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84 火酒
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リザを連れてドワーフの集落へと向かった。まずは何が作れるのか知っておきたいしな。
「前回の戦では我々が作った武器がほとんど活躍するヒマも無かったようですな」
「城内を早く制圧できたのは武器と鎧の差ですよ。長期戦になったらチュノスの本隊が追い付いてこちらの被害が大きくなっていたかもしれませんからね」
あとで知ったのだが、トカイ城の防衛責任者はきちんと仕事をしていたらしい。だがチュノス本国はトカイ城からの報告を何度も確認する愚行を犯し、気づいた時には不落の城が落とされたあとだったということだ。
「今回はドワーフの方々にどういうものを作ってもらえるのかお話を伺いに来ました」
「立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」
ハリスの居住まいも堂に入って来たな。
高台に集会所のような場所があり、中は大食堂や会議室も兼ねていた。子どものドワーフが読み書きと算数を習っている。
亜人の入植などモメる要素しか無いと思っていたが、彼らは山岳の民であり、人間は平地の民だ。彼らからすれば山と川の近くに住むということの方が一般的なのだろう。なにかトラブルがあるとすると、下流の住人と水資源でモメそうなくらいか。
「アラヒトさん自らが来たということは、新しい武器かなにかですかな?」
「作ってもらいたいものは山ほどあるのですが、どこから手を付けたらいいものか考えていまして」
とりあえず俺はいくつか図面を見せた。
クランクとギヤにバネ、あとは板バネも欲しいところだ。壊れやすいものを輸送する際に無事に到着する確率が増す。
「この辺なら問題無く作れると思いますよ。試作まで一カ月もかかりません」
へぇー・・・頼もしい味方が出来たみたいだな。
「他になにかご要望があればお作りしますよ」
「逆に伺いたいのですが、ドワーフ族が作りたいものって無いんですか?」
うーん、とハリスは腕を組んで考え込む。
「試作品は爆発してしまいましたが、水力ふいごを用いた高温窯は作りたいですねぇ」
よりよい材料を求めるのはドワーフの性というものか。
「あれ、どう考えても軍事機密ですからね」
「そうなんですよね」
その辺は理解しているのか。いや・・・爆発してから気づいたっぽいな。
「ムサエフ将軍と話してみましょう。前回の戦いで使った鋼線をムサエフ将軍は高く評価していました。それに王家の裁可と預言者様の許可も必要になりますね。大地のかたちを変えるほどのものですから」
「爆発させるつもりは無かったんですけれどねぇ。上手くいくと思っていたんですが・・・」
だいたいものを爆発させるような人間は、最初から爆発を狙っているわけではないだろう。
「ところで、蒸留酒用の窯ってもう作ったんですか?」
「・・・王家から聞いたんですか?」
もう出来上がっているな、これ。
「ペテルグ領内に住むにあたって、蒸留酒用の窯の製作と酒の製造は真っ先に条件に挙げました。酒と食い物が無ければドワーフは働きませんから」
当初はリーベリやマハカムの蒸留酒を飲んでいたのだが、すぐに物足りなくなったそうだ。チュノスの圧政に苦しむ前には他の国の蒸留酒も手に入れては飲み比べて、酒造りの研究を重ねていたらしい。
いいな。ドワーフたちが好きになってきた。
「せっかくだから飲んでみますか?まだ皆に行きわたるほどの量でも無い試作品なのですが」
「いただきます」
亜人の酒など異世界でしか飲めない。好きで死んだワケじゃないが、役得もあるもんだな。
「どうぞ」
おちょこのような焼き物に、ドワーフ族の酒がわずかに入れて出された。
「思っていたよりも少しなのですね」
リザの言葉を聞いて気づいた。これヤバいやつだな。
「申し訳ないがハリスさん。これをいただく前にお水を・・・」
ハッとした表情をしたハリスは急いで水を持ってこさせるように指示した。
「リザ。少しずつ舐めるように飲むんだ」
「どういう意味でしょうか?」
「アラヒトさんのおっしゃる通りです。ドワーフが飲むためにこしらえたものであって、人間が飲む用には作られていません。火酒というやつです。飲むのはちょっとまってください。おーい、ちょっと火種を持ってきてくれ」
ハリスのお付きの弟子たちが小さな火種を持ってきた。
「こう近づけるとですね・・・」
酒が燃えた。ざっと70度以上というところか。
「ドワーフの火酒・・・おとぎ話かと思っていました」
ハリスは動物の皮でフタをして、火の気を沈める。
水が準備されたので火酒とやらを飲んでみることにした。
「もう少し香りに工夫を凝らせばドワーフの火酒というわけです」
うん。これだけでは度数が高いだけのアルコールだな。
ひと舐めしたリザは、顔を真っ赤にして水を口に入れた。
「少し水で割って飲むものです。ドワーフでも水で割らずに飲む豪の者は少ないですよ」
酒としての味はまだまだだが、これはこれで使える。
たとえば戦場だ。
真水で傷を洗ったのちに、アルコールで消毒。生薬を刷り込んでから清潔な包帯で包めば破傷風のような病気にはかかりづらくなるだろう。一般的な怪我もおなじだ。
燃えるというのもなかなか面白い。
大量生産できたらアルコールランプが作れる。いや、噴霧させて空気と混合させればエンジンにもなるか?ガソリンや軽油が一般的だったが、こういうアルコールの爆発する力ってどんなもんなんだろうな?
化学的な成果をこの世界で作るにも純度の高いアルコールは必須だ。釜で各種線分を精製分離できれば使える材料が増える可能性もある。
「先ほどの依頼の話なのですが、試作品を作り終わった後には私の敷地内にも蒸留釜を作ってもらえないでしょうか?」
「ええ。作ってもいいのでしたら作りますが・・・アラヒトさんはご自分で酒を作られるんですか?」
・・・酒を自分で作る?自宅で?
それもいいな。この世界にはまだウイスキーもバーボンも無い。が、ワインがあるならワイン樽がある。ウイスキー風のものを樽詰めして熟成させることは可能だ。
「いいですね、それ」
とは言ってもウイスキーの類はバーボンでも最低八年は寝かせる必要がある。
飲める頃まで、俺は生き残れるのかな?
「前回の戦では我々が作った武器がほとんど活躍するヒマも無かったようですな」
「城内を早く制圧できたのは武器と鎧の差ですよ。長期戦になったらチュノスの本隊が追い付いてこちらの被害が大きくなっていたかもしれませんからね」
あとで知ったのだが、トカイ城の防衛責任者はきちんと仕事をしていたらしい。だがチュノス本国はトカイ城からの報告を何度も確認する愚行を犯し、気づいた時には不落の城が落とされたあとだったということだ。
「今回はドワーフの方々にどういうものを作ってもらえるのかお話を伺いに来ました」
「立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」
ハリスの居住まいも堂に入って来たな。
高台に集会所のような場所があり、中は大食堂や会議室も兼ねていた。子どものドワーフが読み書きと算数を習っている。
亜人の入植などモメる要素しか無いと思っていたが、彼らは山岳の民であり、人間は平地の民だ。彼らからすれば山と川の近くに住むということの方が一般的なのだろう。なにかトラブルがあるとすると、下流の住人と水資源でモメそうなくらいか。
「アラヒトさん自らが来たということは、新しい武器かなにかですかな?」
「作ってもらいたいものは山ほどあるのですが、どこから手を付けたらいいものか考えていまして」
とりあえず俺はいくつか図面を見せた。
クランクとギヤにバネ、あとは板バネも欲しいところだ。壊れやすいものを輸送する際に無事に到着する確率が増す。
「この辺なら問題無く作れると思いますよ。試作まで一カ月もかかりません」
へぇー・・・頼もしい味方が出来たみたいだな。
「他になにかご要望があればお作りしますよ」
「逆に伺いたいのですが、ドワーフ族が作りたいものって無いんですか?」
うーん、とハリスは腕を組んで考え込む。
「試作品は爆発してしまいましたが、水力ふいごを用いた高温窯は作りたいですねぇ」
