異世界マッチョ

文字の大きさ
上 下
3 / 133

3 マッチョさん、ギルドへ行く

しおりを挟む
 城門を入ってすぐのところでロバと荷台を預けて、私たちは街の中を歩いた。
 建物はレンガ製や石積みなどが混在している。
 お店の看板がカタカナなので、とりあえず文字が読めるのがありがたかった。そういえば最初から言葉も通じたなぁ。 
 「まずはギルドへ向かいましょう。オーク討伐依頼のお金を払い戻してもらって、あなたに差し上げますから。」
 「はい。」
 服を買おうにも肉を食おうにもお金が必要になる。うーん、今後の生活はどうしたものだろう?食べるものも住むところも必要になるなぁ。
 ギルドの建物はレンガで出来たドイツ様式。なかなか格式があるようだ。
 村長とギルドに入ったとたん、若い眼鏡をかけた女性が目を輝かせてこちらに向かってきた。
 「冒険者希望の方ですね?」
 カラダだけ見て決められた。強そうと思われるのは悪くない。
 「いや、先に依頼の取り消しをお願いします。タベルナ村のオーク討伐依頼です。」
 「あっ、失礼しました!ではこちらのカウンターへどうぞ。」
 すごくカラダを見られている。この子はたぶん筋肉フェチだな。
 異世界にも筋肉フェチがいるのか。
 村長が手続きをしている間、少しギルドの中を見てみた。
 休憩所のようなところにたしかに強そうな雰囲気の人間が数人いる。剣に槍に弓か。
 しかし、全体的になんかこう、タベルナ村の村人ほどでは無いにしろ、線が細い。あの肉体で戦うのはなかなか大変なのではないだろうか。
 村長の手続きが終わったようだ。
 「ではこれをお渡しします。改めて村を代表してお礼を申し上げます。」
 革袋にズシリとした重さ。やはり硬貨なのか。
 「ありがとうございます。正直なところ、路銀が尽きかけていたので助かります。」というか、この世界のお金も持っていなければ貨幣価値も分からないのだが。
 「街道のオークにも討伐依頼が出ていました。ギルドメンバーではないので少額しか支払われませんでしたが、手続きを済ませて報酬に追加しておきましたよ。」 
 この村長、デキる人だ。

 「あのー、本当に冒険者希望の方ではないのですか?」
 さきほどの眼鏡の女性に話しかけられた。
 ふむ、よく見ると程よく鍛えられた女性だ。体脂肪率20%を切る程度。必要以上の筋肉は付けないが、とっさの時に動きやすい程度の鍛え方をしている。なにかスポーツでもやっていたのだろうか。
 「ちょっと異国から来たもので、冒険者というものが分かっていないのです。」
 「冒険者というのはですね。ギルドが身分と能力を保証したなんでも屋さんです。主な仕事は魔物退治とかですね。」
 やはり身分保障が手に入るのか。これは助かる。
 「誰でもなれるものなのですか?」
 「ええ。強ければ誰でもなれます。」
 おおお、これだ。とりあえずの生活の糧は用意できそうだ。
 「この方を見たらオークも逃げましたぞ。」
 「それはすごい!強そうですものね。この方。失礼ながらお名前は?」
 「街尾スグルと言います。」
 「マッチョさんですね?」
 少し発音しづらい名前らしい。マッチョという名前で今後は通すことにした。
 「冒険者になろうと思います。正直なところ、お金があまりないので。」
 「あはは!ではこちらのカウンターで、お名前と年齢をお書きください。」
 カタカナで書類を埋める。
 「こちらが身分証になります。再発行手続きはお金がかかるので、失くさないようにしてくださいね。あちらの壁に貼ってあるのが現在の依頼です。」
 けっこうあるなぁ。あまり冒険者が多くないのだろうか。
 「罰則とか規約とか義務みたいなものはありますか?」無理矢理働かされるとか、戦場に連れていかれるとか。
 「ギルド員への暴行とか、虚偽の報告とか、あとは窃盗や殺人などの犯罪全般にはペナルティがありますね。義務はまぁ依頼さえ週にひとつくらいこなせれば、特にありませんよ。」

 うん?異世界なら、魔法とかポーションといったものもあるんだろうか?
 「あのー、戦闘で傷ついた場合に回復する薬みたいなものって、売ってますか?」
 「え、ないですよ。」
 え、ないの?
 「そういう便利なものがあれば、ギルドが人手不足になって依頼が来てもこなせない、なーんてことは無くなると思うんですけれどもねぇ。」
 うーん、この言い方だと、回復魔法みたいなものも無いな。筋トレの回数を増やして、超回復をしてからさらに筋トレして限界まで肥大化みたいなことを考えていたのだが、思っていたカンジと違った。
 「ということは、魔物と戦って怪我をしたら?」
 「なんとか街に帰って来て病院に行くしかないですね。」
 さらっと恐ろしいことを言われた気がする。魔物が多くなっでギルドが人手不足になったということは、その人手が病院にいるか死んだか廃業したということだろう。
 ずいぶんスパルタンな異世界に来てしまったようだ。私が読んだ異世界転生のマンガは、もう少しラクそうなやつだった。
 
 しかし稼ぎが無ければ生活もできぬ。
 こういうところだけ元いた世界と同じとは、なかなかに世知辛い。そういや村長をほったらかしだった。
 「すいません村長、付き合わせてしまって。」
 「いえいえ。マッチョさんがこの街に不慣れでしょうから、しばらく付き合うつもりだったんですよ。私のことは気にしないでください。」なんか村長もマッチョさんって呼んでる。
 「ではお言葉に甘えて。服も必要ですし。」
 「服というよりも、装備が必要になりますね。」
 ああそうか。戦うための服が必要なのか。しかしなにを選択したらいいのやら。
 「マッチョさんでしたら、どんな武器でも使えそうですけれどね。」
 村長、それは呑気過ぎるでしょう。剣も槍も弓も使ったことが無い。素人が簡単に扱える武器。   
 「うーん。」
 「あのー、私が提案してもよろしいでしょうか?」
 ああ、ギルドの人の意見も聞いた方がいいな。
 「お願いします。」
 「斧とかどうでしょうか?筋力と破壊力が直結しますし、技能的なものがあまり必要ないですよ。」
 ふむ。そういえば以前、広背筋のトレーニングにマキ割りを使っていたトレーニーの記事を読んだことがある。筋トレの用具に近い道具ならば使いこなせるかもしれない。
 「よさそうですね。実際に見てみたいです。」
 「では地図を差し上げますので、武器屋の方へ行ってみてください。先ほどの報酬でだいたい装備は整うはずですよ。」
 装備に、服に、肉か。
 新しい生活にはなにかとお金がかかる。
 「ついでに宿も紹介していただけませんか?」
 「ではギルドと提携している宿を紹介しますね。それも地図に書き込んでおきます」
 この女性、実に有能だ。
 「失礼。あなたのお名前も聞かせてください。」
 「ルリと申します。マッチョさん、よろしくお願いします。」
 「こちらこそ、よろしくお願いします。」
 分からないことがあったら、彼女に聞けばいいだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...