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29 友人
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ボウガンの図面を見せるとユーリさんはあっさりと問題点を解決してくれた。ギヤの部分はユーリさんがむかし考案した独自のかたちのギヤがあるので、それを使えば負荷が減るとのこと。軸にはより強固な材料を使えば折れないだろうとのこと。連弩の減速機についても似たように設計しなおしてくれた。設計というのは幾何学の世界なのだが、漢数字やローマ数字しかない世界でも立派な建築や細工を作った国だってある。図面を引けてしまう人には直感に近いかたちでできてしまうのだろう。
「木材の乾燥が不十分だから折れるのだろう。私のとっておきの材料があるから少し分けてあげよう。軸用にそれを持って行きなさい」
「ありがとうございます。鉄があればいいんですけれどもねぇ」
「ウチにあることはあるが、人に渡せるほどは無いぞ」
ユーリさんの工房で扱う道具の一部には鉄が使われていた。だがその希少性を表しているかのように、道具の肝となる部分にしか使っていない。道具を見れば職人の腕まで分かると言うが、ここの道具は本当に綺麗だな。おそらくこの国、いや大陸すべてを探してもここまでの道具は無いかもしれない。
「こんなに綺麗な道具は初めて見ました」
「ほめ過ぎじゃろう。むかし旅のドワーフに少し教わったものを自分で作ってみただけじゃよ」
・・・は?
「この世界にはドワーフがいるんですか?」
「なんじゃ、知らんのか。王宮の連中も知らんかもしれんがペテルグとタージの国境あたりをたまに山見に来ている。里の場所までは知らんがの」
おおお!異種族の亜人はいるのか!
防衛だの内政だの厄介で面倒なことばかり考えなくちゃいけなかったけれど、ちょっと先の楽しみが増えた。
ペテルグ防衛の目途がついたら、是非ともドワーフに会ってみたいな。
あれやこれやとユーリさんが製作したグライダーの改造案を出しているうちに、日が暮れてしまった。
「そろそろ食事にしようか。アラヒト、酒はいけるかね?」
「大好物です。いただきます」
ついに呼び捨てになった。つまみを食べワインをひっかけながら、ユーリさんと話し続けた。
この世界では神学論が無い。精霊など居て当たり前の世界だからだ。
というわけで純粋な技術論ばかりになる。
いちおうそっち方面も少しは学んでいたからついて行けたが、そうじゃなければグライダーの改良案の話については行けなかったかもしれないな。
「愉快だな!これほど愉快だったことはない」
この時代であるならグライダーですら精霊の御業に見えるだろうな。少なくとも地面に足をつけることなく移動できる。
・・・まぁ作れるワケが無いから別に話してもいいか。俺は口元を抑え小声で伝えた。
「いつかは月にだって行けます」
「なんと!そんなことを考えるようになるのか!」
行けたという事実よりも、発想の飛躍の方がユーリさんの琴線に触れているようだ。
「そうか。そういう事もできるようになってしまうのか。つくづく寿命のある身体というのは面倒なものだのう」
他にもビックリしそうな話はいくらでもあるが、あんまり現代知識を開陳するのもどうかと思う。
「お前は見たり体験したりできたのか。羨ましいな」
「私がいた世界の一部の人だけが体験できた話です」
「そうか。統一国家が選んだ人たちなのかな?」
「残念ながら国家は無くなりませんでした。戦争も無くなりません。ひとつの国だけで行ったことです」
「一国がそこまでの力を持つような世界か。そうか。やはり異世界でも隣人は鬱陶しいものなのか」
