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第12章
次から次へと……
しおりを挟む「ちょ、本当に逃げちゃいましたよあの人!」
「あはは………。面倒事はとことん人に押し付けるタイプだからね~。ある意味、昔通りと言うか………」
一応、土蜘蛛のおかげでかなり数を減らしたスケルトン達をぶっ飛ばしながら、彼女が逃げた方向に向かってイナリはうがーっ!と怒りを露わにする。
まさか残りを全て押し付けられてしまうとは………。
自分の住処なのだからもう少し頑張って守ろうとしないのだろうか。
と言うか逃げ道があるなら先に行って欲しかった。
もし逃げるとしてもイナリやシュカなら何ら問題なかったが、どう考えても男達は無事では済まない。
だからわざわざ逃げないで戦っていたのに………。
あまりにもあっさりと逃げてしまった。
なんだか裏切られた感が半端ないイナリ。
納得できずに何度も地団駄を踏む。
しかしそんな怒りも既にこの場に居ない土蜘蛛に届くはずもなく、やり場のないイライラの矛先は必然的にスケルトンに向いた。
「うーーーあーーー!!次会ったら絶対に一発殴ってやりますぅ!!」
理不尽なまでの蹂躙劇。
さすがのシュカも苦笑いである。
残念ながら数ある住処の一つにすぎないため、土蜘蛛にとってここを守るメリットはあまり無かった。
元々、シュカを始めとする面倒な輩に見つかった場合は即行逃げようと決めていたため、そもそも痛手ですらない。
逃げる理由が少し特殊だっただけで。
今まで頑張っていた自分達は一体何だったのか。
…………まぁ、それならそれで良い。
別に彼女が抜けたところで負ける訳ではないし、なんなら周囲に気にせずスケルトンを殲滅できるのだ。
怒りのはけ口にはちょうど良いだろう。
スケルトン達には申し訳ないが、サンドバッグになってもらおう。
───────だが、二人して密かにそう心に決めた矢先に。
ゴ……ゴゴ、ゴゴゴゴゴッ………!!
突然、大地が振動を始めた。
とんでもない揺れだ。
立っていることすらままならず、スケルトン達はバランスを崩して衝突し、勝手にバラバラになったり壁に打ち付けられて破損したり。
倒す手間は省けたが、正直こっちもかなりのピンチである。
イナリも思わず地面に片手と脚を付けて必死に耐える。
気を抜けばすぐに倒れてしまいそうだ。
ビキビキッ、ピシッ……!
まずい。
振動の力に耐えきれず、洞窟が崩壊し始めた。
「い、いつまで揺れるんですか………!?」
「次から次へと………今日は厄日かも~」
まさにシュカの言う通り。
今日は完全に厄日だ。
「…………あ、やっと落ち着い───────!?」
やっとこさ揺れが落ち着いたかと思った次の瞬間。
東の方向から、何か覆い被さるような圧倒的な気配を感じた。
出かかった言葉が奥へと引っ込み、イナリは思わず息を飲む。
ぬめっとして気持ち悪い…………この背筋がゾワゾワするような嫌な気配。
気味の悪い気配と圧倒的な妖力に、イナリ自慢の耳としっぽの毛が一本残らず逆立った。
「……………何ですか、これ………。なんか、すごく嫌な感じですぅ………」
揺れが収まったは良いが、あまりにも気味の悪い感覚にまだイナリは立てず仕舞いだ。
それもそのはず。
人間で言えば、黒板を指で引っ掻いている音を永遠と聞かされる不快感と似たようなもの。
感覚の鋭い獣人ならば尚更だろう。
「……………イナリちゃん」
「はい、どうしました………?」
「一旦外に出ようか。ちょっと、まずいことになったみたい」
「っ、了解ですぅ!」
いつにもなく真剣な表情のシュカに、イナリもビシッと敬礼で応える。
大妖怪たる彼女がここまで切迫するとは…………一体この気配の正体は………。
未だに何一つ疑問が解消されていないが、とりあえずシュカについて来た道を戻ることにした。
もちろん当然のごとく道中はスケルトンで埋め尽くされていたが、先を行くシュカが全て燃やし尽くした。
ここではイナリの出番無し。
恐ろしい………もしかして、先程もやろうと思えば、スケルトンを一気に殲滅させられていたのでは?
ふとそんな疑問がイナリの頭に浮かんだものの、すぐに首を左右に振って思考をかき消す。
今はそんな事を気にしている場合ではない。
やっと入口から差す陽の光が見えてきた。
そこを駆け抜け、急いで見渡しの良い洞窟の上に登り、気配のした東側に視線を向ける。
何か………何かおかしな部分はないか。
なんでも良い。
事態を把握出来る何かしらが────────。
「…………………イナリちゃん」
「…………………はい」
「今の、気のせいかな………」
「あ、あはは………たぶん気のせい……だと………」
次第にイナリの言葉は消えて行ってしまった。
反対に口はあんぐりと開き、彼女の驚愕を容易に表す。
二人はそろって自分の目を疑った。
二人が視線を向ける東側。
その方角で一番目立つのは"富士の山"だ。
ジパングの観光名所としても知られる、この国随一の山にして象徴的な場所だ。
それが、動いた。
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