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27 職人
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「例のボウガンってやつなんですけれど、機構のところが難しいです」
「俺たちの技術と手持ちの木だけでは壊れるんですよね」
我が家に仕事に来る親方と助手の二人だ。応接室に通して茶を飲んでもらった。羊皮紙を広げて図面を説明してくれている。
「こないだの連弩も相当に厳しいですよ。特にあの大岩を止めるからくりのところは強度的にギリギリです」
うーん、やはり機構が複雑になると壊れやすくなるか。仕事で車に使う部品を扱っていた時に、設計者の人に話を聞いたことがある。どんな機械であっても可能な限りシンプルに、それでいて必要な機能だけを作れば壊れにくくなるのだそうだ。考えてみれば当たり前なのだが、指摘されるまで気づきづらい。
木でギヤや減速機を作るのは難しいのだろうか?ましてやあれを実戦投入する事を考えると、もっと簡単な仕組みの方がいいのかな。しかしこの国で使える素材は木と石だけだしなぁ。
「ギヤはやはり難しいんですか?」
「難しいですね。熱も出ちゃいますし、摩耗しますし、軸も折れますし・・・」
「それでですね。俺たちでは難しいんですが、こういうものでも作れそうな人がいるんですよ。外部に情報を出したらマズいという話だったんですが、図面通りのものを作る必要があるんでしたらその人を頼るしか無いので。俺らでは無理です」
・・・ん?逆に言えば壊れないギヤや減速機を作れるレベルの職人がいるということなのか?
「その職人さんの名前は?」
「ユーリさんです。木を扱う仕事をさせたらこの国一番です」
「この家にある机や椅子もユーリさんの仕事っすね。他の国でも売れる最高級品ですよ」
あれ。
「家具職人さん、ですか?」
「ユーリさんはなんでも作りますよ」
「ただ武器を作ったという話は聞いたことが無いんで・・・作ってもらえるかどうかまではちょっと分からないです」
ふーむ。この国一番の木工職人か。会ってみたいし、できれば力を貸してもらいたいな。
「サーシャ。うちで作っているものをそのユーリさんに見せても大丈夫か?」
「外部に漏れなければなんの問題もありませんが・・・ユーリ様はかなり気難しい方だと聞いていますよ?それに人嫌いでほとんど誰とも会っていないようですし、王宮からの要請すら突っぱねると聞いています」
相当のへそ曲がりのようだ。
「なんでも作っちゃうような人なんだろう?それほどの好奇心がある人なら、異世界人にも興味があるんじゃないのか?協力してもらえるかどうかは別にして、そんな凄い人がいるなら俺も会ってみたいよ」
「それでしたら明日にでも訪ねてみましょうか?」
連絡取らなくて大丈夫なのかと思ったが、この世界ではアポイントの取りようが無い。とりあえず行ってみるしかないか。
「あのっ!俺らも行ってみていいっすか?」
「やっぱり憧れなんですよ、ユーリさんは!」
二人ともスポーツ選手に憧れる少年のような顔つきになっているが・・・
「人嫌いの相手に大勢で押しかける気は無いよ。俺とサーシャだけで行ってくる」
「ああ・・・そうっすよね・・・」
そんなにしょんぼりしないで欲しいなぁ。
「まぁ会えるかどうかも分からない人だし。二人が会いたがっていたということはちゃんと伝えるよ」
うちに来ている職人たちも決して腕が悪いワケでは無い。連弩をそれなりの完成度で作り、木製鎧のたたき台を作ったのは彼らなのだ。その彼らが憧れるほどの職人なら是非とも会ってみたい。
馬を飛ばして三時間ほどで小さな村へ到着した。慣れてくると馬もなかなかいいものだな。バイクとは違う楽しさがある。世話が大変だけれど俺がするわけじゃないし。ただ、まだ遠乗りをすると腰が痛くなるな。
