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28 夢想
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「ふむ。異世界人で思い出した。あの数字とやらはいいな。計算もいい」
会って数分でとっかかりを掴んだ。少なくとも話は聞いてもらえそうだ。
「アラヒトさんと言ったかな。あの数字の秘術、まだ先があると見た。どれほど先まで知っているのであろうな」
「あまりあの方面には詳しくはありませんが、まだ出していないこともありますね」
「そうか。そうだの。ああいうものは強い力を持っている。文字もだ。異世界の知恵はよく考えて少しずつ出す方が良かろう。できれば詳しく話を聞きたかったが、君の考えるあるべき時を待つしかないか」
ただの職人ではないな。こんな王宮から遠い場所に住んでいて、既に数字や文字についても見知っているのか。職人でありながら数学や文字まで嗜むとなると、下手をしたらこの世界最高の知性かもしれない。
「ひとつ聞きたい。人はいつか空を飛べるのか?」
ユーリさんにまっすぐに見られながら質問された。
「遠い未来ですが、飛べます」
「私が生きているうちは飛べないか」
飛べること自体には驚かないのか。
「鳥のように飛ぶのは難しいでしょうが、高い丘からゆっくり空中を落ちる程度ならできると思います」
しばらく俺はユーリさんに話を合わせ質問に答えた。そもそも飛ぶの定義からすり合わせないと話がかみ合わない。ユーリさんは鳥が羽を使って飛ぶように人も飛べると考えたようだが、それは俺がいた世界でも無理だった。小さい質量と高いエネルギー効率があってこそ、鳥は空を飛べるのだ。
「なるほど。滑空なら私が作ったものでもできるかもしれないのか」
「部材が分解しない強さと、適度な軽さがあればできるでしょう」
「お二人とも座ってお話したらいかがですか?お茶の準備ができていますよ」
さきほどの少女がお茶を用意してくれた。
「おお、これはいけない。アラヒトさん、まずは座ってお茶でも飲んでくれ」
「いただきます」
ユーリさんの話を聞いていたら、やはりいろんな人がユーリさんを利用しようとやって来るそうだ。家具で大儲けをしたい人、新たな武器を開発してほしい国、その他もろもろ。ユーリさんは自身の時間を確保するために、また空を飛ぶという自身の夢を叶えるために、客人に難問をふっかけては帰ってもらうそうだ。
変人は変人だが、明らかに天才だ。この文明のレベルで空を飛ぼうと思うか?
「なぜ空を飛びたいと思わないのか、そちらの方が理解できん。大地にあるすべてを高いところから見下ろし、自由に動いてみたいとは思わないのだろうか」
こういう好奇心が人類を動かしてきたんだろうな。
今夜の食事と酒と夜のお相手程度しか頭にない俺にとっては、なかなかに耳が痛い。自分よりも年上の人間がここまで想像力を働かせることができるのか。
「すまないな、私ばかり話してしまって」
「いえ、楽しいですよ」
「なにか私に用事があって来たのではないのか?」
俺はサーシャに合図して、鎧とボウガンを持ってきてもらった。
「ふむ。叩きのばした木材とニカワか。よく考えられている。アラヒトさんのお国のものかな?」
「ええまぁ」
触れもせず見ただけで分かるか。
「こちらは・・・なるほど。弱い力で強い弓を引くための工夫か」
さすがにボウガンは触ってから理解していた。
「その工夫のところで行き詰りまして。なにか知恵だけでも貸していただけないかと思って伺ったんです」
ずいぶん熱心に見ているな。
原始的な風車や水車はあるが、この世界に減速機や歯車の概念は無い。
「武器、だな。この私に人を殺すものを作る手助けをしろと?」
好奇心を信仰が上回れば、おそらく手は貸してもらえない。サーシャがなにかを言いかけたが手で制した。
「人を殺すものですが、この国の人間や大地を守るために必要なものです。できることなら私も人殺しに加担などしたくはありませんが、他国の侵攻を戦って抑えないと弱い者からみな死んでゆくでしょう」
ふーむ、と言いながらボウガンの試作品を見ている。
「気乗りはせんがな。私もサライが死ぬのは嫌だ。だが私が想像している通りの性能をこれが発揮するようであれば、今後の戦争のかたちが変わるぞ。分かっているのか?」
「分かっているつもりです。あなたがサライさんを大切に思うように、私にも死んでしまったら悲しくなる人間がたくさんいます」
「ほう・・・異世界から来たのにか?」
「この国は女性が美しいですから」
はっはっは、と高らかに笑われた。
