最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

文字の大きさ
上 下
213 / 290
第11章

ご褒美

しおりを挟む




ビーチバレーの勝負を終え、ルイスとエイナは海の方へと向かって行った。
さてさて、俺は休憩しながらのんびりバーベキューの準備でもしようかな~、っと………。


「待ってください」


破裂したボールの残骸を片手にテントに戻ろうとしていると、不意にガシッと後ろから肩を掴まれた。
ビクともしない。
試しに一歩踏み出そうとするが、ギリギリと押さえつけられてその場から動くことは叶わなかった。
どうやらイナリからは逃げられないらしい。

振り返ると、実に可愛らしい満面の笑顔。
ただし「行かせませんよ……!」と言いたそうな無言の圧が怖い。


「な、なんでしょう………」
「ご褒美と罰ゲーム………忘れてますよ?」
「ですよね~…………」


ちっ、このままさりげなく戻ればバレないと思ったのに。
ちゃんと覚えていたか………。
さらっと逃げる作戦失敗。
まぁ負けたからね、どんな罰ゲームでもかかってこい!


「ではまずご褒美から…………ご主人様、どうぞ!」
「えっと………?」


肩から手が離れたかと思ったら、突然よっこいせと座り込んで自身の太ももをパンパン叩くイナリ。
困惑気味に首を傾げたものの、すぐに何が言いたいのか分かった。


「え、膝枕?」
「はい!どうぞ!」


勝者イナリが望むご褒美。
それは"俺を膝枕すること"だった。
される側ではなく、する側。

瞳を輝かせるイナリにうながされ、おもむろにそのムチッとした太ももに後頭部を任せる。
…………うむ、これはいかんぞこれは………!
この柔らかさと言い魔性の太ももだ。

だが本当にこんなので良いのだろうか…………むしろ俺にとってもご褒美なんですが。
て言うか胸で顔が見えねぇ………。


「膝枕で良かったの?」
「もちろんです!ご主人様を独り占めできますからね~♪」


ご機嫌な様子で仰向けになった俺の髪を撫でる。
可愛いか!
可愛すぎるだろううちのイナリは!

そんな事言われたらキュンとしちゃうじゃん………。
俺を尊死&キュン死させる気か?

最初は何をやらされるかと戦々恐々みたいな感じだったけど、むしろ負けて良かったかもしれない。
………いや、断言しよう。
負けてよかった!
膝枕バンザイ!下乳バンザイ!!

後頭部から伝わる贅沢な感触を穏やかに噛み締めながら、内心では狂喜乱舞で叫び散らす。
たぶんこれ知られたら普通にドン引きされると思う。
当たり前だけど。
それで二度と膝枕してもらえないとかなったらガチで泣くので、絶対に口にはできない。


「………そう言えばご主人様。ご主人様が少し前に助けた焔狐ほむらきつねのホムラさん、覚えてます?」
「ああ、うん。イナリと出会った時のね」


ほんの数ヶ月前の出来事と言うのが信じられないが、俺が初めてイナリと出会った時のことだ。
村の青年と共に畑を荒らすキツネを捕まえるために罠を仕掛けていたのだが、あの時は体力が底を尽き小狐の姿だったイナリが間違ってその罠にかかってしまった。
慌てて小狐を助け、傷を治していると俺が設置した罠にも何かがかかった。
そいつこそ畑を荒らしていた真犯人であり、後に俺がホムラと名付けた焔狐だったのだ。


村の畑を守る代わりに餌を分けると言う契約の元、今では村の近くにある森林で子供と共に仲良く暮らしていたはずだけど…………それがどうかしたの?


「いえ、その………この前買い物に行った時に会ったんですけど、新しいお子さんが生まれたそうで………」
「へぇ、おめでたじゃん。知らなかったなぁ」


最近何気に忙しくて、会ってなかったからね。
村に戻っても割とすぐにここに来たし。
いつの間に出産したんだろう。
三人目の子供ともなるともう大家族だ。
今度何か体力のつく食材か料理でも差し入れに行こうかな…………。


「………………あれ、でも待って。ホムラって夫、?」
「いえ、聞いた話によると、カディア村に来る前に亡くなったそうです………」
「………………」


え、もしかしてこれってホラー的な話だった?
本人いわく旦那が亡くなったのは結構前だそうなので、遅れての妊娠&出産もありえない。
その上、彼女から新しいオスの焔狐の匂いはしなかったらしい。

単為生殖だっけ。
つがいじゃなくても子供ができる種族もあるらしいけど、狐は違うからな………。


「それと、ホムラさんの種族が"焔狐"から"妖狐ようこほむら"に変わっていまして」
「本当になんでだ………」


種族まで変わってたのか?
ううむ、こっちに関しては心当たりが全くないとも言いきれない………。
思い当たる節がある。

と言うのも、彼女にホムラという名前を付けた時。
何故か突然ホムラが光を発し、それはすぐに納まったものの一体なんだったのか未だに不明だ。
ホムラ自身も目をぱちくりさせてたし。

あれ、たぶん俺のスキルである〈眷属化〉が関係しているのではないだろうか。
効果に"対象の魂を昇華させる"ってのがあったし、無関係では無いと思う。
まぁ〈眷属化〉が名付けでも発動するかどうかは定かじゃないが。

それに子供に関しては一切説明がつかないしね。
どう考えてもおかしい。
そりゃイナリが不思議がるはずだわ………。
今度本人に聞いてみようかな。


「子供…………いつか私も、ご主人様の子供を授かれるでしょうか………」


おっと特大の爆弾発言。
どうやら思わず出てしまった不測の発言だったらしく、露骨に狼狽うろたえる気配が伝わってきた。


「「………………」」


俺とイナリの間にものすごく気まずい沈黙が流れる。
幸いにも胸でお互いの顔は見えないが、体が相当火照っていることから耳まで真っ赤なのが容易に想像出来る。
もちろんそれは俺も同じだ。

それから数十分の間、お互い顔を合わせられない気まずい時間が続いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...