「いつの時代もそのようです」
一国になれない程度には仲が悪いから隣国なのだ。
「すまぬなアラヒト。ちょっと霊感が産まれた。図面を書きたいから今夜は失礼する。サライや。客人を離れへと案内してくれぬか?」
「はーい。お茶は淹れましょうか?」
「濃いめで頼む」
独特の終わり方だな。新しい発明品ができたら見せてもらえることを期待しよう。
サライさんに連れられて来た離れは、しばらく使っている様子も無かった。
「お客様は滅多に来られないので、ベッドはひとつしかありませんが・・・」
「構いません。お湯と布をいただけますか?」
「ええ。お茶を淹れるついでにお持ちしますね。お酒はもう少しいかがですか?」
「いただきます」
サライさんが出ていくと、急にどっと疲れた。エネルギーに満ち満ちた人間に会うと、エネルギーを吸い取られているようだ。ただ漫然と生きてきた俺のような凡人は、そういう人間と接すると疲れる。
「サーシャ。いつまで立ってる?ちょっと狭いがここに座って少し休みなさい」
「はい」
彼女は俺とユーリさんが話している間も立ちっぱなしだった。警護で立っていることには慣れているとは思うが、適度に休憩を取らせないとずっと立っていそうなんだよな。
それに・・・だんだん俺のほうも女性に命令するような口調が多くなってきたな。まぁ外に出せないようなことをやっている立場というものもある。
こういう話し方をするおっさんにはなりたくなかったんだけれどもなぁ。状況が状況だけに仕方が無いか。
「どえらい人だったな。しかし武器のほうもなんとかなりそうだ」
「ほとんどお話の内容が分かりませんでしたが、やはりアラヒト様から見ても凄いお人なのですか?」
「実際に会ってみるまでここまでとは思ってもみなかった。いくら異世界の知識を俺が持っていても、具体的に使えるかたちにしてくれる人間は必須だ。ものや制度にならなくてはただの妄想で終わってしまうからな」
かなりユーリさんの感触は良かったと思うが・・・
「ユーリさんはどの程度まで俺や軍に協力をしてくれると思う?」
「軍に全面協力をしてくれるとは思えません。やはり武器を作るということへの抵抗感を感じますね。詰まった部分について教えを乞えば、ある程度は協力をしてくれるかと思います」
となると、安定して生産をするという工程の大半は現在軍が持っている工房と邸宅付きの工房でどうにかするしかないのか。ユーリさんが融通してくれる材料もどの程度か分からない。
お湯でサーシャに身体を拭かせ、サーシャの身体は(ゴチャゴチャ言っていたが)俺が拭いた。何杯か酒を飲んだら眠くなって、狭いベッドで爆睡してしまった。
「木材の乾燥が不十分だから折れるのだろう。私のとっておきの材料があるから少し分けてあげよう。軸用にそれを持って行きなさい」
「ありがとうございます。鉄があればいいんですけれどもねぇ」
「ウチにあることはあるが、人に渡せるほどは無いぞ」
ユーリさんの工房で扱う道具の一部には鉄が使われていた。だがその希少性を表しているかのように、道具の肝となる部分にしか使っていない。道具を見れば職人の腕まで分かると言うが、ここの道具は本当に綺麗だな。おそらくこの国、いや大陸すべてを探してもここまでの道具は無いかもしれない。
「こんなに綺麗な道具は初めて見ました」
「ほめ過ぎじゃろう。むかし旅のドワーフに少し教わったものを自分で作ってみただけじゃよ」
・・・は?
「この世界にはドワーフがいるんですか?」
「なんじゃ、知らんのか。王宮の連中も知らんかもしれんがペテルグとタージの国境あたりをたまに山見に来ている。里の場所までは知らんがの」
おおお!異種族の亜人はいるのか!
