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第11章
ご褒美
しおりを挟むビーチバレーの勝負を終え、ルイスとエイナは海の方へと向かって行った。
さてさて、俺は休憩しながらのんびりバーベキューの準備でもしようかな~、っと………。
「待ってください」
破裂したボールの残骸を片手にテントに戻ろうとしていると、不意にガシッと後ろから肩を掴まれた。
ビクともしない。
試しに一歩踏み出そうとするが、ギリギリと押さえつけられてその場から動くことは叶わなかった。
どうやらイナリからは逃げられないらしい。
振り返ると、実に可愛らしい満面の笑顔。
ただし「行かせませんよ……!」と言いたそうな無言の圧が怖い。
「な、なんでしょう………」
「ご褒美と罰ゲーム………忘れてますよ?」
「ですよね~…………」
ちっ、このままさりげなく戻ればバレないと思ったのに。
ちゃんと覚えていたか………。
さらっと逃げる作戦失敗。
まぁ負けたからね、どんな罰ゲームでもかかってこい!
「ではまずご褒美から…………ご主人様、どうぞ!」
「えっと………?」
肩から手が離れたかと思ったら、突然よっこいせと座り込んで自身の太ももをパンパン叩くイナリ。
困惑気味に首を傾げたものの、すぐに何が言いたいのか分かった。
「え、膝枕?」
「はい!どうぞ!」
勝者イナリが望むご褒美。
それは"俺を膝枕すること"だった。
される側ではなく、する側。
瞳を輝かせるイナリに促され、おもむろにそのムチッとした太ももに後頭部を任せる。
…………うむ、これはいかんぞこれは………!
この柔らかさと言い魔性の太ももだ。
だが本当にこんなので良いのだろうか…………むしろ俺にとってもご褒美なんですが。
て言うか胸で顔が見えねぇ………。
「膝枕で良かったの?」
「もちろんです!ご主人様を独り占めできますからね~♪」
ご機嫌な様子で仰向けになった俺の髪を撫でる。
可愛いか!
可愛すぎるだろううちのイナリは!
そんな事言われたらキュンとしちゃうじゃん………。
俺を尊死&キュン死させる気か?
最初は何をやらされるかと戦々恐々みたいな感じだったけど、むしろ負けて良かったかもしれない。
………いや、断言しよう。
負けてよかった!
膝枕バンザイ!下乳バンザイ!!
後頭部から伝わる贅沢な感触を穏やかに噛み締めながら、内心では狂喜乱舞で叫び散らす。
たぶんこれ知られたら普通にドン引きされると思う。
当たり前だけど。
それで二度と膝枕してもらえないとかなったらガチで泣くので、絶対に口にはできない。
「………そう言えばご主人様。ご主人様が少し前に助けた焔狐のホムラさん、覚えてます?」
「ああ、うん。イナリと出会った時のね」
ほんの数ヶ月前の出来事と言うのが信じられないが、俺が初めてイナリと出会った時のことだ。
村の青年と共に畑を荒らすキツネを捕まえるために罠を仕掛けていたのだが、あの時は体力が底を尽き小狐の姿だったイナリが間違ってその罠にかかってしまった。
慌てて小狐を助け、傷を治していると俺が設置した罠にも何かがかかった。
そいつこそ畑を荒らしていた真犯人であり、後に俺がホムラと名付けた焔狐だったのだ。
村の畑を守る代わりに餌を分けると言う契約の元、今では村の近くにある森林で子供と共に仲良く暮らしていたはずだけど…………それがどうかしたの?
「いえ、その………この前買い物に行った時に会ったんですけど、新しいお子さんが生まれたそうで………」
「へぇ、おめでたじゃん。知らなかったなぁ」
最近何気に忙しくて、会ってなかったからね。
村に戻っても割とすぐにここに来たし。
いつの間に出産したんだろう。
三人目の子供ともなるともう大家族だ。
今度何か体力のつく食材か料理でも差し入れに行こうかな…………。
「………………あれ、でも待って。ホムラって夫、居たっけ?」
「いえ、聞いた話によると、カディア村に来る前に亡くなったそうです………」
「………………」
え、もしかしてこれってホラー的な話だった?
本人曰く旦那が亡くなったのは結構前だそうなので、遅れての妊娠&出産もありえない。
その上、彼女から新しいオスの焔狐の匂いはしなかったらしい。
単為生殖だっけ。
番じゃなくても子供ができる種族もあるらしいけど、狐は違うからな………。
「それと、ホムラさんの種族が"焔狐"から"妖狐・焔"に変わっていまして」
「本当になんでだ………」
種族まで変わってたのか?
ううむ、こっちに関しては心当たりが全くないとも言いきれない………。
思い当たる節がある。
と言うのも、彼女にホムラという名前を付けた時。
何故か突然ホムラが光を発し、それはすぐに納まったものの一体なんだったのか未だに不明だ。
ホムラ自身も目をぱちくりさせてたし。
あれ、たぶん俺のスキルである〈眷属化〉が関係しているのではないだろうか。
効果に"対象の魂を昇華させる"ってのがあったし、無関係では無いと思う。
まぁ〈眷属化〉が名付けでも発動するかどうかは定かじゃないが。
それに子供に関しては一切説明がつかないしね。
どう考えてもおかしい。
そりゃイナリが不思議がるはずだわ………。
今度本人に聞いてみようかな。
「子供…………いつか私も、ご主人様の子供を授かれるでしょうか………」
おっと特大の爆弾発言。
どうやら思わず出てしまった不測の発言だったらしく、露骨に狼狽える気配が伝わってきた。
「「………………」」
俺とイナリの間にものすごく気まずい沈黙が流れる。
幸いにも胸でお互いの顔は見えないが、体が相当火照っていることから耳まで真っ赤なのが容易に想像出来る。
もちろんそれは俺も同じだ。
それから数十分の間、お互い顔を合わせられない気まずい時間が続いた。
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