最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第十四章

〈千里眼〉

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視界を染め上げる眩い閃光に思わず目を瞑る。
少しでもタイミングが遅れていたら、あまりの眩しさにバ○スを喰らった某大佐のようにそこら辺を転げ回っていただろう。
予め注意の一つくらいして欲しいものである。

部屋の外から見たら、たぶん凄いことになってるんだろうなぁ………と、ボーッと考えながら待っていると、不意に光が弱くなるのを感じた。
少しずつ主張が弱まり、やがて完全に収まったのを確認してから、俺はゆっくりと目を開く。



────────そこは、既に先程まで居た八畳間の和室ではなくなっていた。




荒野だ。
どこまでも際限無く広がる荒れ果てた大地。
植物などは見る影もなく、ヒビ割れ場所によってはクレーターさえも残す地面は生気を欠片も感じさせない。
また空はどんよりとした雲に覆われており、太陽なんてものはまるで存在しないかのようだ。
風は乾いているし空気も重い。
まさに世紀末って感じだ。


「静かだな………」


それも不気味なくらいに。
周囲を見渡すが、人影はおろか動物や虫すら見当たらない。
まさかいきなりこんな場所にほっぽり出されるとは………。
ここからどうしたら良いのだろう。

そう言えば具体的にどうするとか聞いてなかったな、と軽く後悔。
事前の説明では、「自分達も同行出来る」とセンリが話していた。
そのため案内してもらう気満々だった。
しかし、まさか記憶の中に入った途端、バラバラの場所に送られるとは………。

まずは皆と合流しなければ。
そうしないと何も始まらない。
と言うか、俺だけでは何も始められない。
現在地すら分からないしね。

せっかくスキルまで使って手伝ってもらったのに、このままでは荒野をうろうろして、結果的に"何の成果も得られませんでしたぁ!"となってしまう。
さてさて、どうしたものか…………。


「…………ん?あれは………」


ふと、近くの抉れた地面の端に何かが埋まっているのを見つけた。
ここに来て初めての手がかりだ。


「げっ、地面かたっ!?コンクリートかな?」


普通に地面を掘る要領で指を突き立てたら、返ってきたあまりに硬すぎる感触に驚かされた。
どうなってんだ…………ってか、こんな地面にクレーター作るってどんな威力してんだよ………。
現代兵器も真っ青だろう。


「あ、そう言えばそもそもこれ記憶だから、こっち側から干渉は出来ないって言ってたな。魔力も…………発動しないと」


同様にスキルも無効らしい。
俺が居るのは、三人から抽出した聖魔戦争時代の記憶の中。
そこに、〈千里眼〉のスキルによって入り込んでいる。
しかしそれは言わば疑似体験のようなもので、実際にその場に存在する訳では決してない。
そのため記憶内の物体や事象に干渉することは不可能で、また不確定要素たる魔力やスキル等も強制的に使用不可。
つまりここでは俺も普通の人間と大差ない、という事だ。
実に困った困った。

と言うのも向こう…………記憶側からも干渉されないが故に怪我をする心配は皆無なのだが、何せ現在位置が不明な上に謎の荒野ときた。
しかも今のところ端が見えない。
ここから脱出するのに、人並みの力ではどれほどかかるか検討も付かない。


─────────カタッ。



「どうしよう………。とりあえず方向を決めて歩いてみるか?いやでもそっちに何も無かったら詰むし………」



────────カタカタッ。



「…………よし、いつまでも悩んでても仕方ない。とりあえず、靴を真上に投げて転がった方向に─────」



───────ガタガタガタッ!!



「何だ?地震………?」


ついに移動しようと決心し、靴を脱ごうと手を伸ばした時。
足元に転がっていた石が微かに震えていることに気がついた。
次第に震えは大きくなる。
たまらず石は転がり、ついにはパカッと割れてしまった。


「っ、まさか!」


慌てて顔を上げると、なんという事だろう。
先程まで人っ子一人いやしなかったはずの地平線は、あまたの黒いつぶつぶで埋め尽くされていた。

あれは………リザードマンか?
いや、にしてはちょっと特徴が違う。
普通リザードマンと言ったら、二足歩行のトカゲのような見た目の種族だが、あの大群にはそれより人に竜のしっぽと角が生えたような形態が多い。
リザードマンとはまた別の種なのだろうか。


「反対側は………吸血鬼ドラキュラだ」


こっちはそのまんまだな。
黒いコウモリのような羽に血の鎌や剣。
うちには吸血鬼のハーフであるリーンが居るため、日常的に目にするお馴染みの存在だ。
違いとしては、昔の様式なのか大半が礼服のようなピシッとした服装をしている。
しかしそれも血や土埃で汚れ、すでにボロボロであるが。


「…………って、呑気に観察してる場合じゃないか」


ついに両者が戦闘態勢に入ったようで。
いきなり左右から攻撃魔法が嵐のように飛び交う。
ど真ん中にいる俺の事なんぞは知った事では無い、とでも言うかのごとく当たり前のように戦闘が始まった。
地鳴りと怒号と共に、先程とは比べ物にならない速度で両者が迫り各地で衝突。
戦場に金属音が響き渡る。


「うおおおおおおお!!」
「うわっ!?」


戦場に安全な場所など存在しない。
両者のあまりの気迫にすっかり気圧されてしまい棒立ちの俺の頭上に、リザードマンが振り下ろした薙刀が迫る。
いくらこちらに影響がないと分かっていても、戦場のリアルな空気感がそれを忘れさせる。
逃げることは叶わず、俺は反射的に目を伏せた。


ブォンッ!


生々しい空気を切り裂く音。
普通なら脳天をかち割られて盛大にその中身をぶちまけるという、モザイク待ったなしの惨状になっていただろう。

当たる──────その瞬間。
不意に襲いかかる浮遊感。
一瞬にして殺伐とした声が遠ざかったように感じた。


「やれやれ。いきなりこんな場所に放り出されるとは、お主も運がないのぅ」


代わりに傍から聞こえてきた馴染みの声に、たまらず安堵のため息を漏らす。


「助かったよ、センリ」






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