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第十四章

緊急事態②

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『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!』


数多の妖呪を吸収し、漆黒の球体から生まれ落ちた人型の何か。
身長は二メートル弱。
ひょろひょろのガタイをしており、手足が異様に細長い。
普通の妖呪とは違い顔が完全に漆黒で覆われているため、その表情を推し量ることは出来ず、しかしその代わりにガパッと裂けた口(?)からは、底なしの漆黒が見え隠れしている。
背後でゆっくりと不気味に回転するのは幾何学模様の描かれた後輪。
その輪の中から五本の触手がうごめく。

かの謎生物は猫背だった背筋を今度は逆に反ると、大きな絶叫を上げた。
歪な産声はどこか背筋をぞわりとさせるような不気味な気配を孕んでおり、大気をビリビリと震わせる。


かなり離れてたのに耳がキーンッてするんだけど………。
下手すれば鼓膜が破れていたかもしれない。
実際、街での被害はものすごい事になっているだろう。
遠目で見た限りでも、今の咆哮によって気絶したり耳を押えながら悶えている人がちらほら見当たった。


まだあいつに、街に対する直接的な害意が無いのが救いか………。
あいつは明らかに俺達を狙っている。
と言うか、俺達しか見えていない、と言った感じだ。

奴から感じる気配は妖気とはまた少し違ったものであるが、合成された分、先程の個体よりも強くなっているのは確実。
感覚だが大妖怪に匹敵すると言っても過言では無いだろう。

もちろん、こちら側の面々からすれば負ける要素など万が一にもありはしない。
たとえ大妖怪レベルの敵が来ようと、こちらは大妖怪六人分以上の強さがある。

しかし、不穏な要素があるのもまた事実。
センリ曰く妖呪を掛け合わせる技術なんて聞いた事が無いし、奴が沢山量産できるなら話は変わってくる。
また敵側の目的も分からない。
クニを攻めることが目的?
それとも奴を生み出すことか……………ならば、このクニで実行した理由は?
そもそも単独犯なのか組織的犯行なのかも、今のところは一切不明だ。
ここまで大規模となると、組織的な方が有力ではあるのだが…………。
なんだか嫌な予感がする。



──────そして、その嫌な予感は間髪入れず、正しかったことが証明された。



空中の妖呪へと視線を向ける傍ら。
意識の片隅で、何かがパリンと割れる不吉な音が響いた。


「「っ!?」」


あまりにも軽く儚いその音色を感じ取った瞬間、の間にかつてない程の緊張が走った。
そろって驚愕に目を見張り、額や頬から冷や汗が垂れる。


村を守っていた結界が…………………!?


カディア村を覆うように張った巨大な結界。
外敵やよこしまな感情を抱いた者から村の住人を守るため、村を創設した当時に俺を始めとした複数人によって制作した自信作だ。
その中にはネイも含まれている。

設置型の結界は、もし破壊された場合、その事実が機械的に術者に報告される。
今回なら俺とネイに、『結界が破壊された』と言う情報が淡々と脳に刻み込まれた。
一体、なぜ。
そんな事を考えている暇は一切無い。
俺だけではなくネイや結界術に精通した者も参加した、過重なまでの大結界だ。
それが破壊されたともなれば、相手は知らずとも自然と絞られてくる。

村の皆が…………ノエル達が。
何より、イナリの身が危ない。



──────無言のうちに、俺とネイは片手を繋いだ。
転移魔法を発動させるためだ。
かつて、一度は故郷をスタンピードによって失ったネイ。
彼女にとっても、第二の故郷たるカディア村を失うことは決して許せないのだろう。
阿吽の呼吸での魔法構築。

俺とネイの予想外な行動は、シュカ達の動揺を誘った。
何事かと驚き半分、疑問半分と言った様子だ。
だが、それに応えている時間さえ惜しい。
センリ、シュカ、ヤツヒメに、クラマ。
これだけの戦力が居れば、こちら側は何とかなるだろう。
事情は後で説明する。
だから─────。


転移魔法が発動。
視界が引き伸ばされ─────────ゆっくりと、


「なっ、転移魔法が発動しない………!?」
「うそっ」


思わずギリッと歯を食いしばった。
くそっ、
この前、あいつをぶっ飛ばした時に転移魔法を見せたからか。
まさか一回で対策されるとは…………いや、でもそうだよな。
改良も加えてない普通の魔法なんだ。
俺の見通しが甘かった。
を甘く見ていた俺の失態だ。

何らかの結界術の影響を受けている。
座標が感じ取れないって言うより…………指定した座標が………?
だから転移魔法が失敗したのか。
座標が存在しないのならば、転移など出来るはずがない。
かなり高位な結界だ。
おそらく、解析するまでに十分は要するだろう。




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