最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第13章

一件落着………?

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「………私には、やっぱり難しいわ」



土蜘蛛はそう言い残し、どこかへと姿を消してしまった。
たぶん今の住処に戻ったのだろう。
去り際に、彼女はなぜかしっかり男達を解放することを約束してくれた。
現在彼女の住処に捕えられている、合計十数人の男の解放。
また今後一切、誘拐事件を起こさないこと。

それらを固く約束し、最後にどこかスッキリしたような横顔で彼女は"ありがとう"と言った。

一体どんな風の吹き回しなのだろうか。
そんな大層なことをやった覚えはないんだけどな………。
俺がやった事と言えば、愛について謎の自論を繰り広げるという、ある種の羞恥プレイに過ぎない。
思い返すだけでも恥ずかしい。

まぁともかく、これで事件は解決。
やっとこさ本来の目的に移れるという訳だ。

…………………今回の主題はあくまでも今からだからね?
若干自分でも忘れ気味感が否めないが、そもそもなぜ今回、土蜘蛛の件に首を突っ込んだかと言えば、シュカから"九尾の狐"についての情報を聞き出すためだ。

かつての書物を読み漁っても記述が少なかった、原初の大妖魔こと九尾の狐。
どこかイナリにシンパシーを感じる彼女について調べることで、今イナリが陥っている状況を知ることができるのではないか。
また、当時の話を聞くことで、今後起こるであろう原初との衝突に際して有意義な情報を得られるのではないか。

繰り返しで申し訳ないが、これが今回の目的である。
まだその情報を聞き出すための交換条件を満たしたに過ぎない。

さて、ここからが重要……………………なのだが。
とは言っても外を見て欲しい。
もう真っ暗だ。
降り注ぐのは太陽ではなく月の柔らかい光で、照らされた城下町には人々が行き交う姿が映る。
きっと彼らにとってはなんともない日常の光景なのだろうが、俺からすれば幻想的な美しい風景に見える。

俺達が城に帰ってきた頃には、もう既に辺りは暗くなりかけていた。
土蜘蛛を説得するのに思いのほか時間がかかっていたらしい。
さすがにこの時間帯になるとゆっくり話しても居られないので、今日のところはしっかり休んでまた明日話を聞くことになった。

個人的にも話が長くなる可能性があるので、その方がありがたい。
何より今日は疲れた。
…………いや、今日と言うより最近と言うべきか………。

イナリの熱が下がったら、今度また皆でジパングに旅行に来て露天風呂に入りたいなぁ~………。
ゆっくりのんびり、三泊か四泊くらいひたすらに旅行を楽しみたい。

そんな事を考えながらパタンと障子を閉め、続いて手前の襖を開いて中から浴衣を取り出す。


「さて、今日はさっさとお風呂入って寝るか」


あんまお腹は減ってない…………と言うか普通に眠いので、夜ご飯は抜きにしようと思う。
パパッと部屋のお風呂で軽く済ませて今すぐバタンキューしたい気分だ。

………………よく考えたら、接客用の部屋なのにお風呂ついてるってやばいよね。
一体何を想定した部屋なのだろうか。


「あら、露天風呂へは行かないの?」
「うんまぁ………さすがに今日は─────────ってちょっと待った」


え、なんか今するはずのない声がしなかった?
驚きのあまり触れていた風呂場の桶を落としそうになってしまう。
慌ててそれをキャッチしてから振り返ると、そこには案の定"彼女"の姿が。


「なぜここに居る…………」
「うふふ。良いじゃない、あなたと居たい気分なの」


口元に手を当てて上品に微笑むのは、なんと住処に戻ったはずの土蜘蛛だった。
どこから侵入したのだろう。
全く気が付かなかった。

…………あ、窓空いてる。
あそこからだな。
ちゃっかり浴衣も持ってるし………。
城の露天風呂入る気満々じゃん。


「安心して。ちゃんと男達は村に返したわ~」
「え。あ、そう………」
「?」
「いや、ごめん。あまりにもあっさりしてるからさ」


あれだけ若い男に執着してたから、返す時も多少なりともごねたり時間がかかったすると思ったんだけど、全然そんなこと無かったことに驚いたのだ。
俺の思い過ごしだったのか………。
てっきり未練有りまくりなんだと。


「無い…………と言えば嘘になるわ。でも─────」
「でも?」
「──────今はそんな事より、あなたに興味があるの」
「……………………は?」
「あなたは愛を知っているでしょう?あなたなら、私にそれを教えてくれる。そう感じたわ」


買い被りが過ぎる。
まさかそんな風になるとは…………まぁ、標的が若い男に向かなくなったのは喜ぶべきなのか?
大勢を狙われるより、俺個人に付きまとう方が被害が少ないのは確かだ。
俺が嫌かどうかは置いておくとして。


「それにあなた、私のことをなんとも思っていないでしょう?」
「いやまぁ………美人だなぁ、としか」
「あら嬉しい。………でも、そうじゃないの。恋愛的な意味で、ね」
「当たり前だろ、こちとら結婚してんだぞ。しかも六人と」


それでさらに浮気しようとしたらそれはもはや猛者だ。


「でも、私が誘えば喜んでついてきたわ。たとえ結婚していたとしてもね~」
「何してんだ………」


マジか………。
それは単純にその男が浮気性なダメ男なだけでは………?
まぁ正直、こんな美人に誘われてなびきそうになる心は分からんでもないけどさ。
そこはこう、鋼の精神で何とかしようよ、うん。


「ここまで手応えがなかったのはあなたが初めて。だから、どうしても振り向かせたくなったの~」
「へぇ~………」


割とどうでも良さげな返事をした理由は言うまでもない。
絶対、面倒臭いことになる。
そんな確信があったからだ。


「まぁ、無理だと思うけど頑張ってね。じゃあ俺はお風呂入るんで失礼して………」
「あら、早速一緒にお風呂だなんて………大胆ねぇ♡」
「一人に決まってるでしょ………!」


何さりげなく一緒に入ろうとしてるんですかね!?
あ、こら、着物を脱ごうとしないで!

連続ツッコミを繰り出すと、着物に手をかけ乱れさせた土蜘蛛が、艶めかしい姿のまま不満げに頬を膨らませる。
可愛らしいがそうじゃない。


「お願いだから一人で入らせて?」
「残念。私達は運命の赤い糸で繋がれているから、それは無理よ~」
「物理的だ!?」


運命の赤い糸。
普通はその名の通り運命で繋がれた心の糸的なやつだと思うのだが、土蜘蛛のそれは違った。

なんといつの間にやら紡がれた紅の糸が、俺の小指にグルグル巻きついて土蜘蛛との間に繋がっていた。
誰が作ったかは言うまでもない。
運命なんてのは知らんと一蹴。
自力で赤い糸を結びつけるという強行だ。

しかもちゃんと土蜘蛛製の糸だから無駄に耐久力があると来た。
こんな物理に極振りした運命の赤い糸なんて聞いたことがない。


「うふふ~。私から逃げられるとは思わない事ね~」
「なんてこったい…………」


事件を解決したと思ったら、より深刻(個人的には)な問題が目の前に立ち塞がった。
土蜘蛛の妖艶さを含んだ瞳が俺を捉えて離さない。

果たして俺は無事に明日を迎えることができるのだろうか………。



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