「女性のために戦うか。いいのう。空を飛ぶような話だ」
なんとか力を貸してくれそうだ。
いくら現代知識があっても、実現させる職人がいなくてはただの知識だ。
会って数分でとっかかりを掴んだ。少なくとも話は聞いてもらえそうだ。
「アラヒトさんと言ったかな。あの数字の秘術、まだ先があると見た。どれほど先まで知っているのであろうな」
「あまりあの方面には詳しくはありませんが、まだ出していないこともありますね」
「そうか。そうだの。ああいうものは強い力を持っている。文字もだ。異世界の知恵はよく考えて少しずつ出す方が良かろう。できれば詳しく話を聞きたかったが、君の考えるあるべき時を待つしかないか」
ただの職人ではないな。こんな王宮から遠い場所に住んでいて、既に数字や文字についても見知っているのか。職人でありながら数学や文字まで嗜むとなると、下手をしたらこの世界最高の知性かもしれない。
「ひとつ聞きたい。人はいつか空を飛べるのか?」
ユーリさんにまっすぐに見られながら質問された。
「遠い未来ですが、飛べます」
「私が生きているうちは飛べないか」
飛べること自体には驚かないのか。
「鳥のように飛ぶのは難しいでしょうが、高い丘からゆっくり空中を落ちる程度ならできると思います」
しばらく俺はユーリさんに話を合わせ質問に答えた。そもそも飛ぶの定義からすり合わせないと話がかみ合わない。ユーリさんは鳥が羽を使って飛ぶように人も飛べると考えたようだが、それは俺がいた世界でも無理だった。小さい質量と高いエネルギー効率があってこそ、鳥は空を飛べるのだ。
「なるほど。滑空なら私が作ったものでもできるかもしれないのか」
「部材が分解しない強さと、適度な軽さがあればできるでしょう」
「お二人とも座ってお話したらいかがですか?お茶の準備ができていますよ」
さきほどの少女がお茶を用意してくれた。
「おお、これはいけない。アラヒトさん、まずは座ってお茶でも飲んでくれ」
「いただきます」
ユーリさんの話を聞いていたら、やはりいろんな人がユーリさんを利用しようとやって来るそうだ。家具で大儲けをしたい人、新たな武器を開発してほしい国、その他もろもろ。ユーリさんは自身の時間を確保するために、また空を飛ぶという自身の夢を叶えるために、客人に難問をふっかけては帰ってもらうそうだ。
変人は変人だが、明らかに天才だ。この文明のレベルで空を飛ぼうと思うか?
「なぜ空を飛びたいと思わないのか、そちらの方が理解できん。大地にあるすべてを高いところから見下ろし、自由に動いてみたいとは思わないのだろうか」
こういう好奇心が人類を動かしてきたんだろうな。
今夜の食事と酒と夜のお相手程度しか頭にない俺にとっては、なかなかに耳が痛い。自分よりも年上の人間がここまで想像力を働かせることができるのか。
「すまないな、私ばかり話してしまって」
「いえ、楽しいですよ」
「なにか私に用事があって来たのではないのか?」
俺はサーシャに合図して、鎧とボウガンを持ってきてもらった。
「ふむ。叩きのばした木材とニカワか。よく考えられている。アラヒトさんのお国のものかな?」
「ええまぁ」
触れもせず見ただけで分かるか。
「こちらは・・・なるほど。弱い力で強い弓を引くための工夫か」
さすがにボウガンは触ってから理解していた。
「その工夫のところで行き詰りまして。なにか知恵だけでも貸していただけないかと思って伺ったんです」
ずいぶん熱心に見ているな。
原始的な風車や水車はあるが、この世界に減速機や歯車の概念は無い。
「武器、だな。この私に人を殺すものを作る手助けをしろと?」
好奇心を信仰が上回れば、おそらく手は貸してもらえない。サーシャがなにかを言いかけたが手で制した。
「人を殺すものですが、この国の人間や大地を守るために必要なものです。できることなら私も人殺しに加担などしたくはありませんが、他国の侵攻を戦って抑えないと弱い者からみな死んでゆくでしょう」
ふーむ、と言いながらボウガンの試作品を見ている。
「気乗りはせんがな。私もサライが死ぬのは嫌だ。だが私が想像している通りの性能をこれが発揮するようであれば、今後の戦争のかたちが変わるぞ。分かっているのか?」
「分かっているつもりです。あなたがサライさんを大切に思うように、私にも死んでしまったら悲しくなる人間がたくさんいます」
「ほう・・・異世界から来たのにか?」
「この国は女性が美しいですから」
はっはっは、と高らかに笑われた。
「女性のために戦うか。いいのう。空を飛ぶような話だ」
なんとか力を貸してくれそうだ。
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