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第十四章
知る方法
しおりを挟むセンリとヤツヒメのじゃれ合いを何とか仲裁。
二人が暴れる間も爆睡をかましていたシュカも起こし、皆で部屋を移動した。
シュカの部屋の横に位置する、小さな和室だ。
およそ八畳程のこの部屋には中央にこたつが設置されており、布団やお菓子、お茶まで完備と完全に人を堕落させることに特化。
また部屋の奥側には四枚の障子があり、それを開けると眼下には綺麗な街並みが広がっている。
早朝なためかまだ人は点々としか見えない。
「で、九尾の狐についてじゃったな」
おせんべいを口にくわえたセンリが、てしてしと戯れる猫のように俺の太ももを叩く。
こら、人の贅肉で遊ばないの。
「九尾の狐………マシロ君、あんな奴について知りたいの~?変わり者ねぇ」
「あんな奴て………。まぁ単に九尾の狐だけってより、九尾の狐が関わった聖魔戦争全体について………って感じかな」
「なるほどのぅ……。確かにワシ等なら当事者じゃし、なんなら九尾の狐を封印した張本人じゃしの」
「話を聞くにはもってこいだよねぇ~」
そう、ここにいる面々。
酒呑童子・猫又・土蜘蛛の三妖怪はなんと、かの九尾の狐を封印したとされる八妖怪のうちの三人なのである。
実は凄い人達だったのだ。
普段の言動を見ていると到底そうは考えられないが。
当時の話を聞くのに、これ以上適した人材は居まい。
…………………しかしだ。
これから俺がわざわざ掘り起こすのは、過去にあった実際の戦争の話。
楽しい思い出話のように気楽に聞いて良い内容ではなく、彼女達には色々と思う所がある場面も出てくるだろう。
非常にデリケートな話題だ。
それなのに俺達のために協力し話してくれるのだから、感謝を忘れてはならない。
「真面目じゃのぅ」
「ははっ、よく言われるよ」
ポンッと猫の姿に化けたセンリがこたつの上に移動し、丸まってど真ん中を陣取った。
まさに"猫はこたつで丸くなる"。
冬じゃないのにみかんが食べたくなってきた。
こたつと言えばみかんと猫だよね。
センリは大きな欠伸を一つすると、爪を立てて何やらこたつに描き始めた。
よく見ると爪の先っぽに魔力が込められており、それで何やら陣を描いているらしい。
「今から発動するのは、〈千里眼〉と呼ばれる妖怪特有のユニークスキルじゃ。本来は未来視のスキルなんじゃが、極めることで対象の過去さえも見通すことが出来るようになる。お主には今から、この〈千里眼〉によってワシ等の過去を覗いてもらう」
「実際に目にした方が分かりやすいからの」、と付け足してから、陣を描き終えたセンリはそれの真ん中にどんと腰を下ろす。
「さあ、皆ワシの体に手を置くのじゃ」
「ふぁ~い (は~い)」
「これで良いかしら?」
もふもふした黒い毛で覆われた体に、シュカとヤツヒメがそっと手を添えた。
あとは俺が手を置けばスキルが発動するのだろう。
猫姿のセンリが、くりっとした丸い目でじっと俺を見つめる。
確認するが、俺の目的は主に二つ。
・今後起こるであろう原初との衝突に備えて、あいつらの能力や癖を把握すること。
・イナリにシンパシーを感じざるを得ない"九尾の狐"について知ること。
前者は言うまでもないし、後者に関しても少しでもイナリの助けになる気配があるなら調べる価値はある。
と言うか"九尾の狐"に"九尾変化"って、確実に何か繋がりがあると思うんだよなぁ………。
イナリが実は九尾の狐でした、ってことはないだろうけど。
だってちょっとおバカだけどあんなに良い子なんだよ?
そんなイナリがねぇ。
今、色々と考えを巡らせても分からないものは分からない。
全ては過去を覗いてからだ。
……………よし、行こう。
最後に俺も手を乗せたことを確認し、センリがみゃお~ん!と一鳴き。
すると。
「うっ!?」
「あら?」
「うにゅ!?」
陣に眩い光が巡る。
渦巻き、溢れ出したその奔流は幾重もの閃光となって、あっという間に部屋全体を包み込んだ。
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