130 / 290
第6章
契約書
しおりを挟む「ただいま戻りました」
「あ、おかえり。ありがとうね」
「いえいえ。そちらのお話は終わりましたか?」
「おう。おかげさまでバッチリよ」
とある書類と睨めっこしていた俺は、割と早く帰って来たリーンに顔を上げて手を振る。
隣には手を繋ぎ、どこか居心地悪そうに視線を逸らした少女の姿が。
どうやら無事に捕まえられたようだ。
うむ、やっぱりちゃんと戻って来てくれたね。
「マシロさん、それは?」
「ん?ああ、ちょっとね」
片手に持ったままの数枚の書類。
行く前には持っていなかったはずのそれにリーンが目ざとく食いつく。
しかし、俺は適当に誤魔化しながら書類を横の封筒にしまい、そのまま【ストレージ】の中に放り込んだ。
これはまた後でだ。
たしかにこの書類は少女が見るべきもので、加えてリーンも一緒に過ごす上で知っておいた方が良い事が書かれていた。
が、今出すべきでは無い。
ちゃんとした時と場合を考えて渡さないとね。
「こちらが………………おや、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
最初に来たのとは反対側の扉を開き、紙と何かの台を持った二人の女性と共にダグラスさんが戻ってきた。
実は先程、俺が少女を買うと言った後すぐに何かを取ってくると言ってどこかへ行ってしまったのだが……………。
「こちらが契約書と印でございます。身の安全などは全て自己責任ですので、注意事項はきちんとお読みください」
うっ………………。
契約書と呼ばれた書類に目を傾け、途端に若干顔を顰めてしまった。
これ、読んでると頭痛がするタイプのやつだ…………。
一面に字がびっしり敷き詰められ、しかもほとんどが"特別犯罪奴隷を監視する際には~"やら"責任の所在"についてやら。
あれだ、時々外国製の商品に限らず付いてくる、全く意味が分からない割に物凄く長い説明書と同一の気配を感じる。
つまり結局何が言いたいのかと言うと、とりあえず読むのがめんどくさい。
ダグラスさんもさすがにこれは思う所があるのだろう。
苦笑い気味に「まぁ、何だかんだ言っても結局は建前ですからね………」と。
ただ個人の本音がそうであったとしても、商売人としては例え面倒であろうとも毎度しなければならないのだ。
ダグラスさんも……………いや、ダグラスさんだけに限定された話ではないが、色々と大変らしい。
「……………えっと、それ……なに…………?」
「これ?これは君の購入手続きの紙で……………あ、事後報告で悪いけど、君を買ったよ」
「え………………」
必死に書類に目を通しながら勝手に話を進めていた事を謝ると、少女は驚愕で息を飲み、続いてなぜかリーンの方を向いた。
困惑とも取れるその表情に対して、無言の微笑みが返される。
ん?どうしたの?
「いえ、やっぱりマシロさんはマシロさんだな、と」
「?」
訳が分からず首を傾げる俺に、リーンは「ふふっ」と意味深に微笑む。
そして、話題を逸らすように置かれていた二つの首輪のうち一つを手に取ると。
「時にマシロさん。マシロさんのお家には、既にお二人の奴隷さんがいらっしゃるのですよね」
「え、うん。そうだけど、それがどうs」
「えいっ」
「あっ!?」
「えっ!?」
緩く可愛らしい声の後に続くのは、二つの驚愕の声。
珍しく同じような表情で固まってしまった俺と少女は、呆然としながらリーンの首にがっしり嵌められて離れない、漆黒の首輪に視線を送る。
なんと、リーンがあまりにもさらっと"隷属の首輪"を自身につけてしまったのだ。
言葉が出ないとはまさにこの事。
リーンは嬉しそうに首輪を揺らしたりしてはしゃいでいるが、正直俺はそんな場合ではなかった。
"他国のお姫様を奴隷にした"。
そりゃあもう取り返しがつかない所の話ではない。
もしこんなのが知れ渡ったら普通に死刑案件だ。
「な、なんで!?ちょ、とりあえず外さないと………!」
「嫌です」
「それこそなんで!?」
「だって…………皆さんだけずるいではないですか。私も"私はマシロさんのものだ"とアピールしたいです!」
「むぅ……………って。いやいや、それならペンダントとかプレゼントするからさ」
とりあえず首輪を外してくれ…………。
信じて娘を託してくれたユラさんとバスさんに申し訳なさ過ぎる。
ダグラスさんも笑ってないで止めてくださいよ。
「たしかにペンダントも魅力的ですが、これでないとダメなんです」
「その心は?」
「興奮するから、です」
「そっか………………ん?今なんて?」
「冗談ですよ。ともかく、私はこの首輪が良いんです!」
「これもアクセサリーのようなものです!」とあながち暴論とも言いづらい事(?)も付け足し、リーンはグッと力強く拳を握る。
聞き間違いか?
今、とんでもない言葉が飛び出たような……………。
訝しげにリーンを見つめるが、ハテナ顔で傾げられたのは純粋な瞳。
「……………まったく、怒られる時は一緒に怒られてもらうからね?」
「………!はい、もちろん!」
まぁ結局はリーンがどうしたいかだもんな。
俺がどうこう言うようなものでもないし、なによりリーンは王女としてじゃなくて、一人の少女として着いてきたんだ。
その気持ちはなるべく尊重したい。
突然やるのは非常に心臓に悪いことこの上ないが。
「では、ご契約はお二人分でよろしいですね?」
「はい」
「………………」
ダグラスさんの確認に対して、少女はどこか心ここに在らずといった感じでぼぅ………と俯いていた。
先程からずっとこんな風だ。
う~む、やっぱり勝手に話を進めちゃったのがまずかったかな………………。
でもあそこで"買う"って言わないと、すぐに他のところに話が言っちゃいそうだったし…………。
「マシロ様、こちらにお願い致します」
「あ、はい」
前やったように描かれた魔法陣の上に血を一滴垂らすと、陣が純白の輝きを放ち、二人の首輪に印を刻んで行く。
どちらも幾何学模様なことに変わり無かったが、少女の方が少し複雑そうな印が刻まれていた。
58
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる