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1 マッチョさん、異世界へゆく
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私の名前は街尾スグル。
筋トレが趣味という以外は特段の特技もない、ただのサラリーマンだ。
長期の出張を終え、久しぶりに自分の部屋に帰ってきた。四畳半のトレーニングルームで筋トレを再開できることがすこぶる嬉しい。リフトを数rep終わらせバーベルを置いた瞬間に、棚に飾ってあった別のダンベルが顔面に落ちてきたところまでは憶えている。
そして私は死んだと思ったのだが、どうも見憶えが無いところにいる。草原といえばいいのだろうか。もうすぐ日が暮れそうだ。短パンにタンクトップというトレーニング用の服装だったので、少し肌寒い。
「う、うわーー!!」
悲鳴が聞こえた。近くに人がいるようだ。
声の近くまで早足で歩いてゆくと、見たことがない動物に人間が襲われている。
助けなければ。
急いで近づいてゆくと、そのヘンテコな動物は私を見てなぜか逃げていった。
「ありがとうございます!助かりました!」
あまり身ぎれいではないおじさんに礼を言われた。
「いまの動物はなんですか?」
「流行りのオークですよ。最近はこの辺にも出るようになって、困っていたのです。」
オーク。樽とかに使う木材とかじゃなくて、動物?
「あのー、助けていただいたお礼にウチの村に来ていただけませんか?お食事だけでも。」
うーむ、状況がぜんぜん分からない。バーベルがぶつかるとヘンな世界に来るのか?というか、これは死んでしまったのではないだろうか。
とりえあず寝るところも無いし、寒いし、私はお誘いを受けることにした。
自己紹介をしながら事情を聞いた。助けたおじさんは村の長だった。
案内された村の集会場はちょっとした小屋のようだった。村人が集まって話したりお祭りの時には準備をしたりする場所らしい。私は上座を勧められ、失礼が無いように言われるがままに座った。村長が、私を見て逃げていったオークの話をすると、村人たちがどよめいた。
「逃げた・・・のですか?」
「うむ、逃げた。」
「ではしばらくは安全ってことですね?」
「うむ。ありがたいことじゃ。」
「あのー」
まったく話についていけない。なにが起きたというのだ。
「私はちょっと遠くの国からやって来たので、この地域の事情をよく知らないのです。オーク?が逃げたということは、それほど重要なことなのでしょうか?」
「そりゃもう!これでしばらくは安心して暮らせますよ!」
「街に出していた討伐依頼も、取り消しに行かないとな」
「逃げた、ということは、魔物があなたに敵わないと思ったからです。魔物はあまり賢くはありませんが、馬鹿でもありません。敵わない相手に向かっていくことは無いですし、仲間に知らせてこの辺には二度と近づかないでしょう。」
なるほど。ん?
「魔物。」
「さっきのオークですよ。」
魔物がいるのか。え。魔物?さっきのが?
