最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第十四章

〈千里眼〉②

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センリと合流してから少しの時が経った。
あの後なんとかシュカとヤツヒメも探し出し、やっとこさ落ち着いた状態で話ができるようになった。
捜索の合間に聞いたのだが、皆がバラバラに転送されたのはどうも、"三つの記憶をスキル発動のトリガーとした事"によって生じた齟齬が原因らしい。

見渡しの良い空中で、眼下で巻き起こる戦闘を見つめながらセンリが口を開く。



「ここはまだ聖魔戦争が起こる少し前…………いわゆる戦国時代というやつじゃの」
「この頃は酷くてさ~。あちこちで新しい勢力が生まれては消えての繰り返しだったんだ」
「かれこれ千年以上………。細かい年数は忘れたけれど、とにかくずっと続いていたの。少なくとも、私達が生まれるより昔からね~」


三人の口から紡がれたのは、かの聖魔戦争が起こるさらに前。
神がまだ、地上に存在していた頃の話。



古の時代、世界は争いで満たされていた。
争う理由は様々だ。
種族間のいざこざ、領土の拡大、宗教の違い、破壊衝動、その他諸々。
中には訳も分からず戦いに身を投じていた者も少なくなかっただろう。
何がきっかけで始まったのか、どうしてこんな惨状になっているのか。
時を経る事に曖昧になるそれは人々によって都合よく解釈され、捻じ曲げられてまた争いの火種を産む。


どうしようもない負の循環が千年以上続いた。


転機を迎えたのは、後に"聖魔戦争"と呼ばれる大規模な衝突が起こる数年前だった。

地上に降りていた神々の総大将、創造神がその名において他種族同盟を結成。
庇護下の安全の保証と争いへの不干渉を掲げたのだ。
最大勢力の一角である神々の決断は世界に大きな波紋を呼び、プラスでもマイナスでも多大な影響を与えた。



ここで一度話を切ると、それに合わせて背景の世界にノイズが走り景色が変化した。
先程までは何も無い荒野だったものの、一転してここには草木が溢れ、色とりどりの花々が咲いている。
どこかの崖の一角だろうか。
少なくともここは争いとは程遠い…………そう思わせる、素朴ながら癒される風景である。

しかしやはり、遠い地平にはある一定の距離を境に生気のない荒野のみがあり、未だに争いが終わっていないことを実感させるには十分だった。



「ここは………」
「神族とその庇護下の種族が定住していた場所じゃ。ワシも一度訪れたことがあってな………。ほれ、あそこによく知った顔がおるじゃろう」



センリが指さした先は崖の出っ張った部分であり、そこには背丈の違う二人の女性の姿が見えた。
一方は地べたに寝っ転がってそよそよと吹く風に身を委ね。
もう一方はその傍らで、腰に片手を当て遠くを眺める。


「疲れたのだ。もう神気がすっからかんなのだ~…………」
「あはは、お疲れ様。これだけの強度があれば、そうそう攻め入られることは無いだろうね」


輝く銀髪に透き通った水色を垂らしたかのような不思議な髪色の少女が、四肢を投げ出して間の抜けた声を響かせる。
この口調、雰囲気。
間違えるはずがない。


俺がこよなく愛する人物……………そう、ノエルだ。


初めて出会った時と同じ、古代ローマ風の衣装に身を包んだノエルが草原に寝転んで欠伸をしている。

昔からこんな感じだったんだなぁ………。
なんか新鮮な気分だ。
神様達から思い出話は聞かされてたけど、こうしてノエルの過去を知ることになるとは。
過去の嫁を実際に見れるなんて相当レアな体験だろう。

少しの間、本来の目的を忘れて見入ってしまった。
帰ったらからかってやろう。



「こやつ嫁に見惚れとるぞ」
「まぁ、マシロは元からこんな感じだからねぇ」
「ふぅん………。マシロ君はああいう体型の女の子が好みなのねぇ~」



……………おっと失礼、話を戻そう。
放置してしまっていた皆に謝ってから視線を戻す。

続いてノエルの隣。
ボーイッシュな銀髪ショートの女性なのだが、この人にも見覚えがある。
と言うのもなんとこの女性、俺の師匠たる剣神ことジンさんだったのだ。

ノエルもだが今と全く変わらない凛々しい容姿に、腰には俺にくれたものと酷似した黒剣を携えている。
あの人一体何歳なん((((((((((殴



「…………ノエル、この世界から争いが無くなると思うかい?」



意地悪そうな笑顔で問うジンさんに、ノエルはやれやれと呆れた様子を見せる。



「そんなの分からないのだ。だが、ワタシを含め"原初"が団結すれば不可能ではないだろうな」



"原初が団結すれば争いが無くなる"。
少なくともノエルはそう考えていたのか………。
他種族同盟を作ったのも、この考えが元なのかも。

もしノエルの考え通り"一致団結!"となったらどれだけ良かっただろう。
だがそれが実現することは無く、原初同士の対立という最悪のパターンを辿ったのが現実という訳だ。
一体何がどうして───────。



「あ、来たみたいだね」



ジンさんが遠くを見つめたままニコッと微笑む。
イケメンだ。
今にも女の子のキャーキャーした黄色い悲鳴が聞こえてきそうだ。
しかし俺にとっては全くの逆効果で。

うっ、あの笑顔を見ると修行時代を思い出して胃が………。



「どうしたお主。トイレか?」
「いやちが………大丈夫。ちょっと昔を思い出して胃が悲鳴を」
「それは大丈夫なの………?」



胃のキリキリは腹痛とかじゃないからたぶん大丈夫。
記憶の景色をこじ開けてトイレに繋げようとするセンリをなんとかなだめる。



「みんな、何か来たよ~?」
「え?」



シュカに呼ばれて戻ると、確かに向こうから何かが飛んで来ている。
その距離はぐんぐんと縮まり、やがて人のようなシルエットがはっきりと見えてきた。



「あれは……………"原初の人間"じゃ」




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