防衛だの内政だの厄介で面倒なことばかり考えなくちゃいけなかったけれど、ちょっと先の楽しみが増えた。
ペテルグ防衛の目途がついたら、是非ともドワーフに会ってみたいな。
あれやこれやとユーリさんが製作したグライダーの改造案を出しているうちに、日が暮れてしまった。
「そろそろ食事にしようか。アラヒト、酒はいけるかね?」
「大好物です。いただきます」
ついに呼び捨てになった。つまみを食べワインをひっかけながら、ユーリさんと話し続けた。
この世界では神学論が無い。精霊など居て当たり前の世界だからだ。
というわけで純粋な技術論ばかりになる。
いちおうそっち方面も少しは学んでいたからついて行けたが、そうじゃなければグライダーの改良案の話については行けなかったかもしれないな。
「愉快だな!これほど愉快だったことはない」
この時代であるならグライダーですら精霊の御業に見えるだろうな。少なくとも地面に足をつけることなく移動できる。
・・・まぁ作れるワケが無いから別に話してもいいか。俺は口元を抑え小声で伝えた。
「いつかは月にだって行けます」
「なんと!そんなことを考えるようになるのか!」
行けたという事実よりも、発想の飛躍の方がユーリさんの琴線に触れているようだ。
「そうか。そういう事もできるようになってしまうのか。つくづく寿命のある身体というのは面倒なものだのう」
他にもビックリしそうな話はいくらでもあるが、あんまり現代知識を開陳するのもどうかと思う。
「お前は見たり体験したりできたのか。羨ましいな」
「私がいた世界の一部の人だけが体験できた話です」
「そうか。統一国家が選んだ人たちなのかな?」
「残念ながら国家は無くなりませんでした。戦争も無くなりません。ひとつの国だけで行ったことです」
「一国がそこまでの力を持つような世界か。そうか。やはり異世界でも隣人は鬱陶しいものなのか」
「いつの時代もそのようです」
一国になれない程度には仲が悪いから隣国なのだ。
「すまぬなアラヒト。ちょっと霊感が産まれた。図面を書きたいから今夜は失礼する。サライや。客人を離れへと案内してくれぬか?」
「はーい。お茶は淹れましょうか?」
「濃いめで頼む」
独特の終わり方だな。新しい発明品ができたら見せてもらえることを期待しよう。
サライさんに連れられて来た離れは、しばらく使っている様子も無かった。
「お客様は滅多に来られないので、ベッドはひとつしかありませんが・・・」
「構いません。お湯と布をいただけますか?」
「ええ。お茶を淹れるついでにお持ちしますね。お酒はもう少しいかがですか?」
「いただきます」
サライさんが出ていくと、急にどっと疲れた。エネルギーに満ち満ちた人間に会うと、エネルギーを吸い取られているようだ。ただ漫然と生きてきた俺のような凡人は、そういう人間と接すると疲れる。
「サーシャ。いつまで立ってる?ちょっと狭いがここに座って少し休みなさい」
「はい」
彼女は俺とユーリさんが話している間も立ちっぱなしだった。警護で立っていることには慣れているとは思うが、適度に休憩を取らせないとずっと立っていそうなんだよな。
それに・・・だんだん俺のほうも女性に命令するような口調が多くなってきたな。まぁ外に出せないようなことをやっている立場というものもある。
こういう話し方をするおっさんにはなりたくなかったんだけれどもなぁ。状況が状況だけに仕方が無いか。
「どえらい人だったな。しかし武器のほうもなんとかなりそうだ」
「ほとんどお話の内容が分かりませんでしたが、やはりアラヒト様から見ても凄いお人なのですか?」
「実際に会ってみるまでここまでとは思ってもみなかった。いくら異世界の知識を俺が持っていても、具体的に使えるかたちにしてくれる人間は必須だ。ものや制度にならなくてはただの妄想で終わってしまうからな」
かなりユーリさんの感触は良かったと思うが・・・
「ユーリさんはどの程度まで俺や軍に協力をしてくれると思う?」
「軍に全面協力をしてくれるとは思えません。やはり武器を作るということへの抵抗感を感じますね。詰まった部分について教えを乞えば、ある程度は協力をしてくれるかと思います」
となると、安定して生産をするという工程の大半は現在軍が持っている工房と邸宅付きの工房でどうにかするしかないのか。ユーリさんが融通してくれる材料もどの程度か分からない。
お湯でサーシャに身体を拭かせ、サーシャの身体は(ゴチャゴチャ言っていたが)俺が拭いた。何杯か酒を飲んだら眠くなって、狭いベッドで爆睡してしまった。
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