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第10章
VS原初③
しおりを挟む『フルルル………ジュガアアアッ!!』
亀型の魔物の尖った甲羅がバチバチとスパークして、次の瞬間、青色の雷が迸る。
上下左右ジグザグに飛んでそれを避けながら接近。
とても分厚い甲羅を横に一刀両断し、隣のもう一体も続けて斬る。
「よっ!」
さらに、背後から気配を殺して接近していた大蛇の攻撃を躱して再び首を斬り落とした。
お次はヤギの化け物だ。
筋骨隆々の見た目通り、圧倒的な腕力で振るわれた大剣を受け流し弾き返して、仰け反った隙にそのぶっとい右腕を切断。
すぐさま懐に潜り込み逆袈裟斬りを喰らわせ、ヤギの化け物は地に伏せた。
腕を振り上げた状態の俺に、自ら紅の炎を纏い特攻を仕掛けてきたのはデカいダンゴムシのような魔物だ。
オオグソクムシの方が見た目的には近いかもしれない。
どちらにしろ裏側は見たくないことこの上ない。
幸いにも(?)丸まってのタックルだったため、グロテスクな面を見ることなく普通に痛い攻撃だった。
こいつの殻の硬さは尋常ではなく、魔物の中ではエルダードラゴンの鱗に次ぐ強度を誇るそうだ。
ちなみにエルダードラゴンの皮膚や鱗はダイヤモンド並かそれ以上に硬い。
つまり殴ったりでもしようものなら、普通は拳の方が砕けてしまう。
だがそれはあくまでも"普通なら"の話だ。
「せい………やあっ!」
力いっぱい握り締めた拳が、丸まったダンゴムシの殻をビキビキ割って殴り飛ばした。
ふと俺に覆い被さるように巨大な影が差す。
同時に振り下ろされたのはゴーレムの重々しい拳だった。
横に躱してそのまま腕を駆け上がり、ゴーレムの顔面を回し蹴りで粉砕。
胴体も縦に一閃し爆散させる。
次から次へと迫り来る魔物達は息をつく暇も与えてくれない。
原初の少女によって召喚された彼らは、己の能力を存分に使い、本来するはずのない連携も織り交ぜて攻めてくる。
ただでさえ一体でも強力なのに、そいつらが手を組んだとなると格段に厄介さが跳ね上がる。
おまけに数も結構多いと来た。
王城の方のカルマは大丈夫だろうか。
何体か降りて行ってしまったが、あの程度なら討伐できると信じている。
そんな思考の傍らでも火属性の魔法を放ち、中くらいのサイズの虫の群れを駆逐。
左右から挟み撃ちを企てた白銀の体毛のオオカミと黒い体毛のオオカミを斬り、二足歩行のトカゲの額にかかと落としをお見舞する。
「だいぶ減ってきたな」
「このっ、調子に乗るんじゃないわよ!」
「おっと」
怒りを顕にした少女の斬撃をボバリングで回避した後、横に回転しながら手刀の延長上に纏っていた魔力の刃を剣で粉砕。
驚愕の表情を浮かべる彼女の胸に突きを喰らわせる。
ガギィン!!
と、まるで金属がぶつかり合うような衝撃音が響いた。
ダメだ、ダメージは無かったようだ。
どうやら直前で魔力を纏って防いだらしく、服の胸元に小さな穴が空いただけで肉体には傷一つついていなかった。
しかし突きの勢いで弾き飛ばされる。
何とか片翼を羽ばたかせて城壁との衝突を回避したようで、再び舞い戻った少女は顔を顰めて俺を睨む。
「あんた、よくもやってくれたわね!」
バシュッ!と何かが蒸発するような音と共に顕現した紫色の剣を握り、一瞬で俺の目の前まで接近。
バックステップで逃げる俺を追って少女は斬撃を繰り出す。
残像すら残しそうな速さで夜空を不規則に駆け回る。
俺と少女の剣が同時に赤と水色の輝きを帯びた。
剣技スキルのぶつかり合いだ。
空中という場所故に踏ん張りが効かないものの、とてつもない威力の剣技の衝突は辺りに幾度となく衝撃波を撒き散らす。
ギャリギャリと鍔迫り合いの中で俺と少女の視線が絡み合う。
彼女がそれに気を取られている隙に、剣をくいっと引いて重心を崩し、がら空きの胴体に蹴りをぶち込む。
もちろん当たる前に魔法障壁と左腕によって防がれた。
大したダメージはないだろう。
強制的に距離を取らされた少女はギリッ、と歯を食いしばる。
………………うーむ、なんだろうこの感じ。
ここまで少女と戦っていたが、どうも違和感を感じる。
と言うのも、そもそも俺がこの状態で善戦しているというのがまずおかしいのだ。
エルムとの戦いを思い出して欲しい。
少々比べる対象としては間違っている気もするが、彼女との戦いの時、俺は未熟とは言え神の力たる神気を使わなければついて行けなかった。
と言うか手加減されていたようなので、"ついて行けていた"と言う表現すら正しいのか分からない。
始まりの王達、原初とはそういう存在だ。
けれど目の前の少女はどうだろう。
決して容易ではないが、何とか人間のままでも対抗できている。
その時点でまずおかしい。
つまり、何が言いたいかと言うと────────。
「…………お前、原初にしては弱すぎないか?」
「─────────は?」
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