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第7章
ネイ
しおりを挟む場所は冒険者ギルドから移動してとある露店のベンチ。
ネイに連れられて共にここに来たミリアは、日々の溜まった愚痴をこれでもかと吐き出していた。
「────────へぇ、それでマシロに拾われたんだ。あいつのお節介も相変わらずねー」
果実ジュースに口をつけてコクコクと喉を鳴らし、ネイは昔を懐かしむように微笑む。
冒険者ランクSSにして"疾風"の二つ名を持つ彼女は、前線で活躍する超一流の冒険者である。
昔はよくマシロと共に冒険していたらしいが、今はソロで各地に赴き、気ままな旅をしているそうだ。
そのため、故郷であるこの村に帰って来れるのは二、三週間に一度程度。
時には一ヶ月以上帰ってこないこともあるそうだ。
しかし、帰って来たら必ず、昔馴染みのメンバーと食事をしたり軽い運動をしたり、未だその絆の深さは健在だ。
ちなみにマシロとは元パーティメンバーと言うよりも、どちらかと言うと腐れ縁の幼馴染という間柄なのだが、本人は真っ向から否定する。
理由を聞くと若干顔を赤くしてそっぽを向いてしまうので、周りからは生暖かい目で見られることもしばしば…………。
そんな彼女だが、実は出会ったばかりの頃、マシロに対する当たりの強さはミリアに引けを取らないレベルだった。
一応次第に軟化して行って、まぁ最終的には全く別のベクトルに変わった。
だからミリアの気持ちにすごく共感できる訳で。
「お小遣いだったり…………なんであいつはそこまでするのかしら」
悪態をつくように、ミリアが少し俯き気味にそう吐き捨てる。
分からない。
あそこまで執拗に世話を焼くメリットがあいつにあるように感じられないのだ。
一体どういう魂胆なのか…………。
「ふーん…………」
どこか不思議がるような表情でもう一度クイッとコップを傾けてから。
「ミリアは、マシロのこと嫌いなの?」
「ええ。それだけは断言出来るわ」
微塵も考える暇も無く、まるで反射的に言ったと思えるくらいすぐさま、それにキッパリと言い切ったミリア。
トゲの含まれた声色と言い顰められた顔と言い、全てにおいてある意味百点満点だ。
全身から"あの男嫌いオーラ"が滲み出ている。
(マシロがこの場に居たら、さすがに泣くだろうなぁ……………)
もはやネイも苦笑い。
どうやら予想以上の嫌われ方だったらしい。
むしろ逆に、どうしたらここまで嫌われるのだろうか。
甚だ疑問である。
※何もしてません
こほんと咳払いを挟んで気を取り直し。
「……………まぁ、あいつがムカつくのは分かるわ」
「ですよね!」
"!?"
頭の隅で驚愕するマシロの顔が思い浮かんだ気がするが、そんなのは適当に追い払って愚痴を続ける。
「昔一緒に旅をしてた時なんか、あいつ普通にデリカシーの無い発言して一回マジでぶん殴ったこともあったわね…………。"なんで殴られたか分かんない"って顔もムカついたし」
「あ、それはムカつきます!私もこの前───────」
まさかの愚痴大会。
本人が居ないのを良いことに……………いやまぁ本人が居ても言いそうではあるが、随分と言いたい放題だ。
しかし、ネイのことに関しては今思い返すとマジで最低な発言だったので、それを引き合いに出されるとマシロはただただ土下座しか出来ない。
例え足で踏まれようが何されようが文句は言えない程。
おかげでその後、多少は気を使うようになったらしいが…………………………まだまだだったようだ。
二人は気が合ったのか、そのままずっとマシロに対する愚痴や文句で盛り上がり続けた。
もうボッコボコのフルボッコ。
一通り笑い終え、目尻の涙を拭ったネイがぽつりと一言。
「あはは……………やっぱり、ミリアは私に似てるね」
シゼルが言っていた意味がやっと分かった。
最初は性格面での話かと思っていた。
でも、決してそれは口調や考えが同じという意味だけではなく……………。
それも含め、意地悪だなぁと呟く。
わざわざ黙って二人で送り出したのもこういう事だったのか。
この感じ的に、たぶんアイリスとミリアを今日、冒険者ギルドに来るように仕向けたのもシゼルだろう。
どうやら後日じっくり話を聞く必要がありそうだ。
色々と感じるものがあったらしく、含みのある微笑で頷いたネイの瞳はいつもとは違う色で揺れていた。
羨望に後悔。
複雑な気持ちと感慨深さが入り交じったため息を吐き出すと。
「うん、似てる。その素直じゃない所も含めてね」
「っ!」
ミリアはドキッと心臓が跳ね上がるのを感じた。
咄嗟に否定しようにも言葉は出ず、空気を求める魚のように口をパクパクすることしか出来なかった。
「あいつはミリアのことが心配なんだと思うよ」
「あいつが、心配…………?」
なんでとは言えなかった。
心当たりがあるから。
でも納得できるかは別の話だ。
"利用出来るものは徹底的に利用する"。
たしかに一理ある。
しかし、それは利用する側だからこそであって、利用される側であるマシロからすれば迷惑なことこの上ないはず。
その上、心配…………?
お人好しにも程があるだろう。
ネイは呆然とするミリアを前に立ち上がってお代を置くと、去り際にまた一言。
「……………あいつは鈍感でヘタレだからさ。もう少し、素直になっても良いんじゃない?」
素直に…………。
離れていくネイの背中を見つめながら心の中で反芻し、尚、何も分からないまま呆然と視線を伏せてしまった。
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