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69 爆発
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預言者様からリザへの呼び出しは来なかった。
いちおう預言者様のところへ話を聞きに行ったら、強い性の匂いはしたが浄化を感じさせるほどでもなかったとのことだ。
「サーシャ一人が浄化されただけでも凄いことなのよ?あなた自分がやったことがどれほど凄いことなのか分かっているのかしら?」
相変わらず深紅の瞳が美しくも恐ろしい。
「うーん・・・できることなら私が抱く女性たち全員に、きちんと死後の世界でも幸せになってほしいんですよね」
宗教的な力が強い土地だ。精霊との混血である預言者様がいる世界だ。どんな汚れ仕事をしたにしても、せめて彼女たちだけは死後ですらも心穏やかに生きてほしい。
「また大変なことを考えるわねぇ・・・難しいと思うわよ」
浄化という現象は特別なものであって、女性を無茶苦茶にすればいい、というわけでも無いようだ。単純に数だけならサーシャに近いほどリザもイき続けた。サーシャが浄化された時のことを思い出す。
・・・カギになるのはやはり深さか?
リザもまったく血の匂いが無い生き方などしてはいないだろう。仕事中のリタもそうだ。
できることならばリザも浄化まで持っていきたい。
「少し話は変わるけれど、あなたの死後ってどこに行くのか分からないの」
「はい?」
「この世界で生まれた者は、あの世で精霊になるか魔物になるのかのどちらか。でもあなたはこの世界で生まれた者では無いもの」
じゃぁ俺は死んだあとどうなるんだ?
「精霊としてあの世に行けたつがいは幸せに暮らせるわよ。おおよそこの世界で最も求められる人の身の終わり方でしょうね。でも、あなたたちは最初からそうじゃないの」
俺はこの世界での死後の世界には行けない。どこに行くのかも分からない。
護衛について来たサーシャの顔を見る。サーシャは、いや彼女たちは最初から知っていたな。
少しだけ俺が死んだあとについて考えたが、たいした問題でも無い気がしてきた。
「まぁ私は一度死んでますから。まずはこの国が生き残ることと、リザの浄化について考えますよ」
「・・・それでいいかもしれないわね。考えたところでどうにもならないもの」
預言者様でも知らないことはある。それなら考えても仕方が無い。
それにしても・・・文明の発展の歪さを考えると他にも異世界人は居たはずだ。彼らの死後、彼らの魂はどこに行ったのだろうなぁ?
突然、爆発音が聞こえて建物が揺れた。
音が聞こえた方角から考えると、ドワーフが試作品を作っている谷の方向だ。
「預言者様?」
なにかに耳を傾けている。精霊の声を聞いているのか?
「・・・ドワーフたちがなにかやらかしたようね。怒り狂う火の精霊に、呼応する木の精霊・・・アラヒト、サーシャ。これを持って事故の現場に行きなさい。山ごと燃える前に、周辺の木を切り倒し、切り倒した木に水をかけて鎮めるのです」
預言者様はなにやらカードのようなものを俺に手渡した。
「これは?」
「天地の災いについて、預言者の代理として行動することを示すものです。あまり時間がありません。急いで音が聞こえた方向に行きなさい」
預言者様のことばから察するに山火事だろうな。
俺とサーシャは挨拶もほどほどに、城から飛び出してドワーフの集落へと向かった。
ドワーフ族の集落周辺を警護する軍とドワーフ族がパニックになる中、サーシャは軍の責任者を見つけて預言者様からもらったカードを示し、ドワーフ族と軍とで山火事になる前に爆発した周辺の鎮火に当たった。木を切り倒し、水を吹っかけ、延焼を防ぐ。
幸いにして死者は出なかったが、ドワーフ族の何人かが大怪我をしていた。
初動の速さもあってか、谷の一部が焦げ付いた程度で済んだ。
戦争を前にして山火事など起こしたらペテルグは戦えなくなる。いったい何をやらかしたんだ?
「で、爆発の原因はなんだったんですか?」
後始末と実況見分にやってきたムサエフ将軍とともに、新族長ハリスの弁明を聞くことにした。
「新しい窯を作ってみたら爆発したんです」
・・・なんで窯が爆発するんだ?
詳しい説明を聞くと、最初は人力で窯に入れる空気をふいごで入れていたらしい。ドワーフ族伝統の技術だそうで、そういう鉄の作り方はテレビで見たことがあるから分かる。
が、若いドワーフが俺の作った水車を見て、上下動するクランクを発見した。これができるんならふいごも水力で動かした方が効率がよくね?と思い立ち水力式ふいごというものを作ったらしい。
水力式のふいごから過剰な空気が窯に入り込み、高温になった窯は許容温度を超えて爆発した、という流れらしい。
「・・・次からは新しい技術を試す時には、軍と国に相談してからやっていただきたい。こういう具合に軍を消耗させられたら、我々としてもドワーフ族を信用できなくなる」
ムサエフの言葉は辛辣にも聞こえたが、たしかに自国で勝手に動かれた上に山火事など起こされたら軍事行動どころではなくなる。
ハリスとしては恩に報いるために、より良い鉄から武具を作りたかっただけだったようだ。そうは言っても爆発されちゃったら困るな。
まぁ悪いことばかりでもない。
より高温の窯で焼くことができるのであれば、より純度の高い鉄が手に入るだろう。
とりあえず次の戦争用の武器は伝統的なドワーフの窯で作ってもらうとして、その戦争の先に技術的な展望が開けていることは良しとしてもいいだろう。
多少進んだ知識があっても、知識を実際に運用できる人材がいないことには使いようが無い。
ドワーフたちは、俺が作った水車から俺が思いつきもしなかった新しい技術を産みだした。
これはうまいこと国が回り始めているのではないだろうか。
いちおう預言者様のところへ話を聞きに行ったら、強い性の匂いはしたが浄化を感じさせるほどでもなかったとのことだ。
「サーシャ一人が浄化されただけでも凄いことなのよ?あなた自分がやったことがどれほど凄いことなのか分かっているのかしら?」
相変わらず深紅の瞳が美しくも恐ろしい。
「うーん・・・できることなら私が抱く女性たち全員に、きちんと死後の世界でも幸せになってほしいんですよね」
宗教的な力が強い土地だ。精霊との混血である預言者様がいる世界だ。どんな汚れ仕事をしたにしても、せめて彼女たちだけは死後ですらも心穏やかに生きてほしい。
「また大変なことを考えるわねぇ・・・難しいと思うわよ」
浄化という現象は特別なものであって、女性を無茶苦茶にすればいい、というわけでも無いようだ。単純に数だけならサーシャに近いほどリザもイき続けた。サーシャが浄化された時のことを思い出す。
・・・カギになるのはやはり深さか?
