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どうにも迷いがある。
こういう時は利害関係の少ない尊敬する人間の意見を聞くべきだと思い、ユーリさんに相談に来ている。
「チュノスとの防衛戦では大活躍だったようじゃのう。それにしては浮かぬ顔をしておる」
「先のことまで考えてはいなかったんですよね。どうやって国境を守るかだけ考えていました」
「アラヒトはあまり戦は好きでは無いのかな?」
「好きでは無いですね」
ああいう雰囲気に慣れる日なんて来るんだろうか?
「で、ワシに何を聞きに来たのかね?」
「褒賞になにを求めたらいいものやら迷っていまして」
「領地、資源、地位。欲しいものを求めたらいいじゃろうに」
「資源だけだと褒賞として小さいらしいんですよ」
特級の論功というものはそういうものらしい。
「なにをもらっても面倒が起きる気がしまして。ユーリさんはなにか欲しいものありますか?」
「鉄は欲しいが、素材以外の欲しいものなど自分で作ってしまうからなぁ」
でしょうね。
「アラヒト。城下町をしっかりとは見たか?」
「いえ。私の顔では目立ちますし、護衛がしづらいということでまだ行ったことも無いんです」
「顔など布と帽子で隠せば良いだろう。お前はここより進んだ世界から来たようだが、文字や数字が無い世界では城下町にどういう人間が集まると思う?」
知識が無い人間、技術が無い人間・・・肉体労働者・・・いや・・・
「子どもですか?口減らしに王都へ捨てられたとか」
「うむ。その子たちのためになにかいい考えはないものか?」
すごくいいヒントをもらったような気がする。
「建物と土地を下賜してもらって、子どもたちの食事と住居を保証する。一方で教育と規律を与えながら才能を発掘し、優秀な人材を見つけて国に推挙する。他方で反乱の元凶や犯罪者予備軍を減らす。問題があるとしたら維持費くらいでしょうかね」
いいなそれ。俺に私兵はいらないが、優秀な技術者ならいくらでも欲しい。
「参考になりました。具体的に考えてみます」
「うむ。アラヒトが次に来る時はワシは空を飛んでいるぞ!」
実際にグライダーの改良は進んでいる。この人の邪気の無さには救われるものがあるな。
「楽しみにしています。見に来ますよ」
準備ができたら城下町に行ってみよう。
サーシャに護衛の準備をさせて、城下町の見学に行った。
目立つところは布で隠せばいいか。なるほど。見るだけならこれで良かったんだな。時期も良かった。北風が入ってくる季節には多くの人が毛皮の帽子をかぶるようになっている。
「やはり街中では護衛が難しいか?」
「目立たないのであればかまいません。アラヒト様は御髪の色とお顔が目立ちすぎますからね」
城下町ではやはり働いているようには見えない子どもが目立つ。行き場を失い、口減らしに王都に捨てられた子どもたちか。目がギラついているところは俺が居た世界の子どもとまるで違う生き物みたいだな。警戒を解こうとはしないし武器も持っていそうだ。あまりじろじろとは見ないでおこう。
「この子たちを傷つけることなく諜報部で捕まえることができるか?」
「無傷では不可能です。見た目は子どもですが、徒党を組んだ野生生物だと思ってください。大怪我をさせないで集めることならできます」
力技では無理だな。
「徒党を組んでいる子どもたちの中で、大将となっている何人かの動向を探り、話をする段取りは作れるか?」
「それなら問題ありません」
話ができたとしても、問題はどうやって説得するかだ。
そもそも学校や孤児院という概念も無い。箱だけあっても中身が伴わないようでは意味が無い。
・・・あれ。
「異世界人がこの国に出たということはお触れで誰もが知っているんだよな?」
「そうですね」
「俺の顔を見せれば、誰でも異世界人と分かるんだよな?」
「ええ。そうですね」
「異世界人が顔を出して、たっぷりの食事とまっとうな仕事と清潔な住むところと小遣いを与える建物があるから来ないか?と聞かれたらあんな目をした子どもたちが素直について来ると思うか?」
サーシャは少し考え込んでしまった。
「素直に、とはいかないかもしれません。ですが異世界人が特別な力を持っていることは知られていますし、話くらいは聞いてもらえるでしょう。こちらの様子を伺って敵では無いと判断したら、住んでやってもいいという気にはなるかもしれません」
半分犯罪者のようになっている連中にものを教え込むとなると、ふつうの人材では難しいな。
「諜報部からものを教えることが巧い人間を何人か借りられるか?もちろんあいつらが暴れたら制圧できる程度の武力も必要だ。期間は一年から二年くらいになると思う」
「長いですね・・・」
また少し考え込んでいる。
「他国に潜入できるほど若くもなく、護衛に入るほどの武力も無くなりましたが、子ども程度でしたら戦いで後れを取らないような先輩方に頼んでみようかと思います。文字も数字もすぐに憶えられる優秀な方々です。もうどちらも憶えているかもしれませんね」
サーシャが優秀だと言うのであれば大丈夫だろう。
教える側も確保できそうだし、教えられる側も説得できそうだな。
うん。欲しいものが決まった。
人材養成機関。学校だ。
こういう時は利害関係の少ない尊敬する人間の意見を聞くべきだと思い、ユーリさんに相談に来ている。
「チュノスとの防衛戦では大活躍だったようじゃのう。それにしては浮かぬ顔をしておる」
「先のことまで考えてはいなかったんですよね。どうやって国境を守るかだけ考えていました」
「アラヒトはあまり戦は好きでは無いのかな?」
「好きでは無いですね」
ああいう雰囲気に慣れる日なんて来るんだろうか?
