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13 将軍
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軍事方面の話も聞きたかったので、王様と将軍とも面会した。
この国の軍事力と敵の軍事力が分からないと防衛すらできない。
話していくうちに分かったが、実は兵隊の数がよく分かっていないというのが実情のようだ。敵軍もかなり大雑把にしか把握できておらず、軍として掌握できていないということが分かった。
「アラヒトよ。いつかは他国に攻め入れるのであろうな?」
「攻め入る必要は無いかと思われます」
先に軍として編成し直すのが先だ。
「何故だ?戦って勝つこそが我々の責務であろう」
「いまのこの国では勝てません。仮に勝っても統治ができません」
王の機嫌が見る見るうちに悪くなる。
「ではいつ勝てるようになるのだ?いつ戦えるのだ?」
「最短であと10と5回の夏を迎えてからになると思われます」
「・・・お前もワシに待てと言うのか。それほど長く」
困った王様だな。どこになにを指示すればいいのか分からない軍などただの烏合の衆だ。現状では夜盗やゲリラの方が近い。
「王はなぜそこまで戦いたいのですか?」
「亡くなった兄のためだ。できることならチュノスの王の首を兄の墓に捧げたい」
チュノスというのはこの国の西にある大国だったな。騎士道精神はご立派だが・・・この人に国政を摂らせていたら国が亡ぶ。
「戦を始める前に、まずはこの国の軍隊について教えていただきたいのですが」
「それならそこに居るムサエフに聞け。開戦の話でないのであればワシは席を外すぞ」
内憂外患だな。いい女に囲まれるてハーレムを作るというのはそうそう簡単ではないか。
王が血気盛んなのは結構だが、国が滅びてしまえば女性もみな死んでしまう。
「異世界人殿、王がご無礼を働きまして申し訳ない」
「武勲を挙げられなかったことがよっぽど無念だったようですね」
兄が死んだというのであれば、ざっと十年ほど前の話になるか。負けたんだろうなぁ。
「まずはどういう武器を持った相手に、どういう武器で対抗しているのか拝見させてください」
武器を集めている蔵のようなところに案内された。
王族や将軍は輸入品の金属鎧に金属の武器。
それ以外は木製の武器に先だけ金属っぽい槍。石でできた矢による弓矢。あとは木製の木槌等の武器か。
「騎馬隊もいますが、山間部では騎馬の扱いが難しくて防衛向きではありません」
「高所から速度を増して一気に戦場に雪崩れ込ませれば効果はありそうですが・・・」
「それでは主力にはならぬということです。国境周辺は機動戦ができる地形ではありませんから」
「ということは、ペテルグに攻めて来る軍隊も歩兵が中心になるのですか?」
「指示が出しやすいように指揮官級は馬で来ますが、あとは歩兵が中心です」
「相手の装備は?」
「金属に穴をあけて繋げた板のような鎧です。木製武器では倒せません。あとで敵から奪った現物をお見せします」
「相手の矢じりも金属製ですか?」
「いえ。高価なのでどの国も石製のものが中心です」
敵国の鎧を見せてもらった。日本の鎌倉時代の鎧がこんな具合だったと思う。できればこの鎧を一撃で刺せる武器を作り、相手の矢や武器を防げる防具があればいいのか。
強い弓か、投石機の類があればいいな。金属製の武器を作るのは今の時点では無理だ。鈍器で殴るにしても携行しづらいのが難点だな。あとは地形だ。国境までどの程度の時間がかかり、物資をどう運べばいいのか。
「この国の国境線が見たいです。防衛の拠点となる砦に案内してもらえないでしょうか?」
「・・・あなたは他の国に戦争で勝てるとお思いなのでしょうか?」
「ムサエフ将軍、アラヒトでいいです。勝てるかどうかはきちんと国のことを知っていないと分かりません。いま必死でこの国について理解しようとしているところです」
「しかしアラヒトさんは異世界人でしょう。ここの土地の者ですら他国に勝てるとは思っていませんよ」
「それでも負けたら多くの人が無差別に殺されるでしょう。私はこの国の女性が気に入っています。だからこの国でなくてはいけないんです」
ははっと声を挙げて笑われた。
「女性のために命を賭けますか。騎士道ですな」
「私だけ生き残っても美しい女性たちがいなければ、人生の意味が無いです」
「・・・いや・・・そうですね。愛する女性や子供たちを守れて、初めて男としての価値が自分に見いだせるような気がします」
本来、戦いとは土地や資源の奪い合いだけではない。
女性だって奪われるものだし、守るべきものなのだ。
「しかしその、なにか楽しそうにも見えますね」
楽しい?慣れない仕事ばかりやっている俺のこの状況が?