「こちらのお宅のはずですね」
家、というよりも大型倉庫に近いな。こんな大きな作業場でなにを作っているのだろう。
「どちら様でしょうか?」
呼び鈴を鳴らすと小間使いらしき少女が出てきた。金髪ばかりのこの世界には珍しい栗色の髪に青い目。キッチュという雰囲気が良く似合う顔つきの少女だ。
「私はアラヒトと申します。ユーリさんにお会いしたくて本日は伺ったのですが、ご在宅でしょうか?」
「ユーリさんは居ますけれど、今日もよく分からないことを言ってますよ。お話ができるかどうかは分かりませんが、まずはおあがりください」
小間使いの方に導かれて、家の中に入る。
大型の作業所の中に、生活空間用のプレハブ住宅のような部屋を作っている。
「なん・・・ですかこれは・・・」
目の前にあるこれは・・・フォルムが独特だが大型のグライダーみたいだな。木と石しかないような世界で、空を飛ぶことを想像できる人間がいるのか。まぁサーシャが驚くのも無理は無い。この時代にこれはかなり突飛だ。
「従者を連れているということは王宮か貴族の人かね?」
鼻の下は刈り取られているが、頬からアゴにかけて立派なヒゲの持ち主だ。時間をかけて身に着けた熟練の渋さというものを身に纏っている。年齢は俺より上だろうが、立派な体つきだな。彼がユーリという名の職人か。
「私がいま作っているこれで、いったいなにをしたいのか当てられたら話を聞こう」
「誰も当てられませんよ。私が聞いても意味が分かりませんもの」
こういう時は現代知識のありがたみを感じるな。
「空を飛びたいんですか?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
小間使いの少女が、ユーリさんの考えが分かる変人が来たという顔で見ている。
「ほう・・・いや、よく見るとあなたは・・・異世界から来たという噂の方ですかな?」
また顔で判断されたな。自分では格別にブサイクな顔だとは思わないが、いちいちこういう事があると少しハラが立つな。
「アラヒトと言います。おっしゃる通り異世界人です」
「客人を試すような真似をして済まなかった。どうにも本質の分からぬ愚か者ばかりが私の工房を見たがってね。私がユーリだ」
俺とサーシャだけで来て良かったな。うちの職人を連れてきてたら追い返されていたかもしれない。
「俺たちの技術と手持ちの木だけでは壊れるんですよね」
我が家に仕事に来る親方と助手の二人だ。応接室に通して茶を飲んでもらった。羊皮紙を広げて図面を説明してくれている。
「こないだの連弩も相当に厳しいですよ。特にあの大岩を止めるからくりのところは強度的にギリギリです」
うーん、やはり機構が複雑になると壊れやすくなるか。仕事で車に使う部品を扱っていた時に、設計者の人に話を聞いたことがある。どんな機械であっても可能な限りシンプルに、それでいて必要な機能だけを作れば壊れにくくなるのだそうだ。考えてみれば当たり前なのだが、指摘されるまで気づきづらい。
木でギヤや減速機を作るのは難しいのだろうか?ましてやあれを実戦投入する事を考えると、もっと簡単な仕組みの方がいいのかな。しかしこの国で使える素材は木と石だけだしなぁ。
「ギヤはやはり難しいんですか?」
「難しいですね。熱も出ちゃいますし、摩耗しますし、軸も折れますし・・・」
「それでですね。俺たちでは難しいんですが、こういうものでも作れそうな人がいるんですよ。外部に情報を出したらマズいという話だったんですが、図面通りのものを作る必要があるんでしたらその人を頼るしか無いので。俺らでは無理です」
・・・ん?逆に言えば壊れないギヤや減速機を作れるレベルの職人がいるということなのか?
