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21 試験
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ようやく強化木製鎧と連弩の試作品が出来上がった。
さっそく庭で非公式な性能試験を行う。
強弓を借りてきて、近距離から鎧に当てる。矢じりが鎧に刺さってはいるが貫通はしないか。ギリギリの性能だな。
自宅工房の職人から成功を喜ぶ声が挙がる。
「いやー、こんなので本当に強くなるんですね」
「ぶっちゃけ木とニカワだけだもんな。強くなるもんなのかなと思いましたけれど、見事ですね」
「うーん・・・」
木製の鎧もどきよりは前よりはマシになった程度の強さだ。
「・・・なんか不満なんすか?」
「うん。剣か斧を扱える人間はいるか?」
「あ、俺で良ければやりますよ」
「これを真上からまっすぐ叩けるか?」
「やってみますね」
振り下ろされた剣によって試作品はマキでも割るかのようにぱっくりと割れた。あとで気づいたけれど、木とニカワで作っている以上はこうなるよなぁ。
正面からの攻撃ならメイスのような重量物でも多少は耐えれる。槍の突きにもよっぽどの腕自慢じゃないと貫通しないだろう。だが角度によっては剣で割られる。
「鎧だろう?こんな簡単に割られていいのか?」
「うーん・・・せめて鉄で端の方だけでも補強できれば・・・」
そうなんだよな。鉄が無いってだけでかなり問題がある。実際にこの鎧のモデルになったものは金属で周囲を補強していたはずだ。どうしたもんかなぁ・・・
「いえ、これで十分です。改良品ができたら将軍にも試験を見てもらいましょう」
一部始終を見ていたサーシャが入ってきた。
「いや、乱戦になったらどうするの?壊れるよ?」
「銅なら多少なら融通できるはずです。それで端を補強しましょう」
「ああ、いいですね。柔らかいから加工もラクですし、周辺だけならかなり軽くなる」
「乱戦になったとしても、可能な限り機動戦に持って行けばいいのです。むしろ乱戦にしない戦い方を考えるべきかと思います。弓が当たっても弾くのですから。将軍も王も同じようなことを考えると思いますよ」
そうか。鉄に拘りすぎていたんだな。むしろ鉄よりも柔らかくて衝撃吸収をする銅を使った方が有利かもしれない。それに戦い方というのも俺の頭には無かった。相手が重装歩兵であるなら、速度で優位に立てば勝算もあるだろう。
「それと改めて私からお話があります。既に周知していますが、この屋敷で見たもの、知ったこと、なにもかもご家族にさえ伝えてはなりません。ここで作られるもの、書かれたものすべてがペテルグの国家機密です。もしなにかありましたら首が飛ぶ、ということを重々承知してください」
「うっす!」
「分かりました!」
物珍しさで見ていた若い侍女たちも固くなってしまった。
まぁこうなるか。異世界の知恵だものな。
妙な緊張感が場に出来てしまったが、次は連弩だ。
一射で十本の弓が飛ぶ。強弓はここの職人お手製のものだ。
「行きまーす」
一射目は見事に飛んだ。飛散する方向もだいたい想定内だ。ガコンという音を立てて二射目の弓が装填される。一発撃つごとに石が落ちて弓は引かれ固定される。
「二射目行きまーす」
二射目もうまく機能した。またガコンという音を立てて三射目の準備をする音が聞こえた。
「三射目行きまーす」
バキンという音とともに絶叫が聞こえた。弓が壊れたか、からくりの方が壊れたか。
「すいません、失敗っす・・・」
いい大人がしゅんとなっている。あんまり見たくない光景だな。
「怪我人はいないか?」
「連弩の中で矢を装填していた人間が足を怪我しました」
武器開発の現場でこの程度の怪我で済んだというのであれば、まぁマシな方だろう。
「怪我人を早く医者に運んでくれ。それと壊れた原因を調べてあとで俺に報告してくれ」
「うっす!」
俺は武器製作の心得があるワケじゃないんだ。そうそう順調にいくもんでもないだろう。
邸宅の中に戻り、お茶にした。パイプにタバコを詰め、火だねをもらって火を着ける。マッチはまだ無いんだよなぁ。
タバコは十分なほどに送られてくるが出来がイマイチだったので、下賜されたブランデーを霧吹き陰干しして自分好みに調整中だ。まさかパイプでタバコを吸うようになるとはなぁ。タバコがあるだけマシか。
それにしても課題が山積みだな。まぁまだ半年くらい猶予があるから、その間にどうにかなっていればいいんだが。連弩なんて古代のロマン武器だからなぁ。きちんと動くんだろうか?
