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第12章
洞窟の中で
しおりを挟む被害があった村からおよそ数キロメートルほど離れた洞窟の入口。
縦に並んだイナリとシュカはひょっこり顔だけ覗かせ、中の様子を伺う。
「う~ん、ここからじゃ暗くてよく見えないね~」
「とりあえず入ってみましょうか………」
探知した限りではこの中に土蜘蛛は居ると思われる…………のだが。
如何せん視界が悪すぎて今のところでは判断できかねない。
入口付近に松明でも置いてあれば分かりやすいものを…………と思わんでもないが、さすがにそんな分かりやすいマネはしないだろう。
これは直に確かめるしかない。
「よっと。妖力で目を強化したから、これで暗闇でも問題なく見えるはずだよ~」
「わっ、ありがとうございます………!」
魔眼のように、妖力で目を保護&強化。
真っ暗だった視界が、多少暗く感じる程度まで軽減された。
二人は頷き合い、足音を殺して洞窟の中に踏み込んだ。
一切灯りがないため、入口が遠ざかるに連れて周囲は完全に闇に包まれてしまった。
暗視スコープのような視界の中、二人が見たのは至って普通の洞窟、と言った感じだった。
岩肌は整備されておらずボコボコで、地面にも時折、岩石が落っこちていたり凸凹の隆起があったり。
あれは入道石だろうか。
時折水が滴るツララのような石もある。
何の変哲もないただの洞窟だ。
あまりにも普通すぎて、本当にここが土蜘蛛の住処なのか怪しく思ってしまう。
───────しかし、ある一定の所をすぎてから少しずつ変化が現れた。
体感温度が上がったのだ。
最初は外に比べ少しひんやりしていたのだが、徐々に温かくなって行き、今では過ごしやすい適温くらいで落ち着いた。
また、他にはこんなものも。
「これは………剣の破片ですぅ」
「こっちのは壊れた盾だ~」
一本道の道端に、粉々に砕けた金属と剣の柄と思われるものが落ちていた。
シュカの方では粉砕されボロボロになった盾の欠片もあった。
装備品の残骸はそれだけでない。
奥へ進めば進むほど大量に転がっている。
異様な光景だ。
コツンッ。
不意にイナリのつま先に何かが当たった。
「………?何か足に───────ひっ!?」
首を傾げながら見下ろすとそこには。
「しゅ、シュカさんっ!骸骨ですぅ………!」
そう、ころんと転がったのはなんと人の頭蓋骨だったのだ。
申し訳ないが、暗闇も相まってものすごく怖い。
今にもカタカタ動き出しそうである。
シュビッ!と今日一俊敏な動きで何事かと疑問符を浮かべるシュカの背後に避難。
震える声で足元の亡骸を指さす。
「ああ、なんだ骸骨か~」
「な、なんでそんなに冷静なんですか………?」
「長生きしてるからね~。こう言うのには慣れっこなんだ、ボク」
怯えるイナリを置いて骸骨の近くでしゃがみ、まじまじとそれを見つめる。
一方怖がりのイナリは完全にすくんでしまい、尻尾と耳はへにょんと垂れ下がっている。
若干涙目だ。
正直に言うと、前に相手したドラゴンゾンビや黒竜の方が断然怖いと思うのだが……………本人曰く、どうもそういう事ではないらしい。
「………さすがイナリちゃん。やっぱりここがあいつの住処で間違いないよ」
「ふぇ?な、なんでですか?」
「ほら、これ」
シュカが指さす頭蓋骨を恐る恐る見ると、側頭部が何かに砕かれたように亀裂が入り貫通していた。
おそらくかなり鋭いものだ。
槍や弓ではなく、先の尖った筒状の………。
「もしかして………」
「さっきイナリちゃんも出してたから分かるよね。あいつの足だよ」
確かにこの傷跡の大きさも、鋭い足に貫かれたと言われれば納得出来る。
だがしかし、土蜘蛛にはある癖があるとついさっき村に居た時に聞いたはずだ。
「あれ、でも土蜘蛛は"骨を集めて玉座の一部にする"って………」
「うん。だから本来こんな場所に骨が転がってるだなんてありえないんだけど………」
コトッと頭蓋骨を道の端っこに寄せ、シュカは立ち上がると。
「ついに見境が無くなったのかな?………だとすると、ボク少し怒っちゃうな~」
決して今までの誘拐までは許容範囲と言うつもりは全くない。
だがかつての感覚で、「またやってる~………」と思っていたのも事実だ。
それは彼女が必要以上に危害を加えなかったからだ。
彼女の狙いはあくまでも若い男。
それも凄く気に入った男がいない限り、基本的に自分から寄ってくる馬鹿な男がターゲットだった。
別に魅了の魔法をかけられて無理矢理という訳でもなく、自分の意思でついて行ったのだから、それで被害にあっても自己責任。
なんで助けてくれないんだと言われても逆に困る。
まぁ不運にも、あの美貌と言う名の凶器を突きつけられてしまったのには同情するが。
もちろん彼女だって攻撃されたら反撃はする。
けれど、自分から喧嘩を売って一方的に殺すなんてことはしなかった。
だからこそシュカ含め、例の件に関わった皆も土蜘蛛を引き入れた。
「…………イナリちゃん、進もっか」
「………はいっ!」
静かながらビシッと手を挙げて元気な反応を示すイナリに、シュカは微笑みながら先導する。
しかしどうだろう。
骨を見る限り、この頭蓋骨の持ち主は十代後半の女性。
近くに散らばっていた骨格から推測するに戦闘なんてまともに出来ない、それこそそこら辺の村娘と言った感じだ。
迷い込んだのか攫われた男性を助けようとしたのか。
対して土蜘蛛は事故なのか故意なのか、はたまた殺意を持ってなのか。
いずれにせよ、本人に聞かなければいけないことが増えた。
……………ただ、気になる点もいくつかある。
「この残穢………いやな予感がするなぁ~」
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