リザもまったく血の匂いが無い生き方などしてはいないだろう。仕事中のリタもそうだ。
できることならばリザも浄化まで持っていきたい。
「少し話は変わるけれど、あなたの死後ってどこに行くのか分からないの」
「はい?」
「この世界で生まれた者は、あの世で精霊になるか魔物になるのかのどちらか。でもあなたはこの世界で生まれた者では無いもの」
じゃぁ俺は死んだあとどうなるんだ?
「精霊としてあの世に行けたつがいは幸せに暮らせるわよ。おおよそこの世界で最も求められる人の身の終わり方でしょうね。でも、あなたたちは最初からそうじゃないの」
俺はこの世界での死後の世界には行けない。どこに行くのかも分からない。
護衛について来たサーシャの顔を見る。サーシャは、いや彼女たちは最初から知っていたな。
少しだけ俺が死んだあとについて考えたが、たいした問題でも無い気がしてきた。
「まぁ私は一度死んでますから。まずはこの国が生き残ることと、リザの浄化について考えますよ」
「・・・それでいいかもしれないわね。考えたところでどうにもならないもの」
預言者様でも知らないことはある。それなら考えても仕方が無い。
それにしても・・・文明の発展の歪さを考えると他にも異世界人は居たはずだ。彼らの死後、彼らの魂はどこに行ったのだろうなぁ?
突然、爆発音が聞こえて建物が揺れた。
音が聞こえた方角から考えると、ドワーフが試作品を作っている谷の方向だ。
「預言者様?」
なにかに耳を傾けている。精霊の声を聞いているのか?
「・・・ドワーフたちがなにかやらかしたようね。怒り狂う火の精霊に、呼応する木の精霊・・・アラヒト、サーシャ。これを持って事故の現場に行きなさい。山ごと燃える前に、周辺の木を切り倒し、切り倒した木に水をかけて鎮めるのです」
預言者様はなにやらカードのようなものを俺に手渡した。
「これは?」
「天地の災いについて、預言者の代理として行動することを示すものです。あまり時間がありません。急いで音が聞こえた方向に行きなさい」
預言者様のことばから察するに山火事だろうな。
俺とサーシャは挨拶もほどほどに、城から飛び出してドワーフの集落へと向かった。
ドワーフ族の集落周辺を警護する軍とドワーフ族がパニックになる中、サーシャは軍の責任者を見つけて預言者様からもらったカードを示し、ドワーフ族と軍とで山火事になる前に爆発した周辺の鎮火に当たった。木を切り倒し、水を吹っかけ、延焼を防ぐ。
幸いにして死者は出なかったが、ドワーフ族の何人かが大怪我をしていた。
初動の速さもあってか、谷の一部が焦げ付いた程度で済んだ。
戦争を前にして山火事など起こしたらペテルグは戦えなくなる。いったい何をやらかしたんだ?
「で、爆発の原因はなんだったんですか?」
後始末と実況見分にやってきたムサエフ将軍とともに、新族長ハリスの弁明を聞くことにした。
「新しい窯を作ってみたら爆発したんです」
・・・なんで窯が爆発するんだ?
詳しい説明を聞くと、最初は人力で窯に入れる空気をふいごで入れていたらしい。ドワーフ族伝統の技術だそうで、そういう鉄の作り方はテレビで見たことがあるから分かる。
が、若いドワーフが俺の作った水車を見て、上下動するクランクを発見した。これができるんならふいごも水力で動かした方が効率がよくね?と思い立ち水力式ふいごというものを作ったらしい。
水力式のふいごから過剰な空気が窯に入り込み、高温になった窯は許容温度を超えて爆発した、という流れらしい。
「・・・次からは新しい技術を試す時には、軍と国に相談してからやっていただきたい。こういう具合に軍を消耗させられたら、我々としてもドワーフ族を信用できなくなる」
ムサエフの言葉は辛辣にも聞こえたが、たしかに自国で勝手に動かれた上に山火事など起こされたら軍事行動どころではなくなる。
ハリスとしては恩に報いるために、より良い鉄から武具を作りたかっただけだったようだ。そうは言っても爆発されちゃったら困るな。
まぁ悪いことばかりでもない。
より高温の窯で焼くことができるのであれば、より純度の高い鉄が手に入るだろう。
とりあえず次の戦争用の武器は伝統的なドワーフの窯で作ってもらうとして、その戦争の先に技術的な展望が開けていることは良しとしてもいいだろう。
多少進んだ知識があっても、知識を実際に運用できる人材がいないことには使いようが無い。
ドワーフたちは、俺が作った水車から俺が思いつきもしなかった新しい技術を産みだした。
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