れて保存も効く。そういう手もあったか。
 「あーあと、私はレモネードなんかも持っていきましたね。やっぱり疲れるので。」
 クエン酸!
 疲労回復物質を忘れるなどどうかしていた。異世界に飛んだ程度の環境変化を忘れる理由にできない。そもそもクエン酸など、私が知っている回復薬そのものではないか。トレイニーとして恥じ入るばかりだ。
 ん?私は?
 「ルリさん、以前は魔物退治をやっていたんですか?」
 「短い期間だけですがやっていましたよ。魔物退治が主流になる前は冒険者でした。ここで働いてる人はそういう方が多いですよ。」
 辞めた理由・・・など聞かない方がいいな。誰にだって事情はある。異世界に飛ばされてタンパク質を探すハメになることだってあるのだ。
 「今日のマッチョさんのお召し物、それ浴衣ですか?」
 「ええ。なかなか私が着られるような服がなくて。服の方も仕立ててもらっています。」
 「へぇー、お似合いですよぉ。」
 思いきり筋肉を見られている。チラ見ができる筋肉もいいなぁという表情を隠そうともしないな、この人は。なんというか、親しくなるほど欲望に忠実になってきている気がする。
 「ああ、あと他に持って行った方がいいものってありますか?」
 「包帯、ナイフ、水、ひも、鎮痛剤、棒とかですかね。」
 「棒?」
 「歩けないくらい怪我をしたときに、杖代わりにするんです。その辺の木を切ってその場で作ってもいいんで、持ち歩かない人も多いですけれどね。地下とか樹木の無いところに行く場合は、棒は持って行った方がいいですよ。」
 冒険者とは名ばかりで、現状はハイリスクでハイリターンな肉体労働でしかない。
 異世界は怖い。
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