いや、そうか。そうだな。楽しいというよりも、血の気が強くなっているというか、燃えている。
女性を守り、女性を抱き、食事して酒飲んで寝るために戦うのだ。生きる理由がややこしくない分だけ動物的な本能が刺激されるのだろう。
「最終的には国が女性を育成して売るようなことも無い国になって欲しいと思っています」
将軍の顔色が変わった。
「・・・それは・・・また・・・難しいですね。戦争で勝つよりも難しいことだと思います」
「女性のほかに売るものがあれば、国庫は潤うはずです。そこも必死に考えています。せっかく女性に生まれて来たんだったら、好きな男と結ばれたらいいじゃないですか」
エクスタシーも知らぬまま美しい女性が老いて死ぬなど、なかなかの怪談だ。すべての美しい女性はエクスタシーとともに生きるべきだと思う。
将軍の顔つきが変わった。
「私にも娘がいます。親として娘はなにがなんでも守らなくてはいけないと思います。しかし国がこの状態では・・・娘も諜報員か贈答品として将来を送ることになると思っていました」
野生動物だって自分の子どもを必死で守るのだ。人の親であるなら現状に満足できるわけがない。
「すぐに答えが出る話ではありません。異世界人として多くのものを伝えられるかと思っていましたが、教えられる土台となるものがまず無いのです。将軍にも多くの仕事を依頼することになるかもしれません」
「私が力になれるのであれば、是非相談してください。異世界人の知見はこの国の最期の希望です」
国が滅ぶまで権力に執着するタイプでは無いようだな。軍事のナンバー2にこう言ってもらえると助かる。
それにしても、最後の希望か。
異世界人はこの世界の歴史上、それほど多くのものを伝えてきたということだな。
文明がヘンテコな発展の仕方をしているのもそういう事情があるのかもしれない。
この国の軍事力と敵の軍事力が分からないと防衛すらできない。
話していくうちに分かったが、実は兵隊の数がよく分かっていないというのが実情のようだ。敵軍もかなり大雑把にしか把握できておらず、軍として掌握できていないということが分かった。
「アラヒトよ。いつかは他国に攻め入れるのであろうな?」
「攻め入る必要は無いかと思われます」
先に軍として編成し直すのが先だ。
「何故だ?戦って勝つこそが我々の責務であろう」
「いまのこの国では勝てません。仮に勝っても統治ができません」
王の機嫌が見る見るうちに悪くなる。
「ではいつ勝てるようになるのだ?いつ戦えるのだ?」
「最短であと10と5回の夏を迎えてからになると思われます」
「・・・お前もワシに待てと言うのか。それほど長く」
困った王様だな。どこになにを指示すればいいのか分からない軍などただの烏合の衆だ。現状では夜盗やゲリラの方が近い。
「王はなぜそこまで戦いたいのですか?」
「亡くなった兄のためだ。できることならチュノスの王の首を兄の墓に捧げたい」
チュノスというのはこの国の西にある大国だったな。騎士道精神はご立派だが・・・この人に国政を摂らせていたら国が亡ぶ。
「戦を始める前に、まずはこの国の軍隊について教えていただきたいのですが」
「それならそこに居るムサエフに聞け。開戦の話でないのであればワシは席を外すぞ」
内憂外患だな。いい女に囲まれるてハーレムを作るというのはそうそう簡単ではないか。
王が血気盛んなのは結構だが、国が滅びてしまえば女性もみな死んでしまう。
「異世界人殿、王がご無礼を働きまして申し訳ない」
「武勲を挙げられなかったことがよっぽど無念だったようですね」
兄が死んだというのであれば、ざっと十年ほど前の話になるか。負けたんだろうなぁ。
「まずはどういう武器を持った相手に、どういう武器で対抗しているのか拝見させてください」
武器を集めている蔵のようなところに案内された。
王族や将軍は輸入品の金属鎧に金属の武器。
それ以外は木製の武器に先だけ金属っぽい槍。石でできた矢による弓矢。あとは木製の木槌等の武器か。
「騎馬隊もいますが、山間部では騎馬の扱いが難しくて防衛向きではありません」
「高所から速度を増して一気に戦場に雪崩れ込ませれば効果はありそうですが・・・」
