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第十四章
大天狗とツンデレエルフ
しおりを挟む妖怪が怨念と化した"妖呪"を一撃で屠り、俺達の居るバルコニーへと降り立った若き少年。
毛先が少しはねたくせっ毛は黒色で、所々に深緑のメッシュが入っており。
鋭いながらどこか優しさも含まれた瞳は黒曜石のような美しい黒だ。
身に付けているのは、よくイラストなんかでも天狗が着ている修験装束を、動きやすいように個人的に改良したもの。
元々、"修験装束"とは修行僧である山伏が、山に籠って修行する際に着ていたとされる法衣である。
まさに武者修行の旅に出ている彼にとって相応しい服装なのだ。
腰から垂れ下がった羽衣のようなものをなびかせ、少年がこちらに歩み寄って来る。
「久しいな、マシロ」
「クラマ!」
そう、俺はこの少年、クラマとは知り合いだった。
初めて会ったのはおよそ五十年ほど前だったろうか。
当時、俺は大陸にある大きなダンジョンを攻略していた。
二週間ほどかけてボス部屋の近くまでたどり着いたのだが、いざボスに挑もうとしたその時、後から追いかけてきたと思われるクラマに呼び止められたのだ。
どうも話を聞いた限り、武者修行の旅の途中にたまたま俺の噂を耳にしたそうで。
俺がこのダンジョンの中に入っていると分かると、わざわざ腕試しをするためだけに深層まで追いかけてきたらしい。
俺が二週間かけて地道にマッピングしてきた階層をあっという間に突破し、およそ半分の六日で俺に追いついたと………。
曰く、風を操る能力故にその微細な変化にも気がつくことができ、通り抜ける風の音や気配を感知しながら進んだ結果、ほとんど迷うことがなかったとの事。
そこでボスは放ったらかしに派手な手合わせを行い、友達に。
そのまま共にボスを攻略した。
あの時はそれっきりだったのだが、実はその後も色々な因果でちょくちょく会っており…………。
一番最近だと、アイリスと一緒に依頼を受けて、とある漁村に立ち寄った時のことだ。
当時、その漁村は近年稀に見る、未曾有の不漁に陥っていた。
原因は突如としてこの辺りの海域に住み始めた超巨大クラーケンが、餌として大量の魚を食べまくったことにある。
そこで俺とアイリスはこの問題を解決するべく、かのクラーケンを倒そうと住処のある海域へと向かったのだが…………。
現場に到着して、最初に見つけたのは近くの孤島に打ち上げられたクラーケンの死体だった。
超巨大と言われるだけあって、島を横断するようにぐったりと横たわったクラーケンの腹には大きな風穴が空いており、触手もほとんどが半ばから切り落とされていた。
アイリスと二人で顔を見合せていると、不意に空いた穴の近くで何かが動いた気がした。
なんとそこから姿を現したのは血まみれのクラマ。
よっこらせ、と穴から抜け出したクラマは、こちらに気がついたようで眩しそうにしながら手を振った。
その小脇には、小さな海獣の子供がしっかりと抱えられていた。
どうも喰われた海獣の子供を助けるべく、腹の穴から体内に入って探索していたらしい。
実はその後、助けられた海獣は"ヤタ"と名ずけられ、クラマが去った後も彼に抱いた憧れを糧に、メキメキと成長。
近海を総べる立派な主へと成り上がるのだが……………それはまた別のお話。
クラマはこの世界でできたかけがえのない友であり、数少ない永遠を生きる者。
親友と言っても過言では無いだろう。
「本当に久しぶりだな。どうしてここに?」
こつんと拳を合わせ、再会の挨拶を済ませてからクラマに問う。
先程も言ったが彼は今、絶賛武者修行の真っ最中である。
まだ見ぬ強者を探し、あちこちを旅している。
て事はジパングに目当ての強敵でも居たのかな?
