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第11章
ビーチバレー②
しおりを挟む「おーいマシロ殿、ワシらも混ぜてくれ!」
顔面にクリーンヒットして試合終了という不名誉な敗北を味わっていると、ようやく準備が終わったらしいルイスがエイナを連れて戻ってきた。
もちろんここは彼の所有地なのだから、居ても何ら不思議では無いのだが…………仕事はどうした仕事は。
今………いや、もしかしたらもう終わっているのかもしれないけど、復興の真っ最中じゃないのか?
あんな戦争の後だから国民も不安だろうし、政治的にも頑張り時だと思う。
たぶん。
「まあまあ、ワシだって遊びたいのだよ。ほれ、早速始めよう!」
「お父様、はしゃぎすぎです………」
「娘に呆れられてるぞ」
子供より子供してるじゃんか。
一応本人曰く復興はほとんど終わり、新しい信用たる人物が財務大臣に着いたことで基盤も安定した。
まだ完璧に日常に戻ることは中々難しいものの、それでも元の暮らしを徐々に取り戻しつつあると言う。
まぁ、さすがにそうだよね……。
復興もままならない状況なのに王様だけ遊んでたらやばいし。
普通にそんな王権は辞めて欲しい。
実はルイスはここ数日働き詰めで、それはさすがに少しは休んで欲しいと言われるほど。
ブラック企業さながらの労働時間だそう。
そのため、息抜きがてら俺達と共に遊びに来たという訳らしい。
エイナはルイスのお目付け役と言うかはっちゃけ過ぎないための見張りというか………。
普通逆じゃないだろうか。
ちなみにはしゃいでいる所悪いが、メイド長であるレミアさんに午後には帰すよう予め言われているので、お昼前にルイスだけ強制送還の予定だ。
「聞いてないんだが?」
「内緒って言われてたからね」
初めて知った驚愕の事実に唖然として声が出ないらしい。
また働かされると知った時の絶望の表情よ。
「ならば一層早く遊ばねば………!マシロ殿!」
「はいはい。久しぶりに師匠がボコってやるよ」
その切り替えの速さだけは見習いたい。
さっさと気分を切り替え、むしろ午前中だけは全力で遊ぶと意気込むルイス。
ポジティブシンキングって大事だと思うよ、うん。
子供のようにはしゃぐ親に頭痛を堪えるように額を押えたエイナも混ぜて、もう一度ビーチバレーをすることにした。
今回は二対二のダブルス十点マッチ。
もちろんチーム分けは"俺とイナリVSエイナとルイス"だ。
ルール説明やら打ち方やらは事前に教えているのでここでは割愛。
「では………私から行きますね!」
白い清楚な水着姿のエイナがふわりとボールを上げ、サーブを打ってスタート。
山なりにコートに落ちるボールをレシーブし、イナリが軽いスマッシュを叩き込む。
今度はルイスが受け、また打って。
こんなのが交互に何回か続く。
まだあまり慣れていないのか、相手の二人はまだまだぎこちない動きが多い。
まぁ最初の試合だしね、のんびり和やかに行こうじゃないの。
「お、少し分かってきたぞ」
「あ、私もです」
そう思ったのもつかの間。
………二人とも目がガチすぎない?
なんでこの人達はだんだん打つ速度を速くしているのだろうか。
順応が早すぎる。
もっと緩く行こうよ緩く………。
しかし、二人だけでなく感化されたイナリも加えて、三人は止まることなくボールの行き来が一層速くなるばかりである。
皆打つ力強いって………まさか弾け飛んだりしないよね?