「その職人さんの名前は?」
「ユーリさんです。木を扱う仕事をさせたらこの国一番です」
「この家にある机や椅子もユーリさんの仕事っすね。他の国でも売れる最高級品ですよ」
あれ。
「家具職人さん、ですか?」
「ユーリさんはなんでも作りますよ」
「ただ武器を作ったという話は聞いたことが無いんで・・・作ってもらえるかどうかまではちょっと分からないです」
ふーむ。この国一番の木工職人か。会ってみたいし、できれば力を貸してもらいたいな。
「サーシャ。うちで作っているものをそのユーリさんに見せても大丈夫か?」
「外部に漏れなければなんの問題もありませんが・・・ユーリ様はかなり気難しい方だと聞いていますよ?それに人嫌いでほとんど誰とも会っていないようですし、王宮からの要請すら突っぱねると聞いています」
相当のへそ曲がりのようだ。
「なんでも作っちゃうような人なんだろう?それほどの好奇心がある人なら、異世界人にも興味があるんじゃないのか?協力してもらえるかどうかは別にして、そんな凄い人がいるなら俺も会ってみたいよ」
「それでしたら明日にでも訪ねてみましょうか?」
連絡取らなくて大丈夫なのかと思ったが、この世界ではアポイントの取りようが無い。とりあえず行ってみるしかないか。
「あのっ!俺らも行ってみていいっすか?」
「やっぱり憧れなんですよ、ユーリさんは!」
二人ともスポーツ選手に憧れる少年のような顔つきになっているが・・・
「人嫌いの相手に大勢で押しかける気は無いよ。俺とサーシャだけで行ってくる」
「ああ・・・そうっすよね・・・」
そんなにしょんぼりしないで欲しいなぁ。
「まぁ会えるかどうかも分からない人だし。二人が会いたがっていたということはちゃんと伝えるよ」
うちに来ている職人たちも決して腕が悪いワケでは無い。連弩をそれなりの完成度で作り、木製鎧のたたき台を作ったのは彼らなのだ。その彼らが憧れるほどの職人なら是非とも会ってみたい。
馬を飛ばして三時間ほどで小さな村へ到着した。慣れてくると馬もなかなかいいものだな。バイクとは違う楽しさがある。世話が大変だけれど俺がするわけじゃないし。ただ、まだ遠乗りをすると腰が痛くなるな。
「こちらのお宅のはずですね」
家、というよりも大型倉庫に近いな。こんな大きな作業場でなにを作っているのだろう。
「どちら様でしょうか?」
呼び鈴を鳴らすと小間使いらしき少女が出てきた。金髪ばかりのこの世界には珍しい栗色の髪に青い目。キッチュという雰囲気が良く似合う顔つきの少女だ。
「私はアラヒトと申します。ユーリさんにお会いしたくて本日は伺ったのですが、ご在宅でしょうか?」
「ユーリさんは居ますけれど、今日もよく分からないことを言ってますよ。お話ができるかどうかは分かりませんが、まずはおあがりください」
小間使いの方に導かれて、家の中に入る。
大型の作業所の中に、生活空間用のプレハブ住宅のような部屋を作っている。
「なん・・・ですかこれは・・・」
目の前にあるこれは・・・フォルムが独特だが大型のグライダーみたいだな。木と石しかないような世界で、空を飛ぶことを想像できる人間がいるのか。まぁサーシャが驚くのも無理は無い。この時代にこれはかなり突飛だ。
「従者を連れているということは王宮か貴族の人かね?」
鼻の下は刈り取られているが、頬からアゴにかけて立派なヒゲの持ち主だ。時間をかけて身に着けた熟練の渋さというものを身に纏っている。年齢は俺より上だろうが、立派な体つきだな。彼がユーリという名の職人か。
「私がいま作っているこれで、いったいなにをしたいのか当てられたら話を聞こう」
「誰も当てられませんよ。私が聞いても意味が分かりませんもの」
こういう時は現代知識のありがたみを感じるな。
「空を飛びたいんですか?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
小間使いの少女が、ユーリさんの考えが分かる変人が来たという顔で見ている。
「ほう・・・いや、よく見るとあなたは・・・異世界から来たという噂の方ですかな?」
また顔で判断されたな。自分では格別にブサイクな顔だとは思わないが、いちいちこういう事があると少しハラが立つな。
「アラヒトと言います。おっしゃる通り異世界人です」
「客人を試すような真似をして済まなかった。どうにも本質の分からぬ愚か者ばかりが私の工房を見たがってね。私がユーリだ」
俺とサーシャだけで来て良かったな。うちの職人を連れてきてたら追い返されていたかもしれない。
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