「半分正解、半分間違い…………と言ったところだ。我は今、ある人物の付き添いで旅をしている。ここに寄ったのは、たまたま近くを通った際に邪悪な気配を感じたからだ」
なるほどね。
さらっと人の心を読んだのは置いておいて。
武者修行の旅の途中に出会ったその"ある人物"が目指す目的地に、クラマも用があったため同行することにしたのだと。
「…………クラマにしては珍しいね。あんまり誰かと旅をするのは得意じゃないって言ってたのに」
「ああ、それは変わらない。だが、彼女からはお前と同じ雰囲気を感じる」
「俺と?」
「そうだ。面倒事に巻き込まれやすい、トラブル体質の雰囲気がな」
不名誉だがなんとも言い訳のしにくい微妙な評価に、思わず口をへの字に曲げて黙り込んでしまう。
悪かったな、しょっちゅう面倒事に巻き込まれるトラブル体質な男で。
「褒めているんだ。お前と共にいる限り、決して退屈などしない」
「「「それはそう」」」
「それ、本当に褒めてる………?」
全員に納得されてしまった。
個人的には、少し退屈に感じるくらいのスローライフを過ごしたいんだけどね。
その退屈な時間で皆とイチャイチャしたい。
…………とまぁ、この話はここら辺で一旦終わりにして。
気を取り直すようにごほんと咳払いを挟み、センリが口を開く。
「して、大天狗よ。あやつらについて何か、分かっていることはあるかの?」
「無いな。生態や能力は共に至って普通。特殊性など欠片もない、ただの妖呪だ。……………だが、どうやってここに出現したのかだけが全く分からない」
妖呪がその姿を得るには、必ず何者かの強い怨念が定着した物体、そしてそれに共鳴する、この世を彷徨う妖怪の魂が必要だ。
そのためよく妖呪が発生するスポットとしては、廃墟や墓地、戦場跡など、主に心霊スポットのような場所が中心である。
しかし、今回これだけ大量の妖呪が発生したのは、何の変哲もない一国のど真ん中。
本来ありえない事なのだ。
仮に妖呪が発生する原因があったとしても、それは何十体も同時に姿を現す理由にはならない。
「気配はいきなり現れた。少なくとも、普通では無い発現のしかたなのだろう」
「ネクロマンサー的な能力者か、それとも召喚………?う~ん………いまいちしっくり来ないなぁ」
シュカが部下の報告も混じえてうんうん唸るが、やはりこれと言った答えにはたどり着けていない。
分かってる事柄が少なすぎるからね………。
そもそもこの犯人は〈千里眼〉に干渉した人物と同じなのかすら判明していない。
全く違う事件が同時に起こっている可能性だってあるのだ。
まったく、実に分かりづらい。
「どちらにしろ、あまり悠長にしている暇は無さそうよ~?」
「「あ」」
そんな事を話していると。
ちょうどタイミング良く、大きい妖呪のうちの一体がのっそりと腕を振り上げた。
まるで待ってましたと言わんばかりの一撃は、明らかにこちらを標的に捉えている。
強い魔力に反応したのか、心做しかその能面でこちらを睨んでいるように見えた。
城を壊されてしまってはたまらない。
焦ったシュカが刀を構えるが。
「"閃光の流星群"!」
おや?
街にある旅館のような高い建物の屋根から光が瞬き、放たれたそれは眩い尾を描きながらいくつにも分裂。
総数はおそらく百を優に上回るだろう。
内十数個が手を振り上げた妖呪に命中し、その胴体を抉り取った。
白煙を立ち上らせながら崩れ落ちる巨体を尻目に、光の矢は次々と他の個体にも殺到し、順調に撃ち抜いていく。
正確無比なこの技…………非常に見覚えがあるじゃあないか。
まとめて消滅させられた妖呪から発生した白煙がもうもうと立ち塞がる中、俺ははてと首を傾げる。
それに答えるかのように、白煙のてっぺんに近い場所がボバッと穴を開け、何者かがそこを通って山なりに落ちてくる。
バサバサと風になびくは美しい金髪。
片手にオーダーメイドの弓を携えたかのエルフは、空中にて華麗な身のこなしを披露し、重量を感じさせない軽々とした音を響かせてバルコニーに着地した。
「ちょっとクラマ、サボってないで──────って、マシロ?」
「あれ、ネイ?」
なんと呆れ気味な表情でこちらを振り返ったのは、我らがツンデレエルフことネイその人であった。
唖然呆然。
相変わらずの腐れ縁を彷彿とさせるまさかの再会に、俺達は二人そろって微妙な表情で見つめ合うことしか出来なかった。
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