自作のボールなため、耐久面が若干心配になってきた。
いやだって、こんな風になると思ってなかったから耐久力なんて気にしてなかったし………。
普通の用途で破裂するなんてことは滅多にない。
だが目の前のこの光景を見る限り、いつか爆散しそうで非常に怖い。
「はっ!」
「いったぁ!?」
こ、この野郎………。
ルイスの容赦ないスマッシュが俺の腕を直撃し、特有のヒリヒリした痛みがジーンッと広がる。
このままだと腕が持ってかれるぞ、物理的に。
危うく取り損なうところだった。
「全然緩める気がないね………」
「そりゃそうだろう、勝負だからな!」
「あぶっ!?………ったく、しょうがないな」
皆やる気満々だし、俺も付き合ってやるか。
「しょうがない、俺も本気でやったらァーー!!」
マシロ渾身の叫び声は、浅瀬で波と戯れる彼の花嫁達にも聞こえていた。
はしゃぐマシロとイナリが繰り広げる光景に 、詳しいルールは分からずとも彼女達の間には微笑ましそうな笑みが浮かぶ。
「主様、しっかり楽しんでいますね」
「子供っぽい」
「あら、そこが良いんじゃない」
ミリアの自信満々な言葉に、確かに、と二人も頷く。
子供っぽい。
そこもまた彼の魅力の一つである。
「ん」
「きゃっ!?」
唐突に降り注いだ冷たい海水にミリアが悲鳴を上げる。
マシロの活躍を目で追うさなかに起きたまさかの悲劇。
もはや言うまでもなく、犯人のクロは満足げな表情でふんすと鼻息を漏らした。
「く、クロ~……?なんでいきなり海水をかけたのか教えてくれる?」
「勝負の途中。油断した方が悪い」
そう、ミリアとクロとリーン。
三人は三人で絶賛勝負の真っ最中だったのである。
まぁ勝負と言っても水をかけ合う遊びみたいな感じなのだが…………。
美少女達が楽しそうにパシャパシャ水をかけ合う。
まさにマシロも大喜び、非常に眼福な光景になるかと思いきや。
「やってくれたわねクロ!」
「ん、当たらない」
「ふ、二人とも~、落ち着いてくださ~い………」
この後、激しい水のかけ合いになったのは言うまでもない。
ちにみに仲裁に入ったリーンが、ひたすらにびしょ濡れになるという二次被害が発生した。
◇◆◇◆◇◆
一方、日差しの照る砂浜でも。
「あー、涼しいのだ~………」
「気持ちいいー……」
「ふふっ、それは良かったです」
テントの近くにパラソルのような日除けを出し、シートを敷いた避暑地にて。
女の子座りしたアイリスの太ももに、仲良く膝枕される幼女が約二名。
ノエルとエルム。
マシロが羨ましがりそうな光景である。
…………それにしても、先程まで泳ぎまくっていたはずなのに、二人とも息切れの気配が全くない。
ここでも相変わらずの化け物じみた体力が垣間見える。
「わはは!あんなにはしゃぐとは、真白も子供っぽいのだ」
「ねー。お兄ちゃんってば可愛いっ!」
この時、膝枕中のアイリスは「お二人とも人の事は言えませんよ……」と思ったものの、あえて口にはしなかった。
その代わりに、微笑ましげに二人の髪を撫でる。
◇◆◇◆◇◆
「ほっ!」
「なんの!」
「どっぜーい!ですぅ!」
「やあっ!」
掛け声に合わせて、ボールが物凄い速度で左右に行き来する。
あまりにも強く打つものだから、時々本来しないような飛び方をしたりしなかったり。
荒ぶりまくってる。
とりあえず傍から見れば、こんなのビーチバレーじゃないと総ツッコミを食らうであろう暴れっぷりだ。
「少しへばってきたんじゃないか、マシロ殿!」
「ふっ、少しどころかもう体力の限界だ!」
忘れちゃいけない。
俺はついさっきまで死を覚悟するレベルの鬼ごっこをした後、休む暇もなくイナリとバレーをしてた。
そこまでは別にいい。
だけど今はボールが返ってくるのが異常に速い上に、砂に足を取られて思うように動けず余計に体力が奪われる。
イナリとやってる時も思ったけど、平地と砂浜でここまでやりにくさが変わるとは………。
「てか……、いつになったら点取れるんだよ……!」
おまけに両チームとも無駄に粘り強いせいで、さっきからちっとも点が入りやしない。
最初エイナがサーブしたボールも長いこと続いたし、これも数十分以上ずっと続いているのだ。
そのため休憩する暇もなく、しかもここまで頑張って点を取れないのは嫌なのでわざと負ける訳にも行かないと来た。
地獄かな?
「おらぁ!」
「あぶねっ!?」
フェイント気味に手前に軽く落とされたボールをスライディングで何とか受けるが、弾き損ねて変な方向へ飛んでしまった。
縞模様のボールは弧を描いて大きく遠くへ。
ちょうど真上に上がった太陽に被る。
「イナリ!」
「がってんですぅ!」
むしろ俺が声をかけるより前に動き出していた。
こちらに向かった駆けるイナリ。
中腰で合わせた手のひらの上に着地したのを確認し、お空向けて思いっきり放り上げる。
落下するボールの位置とドンピシャだ。
まるで某超人サッカーの如く、人間では実現出来ないような異次元のシュートが炸裂。
変形したボールが相手側のコートの端に決まり、それと同時に弾け飛んだ。
ちょうど十対八で俺達の勝ち。
破裂音が勝利のファンファーレのように辺りに響き渡る。
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