よりよい材料を求めるのはドワーフの性というものか。
「あれ、どう考えても軍事機密ですからね」
「そうなんですよね」
その辺は理解しているのか。いや・・・爆発してから気づいたっぽいな。
「ムサエフ将軍と話してみましょう。前回の戦いで使った鋼線をムサエフ将軍は高く評価していました。それに王家の裁可と預言者様の許可も必要になりますね。大地のかたちを変えるほどのものですから」
「爆発させるつもりは無かったんですけれどねぇ。上手くいくと思っていたんですが・・・」
だいたいものを爆発させるような人間は、最初から爆発を狙っているわけではないだろう。
「ところで、蒸留酒用の窯ってもう作ったんですか?」
「・・・王家から聞いたんですか?」
もう出来上がっているな、これ。
「ペテルグ領内に住むにあたって、蒸留酒用の窯の製作と酒の製造は真っ先に条件に挙げました。酒と食い物が無ければドワーフは働きませんから」
当初はリーベリやマハカムの蒸留酒を飲んでいたのだが、すぐに物足りなくなったそうだ。チュノスの圧政に苦しむ前には他の国の蒸留酒も手に入れては飲み比べて、酒造りの研究を重ねていたらしい。
いいな。ドワーフたちが好きになってきた。
「せっかくだから飲んでみますか?まだ皆に行きわたるほどの量でも無い試作品なのですが」
「いただきます」
亜人の酒など異世界でしか飲めない。好きで死んだワケじゃないが、役得もあるもんだな。
「どうぞ」
おちょこのような焼き物に、ドワーフ族の酒がわずかに入れて出された。
「思っていたよりも少しなのですね」
リザの言葉を聞いて気づいた。これヤバいやつだな。
「申し訳ないがハリスさん。これをいただく前にお水を・・・」
ハッとした表情をしたハリスは急いで水を持ってこさせるように指示した。
「リザ。少しずつ舐めるように飲むんだ」
「どういう意味でしょうか?」
「アラヒトさんのおっしゃる通りです。ドワーフが飲むためにこしらえたものであって、人間が飲む用には作られていません。火酒というやつです。飲むのはちょっとまってください。おーい、ちょっと火種を持ってきてくれ」
ハリスのお付きの弟子たちが小さな火種を持ってきた。
「こう近づけるとですね・・・」
酒が燃えた。ざっと70度以上というところか。
「ドワーフの火酒・・・おとぎ話かと思っていました」
ハリスは動物の皮でフタをして、火の気を沈める。
水が準備されたので火酒とやらを飲んでみることにした。
「もう少し香りに工夫を凝らせばドワーフの火酒というわけです」
うん。これだけでは度数が高いだけのアルコールだな。
ひと舐めしたリザは、顔を真っ赤にして水を口に入れた。
「少し水で割って飲むものです。ドワーフでも水で割らずに飲む豪の者は少ないですよ」
酒としての味はまだまだだが、これはこれで使える。
たとえば戦場だ。
真水で傷を洗ったのちに、アルコールで消毒。生薬を刷り込んでから清潔な包帯で包めば破傷風のような病気にはかかりづらくなるだろう。一般的な怪我もおなじだ。
燃えるというのもなかなか面白い。
大量生産できたらアルコールランプが作れる。いや、噴霧させて空気と混合させればエンジンにもなるか?ガソリンや軽油が一般的だったが、こういうアルコールの爆発する力ってどんなもんなんだろうな?
化学的な成果をこの世界で作るにも純度の高いアルコールは必須だ。釜で各種線分を精製分離できれば使える材料が増える可能性もある。
「先ほどの依頼の話なのですが、試作品を作り終わった後には私の敷地内にも蒸留釜を作ってもらえないでしょうか?」
「ええ。作ってもいいのでしたら作りますが・・・アラヒトさんはご自分で酒を作られるんですか?」
・・・酒を自分で作る?自宅で?
それもいいな。この世界にはまだウイスキーもバーボンも無い。が、ワインがあるならワイン樽がある。ウイスキー風のものを樽詰めして熟成させることは可能だ。
「いいですね、それ」
とは言ってもウイスキーの類はバーボンでも最低八年は寝かせる必要がある。
飲める頃まで、俺は生き残れるのかな?
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