どうやら私が知っている世界ではないようだ。異世界転生というやつか。マンガで少し読んだことはあるが、まさか私が転生してしまうとはなぁ・・・
「とにもかくにも目出度い。さぁ、食事とお酒をどうぞ。」
「あ、私はお酒を飲んではいけない宗教なのです。申し訳ありません。」マッチョ的には宗教で通すしかないだろう。相手の好意なのは分かっているが、アルコールは筋肉の敵だ。
しかしなんというか、食事があまりよろしくない。パンに果物。緑黄色野菜が少な目で、肝心のタンパク質が無い。
「あまり食事が進んでいないようですが、お口に合いませんでしたか?」
「そういうわけではありませんが、宗教上の理由でパンや果物はあまり口にしてはいけないのです。」まぁ間違った説明ではない。必要以上の糖質は、筋肉とは関係がない。
「できれば、肉か魚。無ければ豆などがあればありがたいのですが」
「肉も魚もありませんが、豆ならありますぞ。」
と言われて出てきたものは、乾燥した豆だった。食べられるが味が無い。乾燥した豆の味でしかない。
「少し味付けでもしたら良かったのですが、あいにくと塩の残りが少なくなりまして。」
村長が申し訳なさそうな顔をする。うん、できるだけ美味そうな顔をして食べよう。どうやら塩は高級品らしい。なけなしの塩を少しもらって食べたら、だいぶマシな味になった。
しかしこの村の人たちを見てみると、ああいう大きさの魔物と戦うには明らかに筋肉不足だ。
「肉や魚といったものも、あまり手に入らないのですか?」
「そうですね。魔物に襲われてしまって、狩りが難しくなってしまったのです。」
ふーむ。タンパク質が手に入らないとなると、戦うことすら難しくなる。この村の人たちに筋トレを教えたところで、筋肉を維持するための食事が手に入らないとなると、なんの意味もない。私の筋肉もこの村の豆だけでは不足しそうだ。そもそもタンパク質が少ないのだ。豆ですら貴重品だろう。
「でもこれからは狩りに出ることができます。少しはマシな生活になると思いますよ。本当にありがとうございました!」
「いえいえ」
なにもやっていないのにすごく感謝されているなぁ。
「ところで、ずいぶんと変わったお召し物ですが、お国の服装ですかな?」
そういえばトレーニング中の恰好だった。短パンにタンクトップ。
「まぁそうですね。宗教上の正装です。」間違った説明ではないだろう。
「しかし、この辺りの夜は冷えますよ。よろしければマントでも差し上げましょうか?」
「おお、ありがとうございます!」
若い女性が毛皮のマントを持ってきてくれた。短パンにタンクトップに毛皮のマント。元の世界にいたら変質者扱いになっているだろう。
「あの!」
小さい子供だ。
「なに?」
できるだけ優しい声で返事をした。
「そのおっきいカラダ、触ってもいいですか?」
「いいよ。」大きいと言われてテンションが上がらないワケがない。
良い筋肉を見たら触りたくなるのは、異世界でも同じなのだ。子どもに続いて村中の人間が私の筋肉を触ってくる。余興ついでに若い女性を腕に絡めて持ち上げてみた。おおお、と歓声が上がった。こういうウケ方も元にいた世界となんら変わらない。
筋トレが趣味という以外は特段の特技もない、ただのサラリーマンだ。
長期の出張を終え、久しぶりに自分の部屋に帰ってきた。四畳半のトレーニングルームで筋トレを再開できることがすこぶる嬉しい。リフトを数rep終わらせバーベルを置いた瞬間に、棚に飾ってあった別のダンベルが顔面に落ちてきたところまでは憶えている。
そして私は死んだと思ったのだが、どうも見憶えが無いところにいる。草原といえばいいのだろうか。もうすぐ日が暮れそうだ。短パンにタンクトップというトレーニング用の服装だったので、少し肌寒い。
「う、うわーー!!」
悲鳴が聞こえた。近くに人がいるようだ。
声の近くまで早足で歩いてゆくと、見たことがない動物に人間が襲われている。
助けなければ。
急いで近づいてゆくと、そのヘンテコな動物は私を見てなぜか逃げていった。
「ありがとうございます!助かりました!」
あまり身ぎれいではないおじさんに礼を言われた。
「いまの動物はなんですか?」
「流行りのオークですよ。最近はこの辺にも出るようになって、困っていたのです。」
オーク。樽とかに使う木材とかじゃなくて、動物?
「あのー、助けていただいたお礼にウチの村に来ていただけませんか?お食事だけでも。」
うーむ、状況がぜんぜん分からない。バーベルがぶつかるとヘンな世界に来るのか?というか、これは死んでしまったのではないだろうか。
とりえあず寝るところも無いし、寒いし、私はお誘いを受けることにした。
自己紹介をしながら事情を聞いた。助けたおじさんは村の長だった。
案内された村の集会場はちょっとした小屋のようだった。村人が集まって話したりお祭りの時には準備をしたりする場所らしい。私は上座を勧められ、失礼が無いように言われるがままに座った。村長が、私を見て逃げていったオークの話をすると、村人たちがどよめいた。
「逃げた・・・のですか?」
「うむ、逃げた。」
「ではしばらくは安全ってことですね?」
「うむ。ありがたいことじゃ。」
「あのー」
まったく話についていけない。なにが起きたというのだ。
「私はちょっと遠くの国からやって来たので、この地域の事情をよく知らないのです。オーク?が逃げたということは、それほど重要なことなのでしょうか?」
「そりゃもう!これでしばらくは安心して暮らせますよ!」
「街に出していた討伐依頼も、取り消しに行かないとな」
「逃げた、ということは、魔物があなたに敵わないと思ったからです。魔物はあまり賢くはありませんが、馬鹿でもありません。敵わない相手に向かっていくことは無いですし、仲間に知らせてこの辺には二度と近づかないでしょう。」
なるほど。ん?