「連弩の方もどうにかなりそうでしたね」
あれでか?
「試験で壊れてしまう程度では、実戦投入などできないだろう」
「弓が壊れるのであれば、同じものをいくつか予備で置いておけばいいだけです。あとは壊れた弓を取り外して新しい弓と交換できるような運用ができれば十分使えると思います」
「あれなら弓兵を多く配置した方がいいんじゃないのか?」
「そもそも弓兵をあまり多くは割けません。練度もいまいちですし。それに未知の武器で攻撃される恐怖の方が敵から見ると脅威となるでしょう。誰だってよく分からない敵に向かいたいとは思いませんからね 。速射も弓兵以上に機能しています。人員配置をするよりも拠点防衛向きで、敵を追い返すには十分な性能だと思います。なにより弓兵のように疲れません」
仕様要件は満たしているが、安定性に欠けるということか。
「試験で問題を洗い直しているだけです。その問題さえ解決できればいいんです。いきなり凄いものができるワケが無いです」
大学の時の指導教官みたいなことを言われた。
作るより材料を運ぶ方が面白そうだったから物流の世界に入ったけれど、そういや俺も学生の時はヘンテコなものばかり作っていたな。そういう経験がまさか異世界で生きてくるとは。
「そうか。ありがとう」
あまりに異世界人への期待が大きすぎてもやれる事など限られている。魔法的なチート能力でも授かると思いきや、マジでなんも無いし。異世界ってもう少しラクなもんだと思っていたんだけれどなぁ。
さっそく庭で非公式な性能試験を行う。
強弓を借りてきて、近距離から鎧に当てる。矢じりが鎧に刺さってはいるが貫通はしないか。ギリギリの性能だな。
自宅工房の職人から成功を喜ぶ声が挙がる。
「いやー、こんなので本当に強くなるんですね」
「ぶっちゃけ木とニカワだけだもんな。強くなるもんなのかなと思いましたけれど、見事ですね」
「うーん・・・」
木製の鎧もどきよりは前よりはマシになった程度の強さだ。
「・・・なんか不満なんすか?」
「うん。剣か斧を扱える人間はいるか?」
「あ、俺で良ければやりますよ」
「これを真上からまっすぐ叩けるか?」
「やってみますね」
振り下ろされた剣によって試作品はマキでも割るかのようにぱっくりと割れた。あとで気づいたけれど、木とニカワで作っている以上はこうなるよなぁ。
正面からの攻撃ならメイスのような重量物でも多少は耐えれる。槍の突きにもよっぽどの腕自慢じゃないと貫通しないだろう。だが角度によっては剣で割られる。
「鎧だろう?こんな簡単に割られていいのか?」
「うーん・・・せめて鉄で端の方だけでも補強できれば・・・」
そうなんだよな。鉄が無いってだけでかなり問題がある。実際にこの鎧のモデルになったものは金属で周囲を補強していたはずだ。どうしたもんかなぁ・・・
「いえ、これで十分です。改良品ができたら将軍にも試験を見てもらいましょう」
一部始終を見ていたサーシャが入ってきた。
「いや、乱戦になったらどうするの?壊れるよ?」
「銅なら多少なら融通できるはずです。それで端を補強しましょう」
「ああ、いいですね。柔らかいから加工もラクですし、周辺だけならかなり軽くなる」
「乱戦になったとしても、可能な限り機動戦に持って行けばいいのです。むしろ乱戦にしない戦い方を考えるべきかと思います。弓が当たっても弾くのですから。将軍も王も同じようなことを考えると思いますよ」
そうか。鉄に拘りすぎていたんだな。むしろ鉄よりも柔らかくて衝撃吸収をする銅を使った方が有利かもしれない。それに戦い方というのも俺の頭には無かった。相手が重装歩兵であるなら、速度で優位に立てば勝算もあるだろう。
