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第13章
惨状
しおりを挟む仕方が無いので、酔った二人を布団に移動させてからまた後日来ることにした。
あのままではべろんべろんに酔った二人に何をされるか分かったもんじゃない。
ついでにちゃんと部屋の片付けもして、分別したゴミを端っこに詰め込んでから一旦帰った。
そして翌日の朝。
俺は再びシュカの自室を訪れた………………のだが。
「うぅ………頭が痛いよぉ~……」
「奇遇よの………ワシもじゃ………」
二人が死んだように床に転がっていた。
寝相が悪かったのか、起きてそのままぶっ倒れたのか、布団の周辺でうつ伏せに寝っ転がったシュカとセンリが呻き声を上げる。
ちらっと覗く顔はこれでもかと青ざめており、顰められた眉が頭痛の酷さを如実に表す。
どうやら動くのすら辛い様子だ。
せめてそのはだけた衣服を直してくれ………。
パンツ見えてんぞ。
体の火照りもあり、きっと夜中に蒸し暑く感じたのだろう。
衣服がはだけて存分にシミ一つない肌を露出し、普通見えちゃいけない部分まで丸見えだ。
眼福ですありがとうございます。
絵面的にかなり不味いであろう光景。
しかし完全に二日酔いに陥った二人には、それを直す余力すら残されていないらしい。
「まったく、何やってんのさ………」
「おぉ、マシロ…………昨日はすまんかったの………」
比較的、まだ症状が軽めだったセンリがのっそり体を起こして申し訳なさそうな表情をする。
「良いって良いって、気にすんな。それより今日はゆっくりしな。あんまり二日酔いで動きすぎると、ろくな事にならないからね」
経験則だから説得力は抜群ぞ?
ある時、何かのお祝いでサークルの先輩と飲みに行ったのだが、そりゃあもう酷い目にあった。
具体的な発言は避けるが、進められるままお酒を飲みまくったらダメだという教訓を得た。
もう二度とあの先輩とは飲みに行かないと決めた瞬間である。
大学入りたてとか、特に新卒社会人は気を付けた方が良いぞ。
こういう先輩や上司はどこにでも居るからな…………たぶん。
「ふっ、安心するのじゃマシロ……。二日連続でお主に無駄足はさせんよ」
へろへろな声でそう言うが否や、センリからポンッと白い煙が巻き上がった。
おっと、これは見たことあるぞ。
すると予想通り、煙の中から尾が二叉に別れた一匹の黒猫がてしてし歩いてきた。
センリが人型から猫に化けた姿である。
黒猫は毛繕いのためか何度か自身の体を舐めてから、ひょいっと身軽に俺の肩に飛び乗った。
「ふぅ。これで何とかいつも通り動けるのじゃ」
「え、なに、その姿になると痛覚無効とかされんの?」
「そんな訳無かろう。ちょいと解毒の妖術を使ってな。徐々にアルコールは抜けるんじゃが、使用中はこの姿にならんと燃費が悪いんじゃよ」
曰く、体内に含まれたアルコールの割合は、人型の状態でも猫になっても同じらしい。
つまり同じ割合でも、体が小さい猫の方が結果的に含まれるアルコールの総量は少なくなる。
故にこの方が早く解毒が終わるんだと。
解毒の妖術も中々に疲れるらしいし、そりゃ使う時間が少ない方が楽だわな………。
肩でくつろぐセンリの頭を撫でる。
「あっ、センリだけずるいよ~………うぷ」
「シュカは大人しく寝てた方が良いぞ、これは」
「いやだ!センリ、ボクにも"変化"かけて~………」
「まったく………今回だけじゃぞ」
「やったー……!」
やれやれと器用に肩をすくめたセンリ。
青い顔を突っ伏したまま、シュカが弱々しく握りこぶしを掲げる。
死にかけじゃねぇか。
個人的には、二人とも無理しないで休んでて欲しいんだけどなぁ………。
「よっ」
「ふぎゅっ………」
「容赦ないな」
肩から飛び降りたセンリが、何の容赦もなくシュカの後頭部に着地した。
おかげでシュカから潰れた悲鳴が漏れ、うつ伏せのまま猫に潰されるというなんともシュールな絵面が出来上がった。
一応病人(?)だということを忘れてはないだろうか。
微妙な気持ちでそれを眺めていると、再びポンッと白い煙が上がった。
「……………や~、こんなに引きずったのは久しぶりだよ~……」
「昨日は妙に酒が進んだからのぅ」
「ねぇ~」
「呑気か。二人とも、次は気をつけなよ?」
「はぁ~い」
「うむ」
返事だけは元気良いな。
黒猫と、二頭身と化した実に可愛らしいシュカが手を挙げて元気良く返事をする。
マスコットみたいだ。
鬼人のクニのご当地キャラかな?
非常に微笑ましい。
「じゃあ二人とも大丈夫ってことで良いのね?」
「うむ。それで、"原初の大妖魔"…………九尾の狐についてじゃったな」
「そうそう。二人は何か知ってる?」
座って、肩や頭の上でゴロゴロする二人に問いかける。
すると。
「う~ん、話すのは全然構わないんだけど………その前に、ちょっと手伝って欲しい事があるだ~」
「おう。ギブアンドテイクだよな?」
「あはは、そう言うこと~」
「お主もちゃっかりしとるな………」
シュカはにかっと元気に笑った。
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