「で、ワシに何を聞きに来たのかね?」
「褒賞になにを求めたらいいものやら迷っていまして」
「領地、資源、地位。欲しいものを求めたらいいじゃろうに」
「資源だけだと褒賞として小さいらしいんですよ」
特級の論功というものはそういうものらしい。
「なにをもらっても面倒が起きる気がしまして。ユーリさんはなにか欲しいものありますか?」
「鉄は欲しいが、素材以外の欲しいものなど自分で作ってしまうからなぁ」
でしょうね。
「アラヒト。城下町をしっかりとは見たか?」
「いえ。私の顔では目立ちますし、護衛がしづらいということでまだ行ったことも無いんです」
「顔など布と帽子で隠せば良いだろう。お前はここより進んだ世界から来たようだが、文字や数字が無い世界では城下町にどういう人間が集まると思う?」
知識が無い人間、技術が無い人間・・・肉体労働者・・・いや・・・
「子どもですか?口減らしに王都へ捨てられたとか」
「うむ。その子たちのためになにかいい考えはないものか?」
すごくいいヒントをもらったような気がする。
「建物と土地を下賜してもらって、子どもたちの食事と住居を保証する。一方で教育と規律を与えながら才能を発掘し、優秀な人材を見つけて国に推挙する。他方で反乱の元凶や犯罪者予備軍を減らす。問題があるとしたら維持費くらいでしょうかね」
いいなそれ。俺に私兵はいらないが、優秀な技術者ならいくらでも欲しい。
「参考になりました。具体的に考えてみます」
「うむ。アラヒトが次に来る時はワシは空を飛んでいるぞ!」
実際にグライダーの改良は進んでいる。この人の邪気の無さには救われるものがあるな。
「楽しみにしています。見に来ますよ」
準備ができたら城下町に行ってみよう。
サーシャに護衛の準備をさせて、城下町の見学に行った。
目立つところは布で隠せばいいか。なるほど。見るだけならこれで良かったんだな。時期も良かった。北風が入ってくる季節には多くの人が毛皮の帽子をかぶるようになっている。
「やはり街中では護衛が難しいか?」
「目立たないのであればかまいません。アラヒト様は御髪の色とお顔が目立ちすぎますからね」
城下町ではやはり働いているようには見えない子どもが目立つ。行き場を失い、口減らしに王都に捨てられた子どもたちか。目がギラついているところは俺が居た世界の子どもとまるで違う生き物みたいだな。警戒を解こうとはしないし武器も持っていそうだ。あまりじろじろとは見ないでおこう。
「この子たちを傷つけることなく諜報部で捕まえることができるか?」
「無傷では不可能です。見た目は子どもですが、徒党を組んだ野生生物だと思ってください。大怪我をさせないで集めることならできます」
力技では無理だな。
「徒党を組んでいる子どもたちの中で、大将となっている何人かの動向を探り、話をする段取りは作れるか?」
「それなら問題ありません」
話ができたとしても、問題はどうやって説得するかだ。
そもそも学校や孤児院という概念も無い。箱だけあっても中身が伴わないようでは意味が無い。
・・・あれ。
「異世界人がこの国に出たということはお触れで誰もが知っているんだよな?」
「そうですね」
「俺の顔を見せれば、誰でも異世界人と分かるんだよな?」
「ええ。そうですね」
「異世界人が顔を出して、たっぷりの食事とまっとうな仕事と清潔な住むところと小遣いを与える建物があるから来ないか?と聞かれたらあんな目をした子どもたちが素直について来ると思うか?」
サーシャは少し考え込んでしまった。
「素直に、とはいかないかもしれません。ですが異世界人が特別な力を持っていることは知られていますし、話くらいは聞いてもらえるでしょう。こちらの様子を伺って敵では無いと判断したら、住んでやってもいいという気にはなるかもしれません」
半分犯罪者のようになっている連中にものを教え込むとなると、ふつうの人材では難しいな。
「諜報部からものを教えることが巧い人間を何人か借りられるか?もちろんあいつらが暴れたら制圧できる程度の武力も必要だ。期間は一年から二年くらいになると思う」
「長いですね・・・」
また少し考え込んでいる。
「他国に潜入できるほど若くもなく、護衛に入るほどの武力も無くなりましたが、子ども程度でしたら戦いで後れを取らないような先輩方に頼んでみようかと思います。文字も数字もすぐに憶えられる優秀な方々です。もうどちらも憶えているかもしれませんね」
サーシャが優秀だと言うのであれば大丈夫だろう。
教える側も確保できそうだし、教えられる側も説得できそうだな。
うん。欲しいものが決まった。
人材養成機関。学校だ。
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