最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

文字の大きさ
上 下
124 / 290
第6章

一撃

しおりを挟む





手刀を振りかざし、カカッ!と檻の鉄格子を上下で横に切断して入口を作る。
ガシャガシャと音を立てて落ちた鉄の棒を前に、少女は恐る恐ると言った様子で檻の外に出て眩しそうに目を細めた。
長い間この中に閉じ込められていたのだろうか。
久々に降り注ぐ太陽の光に慣れるまで少し時間がかかった。


そして、見上げていた瞳を下ろして俺を捉えると、タタッと駆け寄り──────────。
怖かったのだろう。
俯いた少女の肩はふるふる震えていt



「この………変態!!」


「おぐっふ!?」



な、何で…………?
キッ!と睨む瞳は怒りで紅く輝き、待ち構える俺の一歩手前で止まった少女が振り上げた足は、それはもう思いっきり急所にクリーンヒット。
肉体の強さ云々うんぬんとか全く関係なくせり上がってくるとてつもない痛みに、思わず内股で地面に倒れ伏した。

白目で完全にノックアウト状態の俺を見下ろし、少女がふー!と猫のような威嚇を見せる。
まるで逆立った毛としっぽが幻視できるようだ。



「ま、マシロさーーーん!?」


リーンがうぼぁ………と動かなくなった俺に駆け寄り、抱き起こして肩を揺さぶる。

ちょ、マジで今やばいから動かさないで……………。
これ大丈夫?
マシロ君からマシロちゃんにチェンジしてないよね?
漢女おとめになるのは嫌だ。
あ、これ走馬灯かな?

…………………あーだめだ痛すぎてまともな思考ができん。
涙で視界がぼやけてきた。



「ダメですマシロさん!せめて私との子供を授かるまでは…………!」
「いや、そこ…………?」


もはやツッコむ気力すら湧かない。
人生初あそこスマッシュ…………男の弱点は不老不死でも同じだった。





           ~十五分後~





「…………ふぅ、死ぬかと思った……………」
「ふん!アンタみたいな変態は死ねばいいのよ!」
「酷くない!?」


なぜか少女を助けたと思ったらまさかの金的を喰らい、あまりの痛みに悶絶してから少し経ち、やっとこさ復活した俺に向かって少女は辛辣しんらつな言葉を吐き捨てる。
目が完全にゴミを見る目なんですが……………。
なんでこんなに当たりが強いのさ。
俺達初対面だよね?


「そうですね、なぜそんなにマシロさんを目の敵に?」
「……………………………だってこの男、さっきからあなたの胸ばっかり見てるのよ?」
「ぐふっ!?」


見下した視線が非常にグサグサ刺さる。
おまけの「最低!」、の一言でさらに言葉のナイフがグサグサ刺さりまくった。
否定しずらいのがなんとも悲しい限りだ。
もう止めて、マシロのライフはゼロよ!


「ま、マシロさん、私は嬉しいですよ?」


胸の前でギュッと拳を握り、落ち込む俺を必死に励ましてくれるリーン。
その優しさが心に沁みるぜ…………。


「はぁ…………。まあとりあえず今のは一旦置いておいて。はいこれ」


ため息一つ。
気持ちを切り替えて【ストレージ】から取り出し放り投げた布袋を少女が反射的に受け取り、怪訝そうに中身を確認すると驚いたように俺を見た。
その表情は「何で………?」とでも言いたげだ。


「これって…………」
「見たまんま服と水とタオル。とりあえずそんな服装じゃ嫌だろうから着替えてきな。さすがにこんな所で水浴びは出来ないから、悪いけどそれで我慢してね」
「…………………ここでこの布切れ一枚脱げっての?やっぱり変た」
「違うからね!?ほら、これ使っていいから」


このままでは不名誉なあだ名でも付けられそうな勢いだったので、慌てて【ストレージ】からテントを取り出して道端に組み立てる。
すごい…………、と少女の口から思わずそんな言葉が漏れた。


「リーン、着替え手伝ってあげてくれる?」
「はい、お任せ下さい!」
「あっ!ちょ、ちょっと!?」


少女は何か言いたそうにこちらを見るが、少しの間抵抗するもやがてリーンに両脇を抱えられて、渋々テントの中へと向かって行った。
やれやれ、色んな意味で過去最大級にダメージを喰らった気がするぜ…………。
ここまで邪険に扱われるとさすがにへこむな。

子供からは割と好かれる方だと思ってたんだが……………でも何だかんだ言いつつ逃げようとはしてなかったし、案外信用だけはされているのか。
それとも単純に逃げる元気が無かったのか…………。


おっと、【サイレンス】でテントからの音を遮っとかなきゃな。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...