「魔物。」
「さっきのオークですよ。」
魔物がいるのか。え。魔物?さっきのが?
どうやら私が知っている世界ではないようだ。異世界転生というやつか。マンガで少し読んだことはあるが、まさか私が転生してしまうとはなぁ・・・
「とにもかくにも目出度い。さぁ、食事とお酒をどうぞ。」
「あ、私はお酒を飲んではいけない宗教なのです。申し訳ありません。」マッチョ的には宗教で通すしかないだろう。相手の好意なのは分かっているが、アルコールは筋肉の敵だ。
しかしなんというか、食事があまりよろしくない。パンに果物。緑黄色野菜が少な目で、肝心のタンパク質が無い。
「あまり食事が進んでいないようですが、お口に合いませんでしたか?」
「そういうわけではありませんが、宗教上の理由でパンや果物はあまり口にしてはいけないのです。」まぁ間違った説明ではない。必要以上の糖質は、筋肉とは関係がない。
「できれば、肉か魚。無ければ豆などがあればありがたいのですが」
「肉も魚もありませんが、豆ならありますぞ。」
と言われて出てきたものは、乾燥した豆だった。食べられるが味が無い。乾燥した豆の味でしかない。
「少し味付けでもしたら良かったのですが、あいにくと塩の残りが少なくなりまして。」
村長が申し訳なさそうな顔をする。うん、できるだけ美味そうな顔をして食べよう。どうやら塩は高級品らしい。なけなしの塩を少しもらって食べたら、だいぶマシな味になった。
しかしこの村の人たちを見てみると、ああいう大きさの魔物と戦うには明らかに筋肉不足だ。
「肉や魚といったものも、あまり手に入らないのですか?」
「そうですね。魔物に襲われてしまって、狩りが難しくなってしまったのです。」
ふーむ。タンパク質が手に入らないとなると、戦うことすら難しくなる。この村の人たちに筋トレを教えたところで、筋肉を維持するための食事が手に入らないとなると、なんの意味もない。私の筋肉もこの村の豆だけでは不足しそうだ。そもそもタンパク質が少ないのだ。豆ですら貴重品だろう。
「でもこれからは狩りに出ることができます。少しはマシな生活になると思いますよ。本当にありがとうございました!」
「いえいえ」
なにもやっていないのにすごく感謝されているなぁ。
「ところで、ずいぶんと変わったお召し物ですが、お国の服装ですかな?」
そういえばトレーニング中の恰好だった。短パンにタンクトップ。
「まぁそうですね。宗教上の正装です。」間違った説明ではないだろう。
「しかし、この辺りの夜は冷えますよ。よろしければマントでも差し上げましょうか?」
「おお、ありがとうございます!」
若い女性が毛皮のマントを持ってきてくれた。短パンにタンクトップに毛皮のマント。元の世界にいたら変質者扱いになっているだろう。
「あの!」
小さい子供だ。
「なに?」
できるだけ優しい声で返事をした。
「そのおっきいカラダ、触ってもいいですか?」
「いいよ。」大きいと言われてテンションが上がらないワケがない。
良い筋肉を見たら触りたくなるのは、異世界でも同じなのだ。子どもに続いて村中の人間が私の筋肉を触ってくる。余興ついでに若い女性を腕に絡めて持ち上げてみた。おおお、と歓声が上がった。こういうウケ方も元にいた世界となんら変わらない。
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