「それでは主力にはならぬということです。国境周辺は機動戦ができる地形ではありませんから」
「ということは、ペテルグに攻めて来る軍隊も歩兵が中心になるのですか?」
「指示が出しやすいように指揮官級は馬で来ますが、あとは歩兵が中心です」
「相手の装備は?」
「金属に穴をあけて繋げた板のような鎧です。木製武器では倒せません。あとで敵から奪った現物をお見せします」
「相手の矢じりも金属製ですか?」
「いえ。高価なのでどの国も石製のものが中心です」
敵国の鎧を見せてもらった。日本の鎌倉時代の鎧がこんな具合だったと思う。できればこの鎧を一撃で刺せる武器を作り、相手の矢や武器を防げる防具があればいいのか。
強い弓か、投石機の類があればいいな。金属製の武器を作るのは今の時点では無理だ。鈍器で殴るにしても携行しづらいのが難点だな。あとは地形だ。国境までどの程度の時間がかかり、物資をどう運べばいいのか。
「この国の国境線が見たいです。防衛の拠点となる砦に案内してもらえないでしょうか?」
「・・・あなたは他の国に戦争で勝てるとお思いなのでしょうか?」
「ムサエフ将軍、アラヒトでいいです。勝てるかどうかはきちんと国のことを知っていないと分かりません。いま必死でこの国について理解しようとしているところです」
「しかしアラヒトさんは異世界人でしょう。ここの土地の者ですら他国に勝てるとは思っていませんよ」
「それでも負けたら多くの人が無差別に殺されるでしょう。私はこの国の女性が気に入っています。だからこの国でなくてはいけないんです」
ははっと声を挙げて笑われた。
「女性のために命を賭けますか。騎士道ですな」
「私だけ生き残っても美しい女性たちがいなければ、人生の意味が無いです」
「・・・いや・・・そうですね。愛する女性や子供たちを守れて、初めて男としての価値が自分に見いだせるような気がします」
本来、戦いとは土地や資源の奪い合いだけではない。
女性だって奪われるものだし、守るべきものなのだ。
「しかしその、なにか楽しそうにも見えますね」
楽しい?慣れない仕事ばかりやっている俺のこの状況が?
いや、そうか。そうだな。楽しいというよりも、血の気が強くなっているというか、燃えている。
女性を守り、女性を抱き、食事して酒飲んで寝るために戦うのだ。生きる理由がややこしくない分だけ動物的な本能が刺激されるのだろう。
「最終的には国が女性を育成して売るようなことも無い国になって欲しいと思っています」
将軍の顔色が変わった。
「・・・それは・・・また・・・難しいですね。戦争で勝つよりも難しいことだと思います」
「女性のほかに売るものがあれば、国庫は潤うはずです。そこも必死に考えています。せっかく女性に生まれて来たんだったら、好きな男と結ばれたらいいじゃないですか」
エクスタシーも知らぬまま美しい女性が老いて死ぬなど、なかなかの怪談だ。すべての美しい女性はエクスタシーとともに生きるべきだと思う。
将軍の顔つきが変わった。
「私にも娘がいます。親として娘はなにがなんでも守らなくてはいけないと思います。しかし国がこの状態では・・・娘も諜報員か贈答品として将来を送ることになると思っていました」
野生動物だって自分の子どもを必死で守るのだ。人の親であるなら現状に満足できるわけがない。
「すぐに答えが出る話ではありません。異世界人として多くのものを伝えられるかと思っていましたが、教えられる土台となるものがまず無いのです。将軍にも多くの仕事を依頼することになるかもしれません」
「私が力になれるのであれば、是非相談してください。異世界人の知見はこの国の最期の希望です」
国が滅ぶまで権力に執着するタイプでは無いようだな。軍事のナンバー2にこう言ってもらえると助かる。
それにしても、最後の希望か。
異世界人はこの世界の歴史上、それほど多くのものを伝えてきたということだな。
文明がヘンテコな発展の仕方をしているのもそういう事情があるのかもしれない。
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