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第13章
聖魔戦争と七柱の王
しおりを挟む石碑に記された場所を探して、"繫縛の間"を彷徨うこと二十分。
やっとの思いで目的の本を見つけた。
本棚に挟まれた通路から見上げると、ちょうど真ん中ら辺の段の左側にそれはあった。
己の存在を示すようにうっすら発光する書物の背表紙には、"聖魔戦争と七柱の王"の文字。
さすがにこのままでは届かないので、でかい脚立を使ってそれを手に取り、試しにパラパラ開いてみる。
どうやら目次によると計三つの章に分かれているらしい。
一章が"原初"について。
二章が"聖魔戦争"について。
三章が……………あれ、ここだけ空白だな。
ページをめくる内に首を傾げる。
なんでここだけ………?
該当ページなどは書いてあるし、ちゃんと章としても区切られているのだが、タイトルだけがすっぽり抜け落ちていた。
書かれていたページも開いてみたが、同じようにタイトルだけが空白になっている。
意図的に消したのか?
文章はちゃんと書いてあるのに…………不思議なものだ。
とりあえず、今は気にせず読むことにした。
目次からさらに一ページめくると、一面にデカデカと"原初"と書かれた第一章が始まった。
以下、書物から抜粋した内容である。
"原初"とは、かつて世界創世期に君臨した世界を統べる七人の王のことだ。
原初の神、原初の魔王、原初の人類、原初の教祖、原初の悪魔、原初の───、そして最後に原初の大妖魔。
この七柱が、世界を分断してそれぞれの勢力下に収めていたのが約数千年前の話である。
当時は日々争いが絶えなかったものの、膠着状態が続いていたと思われる。
勢力分布だけで言えば圧倒的に"原初の魔王"が広く、この時代に一番暴れていた存在なのだろう。
よく"原初の人類"と衝突していたとの記述がある。
また、原初の神と教祖、悪魔は独自のテリトリーや国などを作り、不可侵を暗黙の了解として傍観の立場に位置。
"原初の────"も積極的に介入することは少なく、基本的に傍観のスタンス。
しかし唯一、"原初の大妖魔"だけは扱いが異なったそうだ。
"原初の大妖魔"は特定のテリトリーは持たず、自由気ままに動き回るタイプだったらしく、世界中にその痕跡が残っている。
悪意の塊であり、人種関係なく大量の者を殺したことによって他の原初からは敵対視されており、孤立していた。
有名なもので言うと、"───国消失事件"や"夜空に舞う万の人魂事件"など。
数え切れない命を奪った歴史的殺人鬼としても知られる。
・第二章"聖魔戦争"
"聖魔戦争"とは、紀元前に起こった史上最大級の戦争を指す。
この戦争が始まったきっかけは"原初の悪魔"による突然の侵攻によって、崩れ落ちた均衡を戻そうとしたことが大元だ。
主に人族や亜人族などが結託した聖軍を支持したのが、原初の神と原初の魔王。
対して魔族や魔王を始めとした魔軍を味方したのが、原初の人類や原初の教祖である。
"原初の───"は相変わらず中立の立場を貫き、"原初の大妖魔"は構わず暴れ回っていたのだとか。
対立した勢力は若干、聖軍が有利ではあったものの、戦争はやはり長引いたという。
何百何千年にも渡る長い戦争は、しかし"原初の大妖魔"が覚醒したことによって急激な展開を見せた。
かの者が覚醒したのは聖魔戦争が集結する九日前。
何者かによる介入によって急激な成長を遂げた"原初の大妖魔"は、運悪く近くに滞在していた聖軍の一部隊を一夜で壊滅させた。
当時はたった一軍であれど、現代とは比べ物にならない強者揃い。
それが一夜にして壊滅とは信じられない所業である。
このことから、介入者は魔軍側であり、"原初の大妖魔"はあちら側に着いたのではないか。
そんな噂が聖軍内で流れたが、それはすぐに本人によって強く否定された。
翌日。
偵察に出ていた部隊が、魔軍の主力部隊が壊滅したと連絡を入れたのだ。
もちろん犯人は"原初の大妖魔"。
これを機と見た聖軍は、すぐさま作戦を決行。
入念に組まれた戦術とイレギュラーな"原初の大妖魔"が上手い具合に噛み合い、四日間の長い戦闘を乗り越え、聖軍が勝利を収めた。
魔軍を率いていた"原初の悪魔"は封印され、原初の人類と教祖は消息不明。
頭を失った軍が崩壊するのは時間の問題だったそうだ。
これにて無事に聖魔戦争終結───────とは行かなかった。
"原初の大妖魔"が、今度は聖軍の前に立ち塞がった。
すでに衰弱気味だった聖軍は、仲介者の手助けもあり解体されたはずの元魔軍と手を組んだ。
甚大な被害を出しつつも九人の大妖怪によって"原初の大妖魔"は封印され、やっと聖魔戦争は本当の意味で終結。
後にこの年を零世紀とし、現在まで続く"聖暦"が始まった……………という訳らしい。
・第三章【 】
ここにはおそらく、筆者が独自に調べたと思われる"原初の大妖魔"について書かれていた。
一通り読んだが、タイトルが何故空白なのかは謎のままだ。
"原初の大妖魔"。
彼女は美しい九本の尾を持つキツネの獣人で、当時の人々は恐れを込めて"九尾の狐"と呼んでいたとの記述がある。
容姿は若い女性で、着物を好んで着ていたという。
好物は人や亜人、魔族から奪った魂魄。
元々固定されたテリトリーを持つことなく、世界中を動き回っていたと考えられている。
能力的には"原初の神"に引けを取らないと言われており、当時は相当な脅威の対象であったと見なされる。
聖魔戦争のさなか彼女は覚醒した。
被害状況から、とある一国の住民が丸々犠牲になったと思われる。
恐怖の象徴として君臨した"原初の大妖魔"は、最終的に七人の大妖怪と"とある一族"の手によって固く封印された。
「九尾か………」
九尾と聞いて、どうしても思い返されることがある。
イナリの持ち技である"九尾変化"、そしてこの前見たイナリの覚醒時(?)の姿だ。
あの時、イナリの腰からは九本の美しい尻尾が生えていたのをよく覚えている。
何か関係があるのだろうか。
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