「それと改めて私からお話があります。既に周知していますが、この屋敷で見たもの、知ったこと、なにもかもご家族にさえ伝えてはなりません。ここで作られるもの、書かれたものすべてがペテルグの国家機密です。もしなにかありましたら首が飛ぶ、ということを重々承知してください」
「うっす!」
「分かりました!」
物珍しさで見ていた若い侍女たちも固くなってしまった。
まぁこうなるか。異世界の知恵だものな。
妙な緊張感が場に出来てしまったが、次は連弩だ。
一射で十本の弓が飛ぶ。強弓はここの職人お手製のものだ。
「行きまーす」
一射目は見事に飛んだ。飛散する方向もだいたい想定内だ。ガコンという音を立てて二射目の弓が装填される。一発撃つごとに石が落ちて弓は引かれ固定される。
「二射目行きまーす」
二射目もうまく機能した。またガコンという音を立てて三射目の準備をする音が聞こえた。
「三射目行きまーす」
バキンという音とともに絶叫が聞こえた。弓が壊れたか、からくりの方が壊れたか。
「すいません、失敗っす・・・」
いい大人がしゅんとなっている。あんまり見たくない光景だな。
「怪我人はいないか?」
「連弩の中で矢を装填していた人間が足を怪我しました」
武器開発の現場でこの程度の怪我で済んだというのであれば、まぁマシな方だろう。
「怪我人を早く医者に運んでくれ。それと壊れた原因を調べてあとで俺に報告してくれ」
「うっす!」
俺は武器製作の心得があるワケじゃないんだ。そうそう順調にいくもんでもないだろう。
邸宅の中に戻り、お茶にした。パイプにタバコを詰め、火だねをもらって火を着ける。マッチはまだ無いんだよなぁ。
タバコは十分なほどに送られてくるが出来がイマイチだったので、下賜されたブランデーを霧吹き陰干しして自分好みに調整中だ。まさかパイプでタバコを吸うようになるとはなぁ。タバコがあるだけマシか。
それにしても課題が山積みだな。まぁまだ半年くらい猶予があるから、その間にどうにかなっていればいいんだが。連弩なんて古代のロマン武器だからなぁ。きちんと動くんだろうか?
「連弩の方もどうにかなりそうでしたね」
あれでか?
「試験で壊れてしまう程度では、実戦投入などできないだろう」
「弓が壊れるのであれば、同じものをいくつか予備で置いておけばいいだけです。あとは壊れた弓を取り外して新しい弓と交換できるような運用ができれば十分使えると思います」
「あれなら弓兵を多く配置した方がいいんじゃないのか?」
「そもそも弓兵をあまり多くは割けません。練度もいまいちですし。それに未知の武器で攻撃される恐怖の方が敵から見ると脅威となるでしょう。誰だってよく分からない敵に向かいたいとは思いませんからね 。速射も弓兵以上に機能しています。人員配置をするよりも拠点防衛向きで、敵を追い返すには十分な性能だと思います。なにより弓兵のように疲れません」
仕様要件は満たしているが、安定性に欠けるということか。
「試験で問題を洗い直しているだけです。その問題さえ解決できればいいんです。いきなり凄いものができるワケが無いです」
大学の時の指導教官みたいなことを言われた。
作るより材料を運ぶ方が面白そうだったから物流の世界に入ったけれど、そういや俺も学生の時はヘンテコなものばかり作っていたな。そういう経験がまさか異世界で生きてくるとは。
「そうか。ありがとう」
あまりに異世界人への期待が大きすぎてもやれる事など限られている。魔法的なチート能力でも授かると思いきや、マジでなんも無いし。異世界ってもう少しラクなもんだと思っていたんだけれどなぁ。
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