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第6章
とある少女
しおりを挟むとある荒原にて。
「うわあああああ!?」
「こ、こいつら、どこから来やがったんだ!?」
辺りは更地でサボテンのような植物以外何も無く、荒原を通る道も小さな岩や欠片が大量に散りばめられていて、お世辞にも整備されているとは言い難い。
おまけに灼熱の太陽の光が地面を熱し、茹だるような暑さに包まれたまさに地獄のような場所だ。
唯一無駄に見晴らしだけが良いそんな荒原は、今や悲鳴と怒号が響き阿鼻叫喚の事態に陥っていた。
『グルアアアアア!!』
自分達が優勢なのを良いことに、下品な笑い声を上げた魔物達がバラバラに逃げる冒険者達を一人一人追い詰めていたぶる様に殺す。
護衛のはずの冒険者は、もうこの場に誰一人残っていなかった。
魔物に囲まれ身動きが取れない馬車の荷台で丸まっていた細い男は、また聞こえてきたグチャッ!という音に小さく悲鳴を上げる。
彼は奴隷商だ。
今回、コネで特別な仕事を手に入れ、取引先の貴族が住む街へと向かっていた。
あまりにも特別すぎる故、大金を叩いてまで強力な冒険者を護衛に雇い、万全の体勢で出発したはずなのに─────────。
これが成功すれば自分は大金持ち。
働かなくても一生遊んで暮らしていけるだけの儲けがあるつもりだった。
それなのに……………それなのにどうしてこうなった?
自分は死ぬのか?
死んでしまっては儲けも何もありゃしない。
(くそっ、なんで私がこんな目に………!あの疫病神が!)
やがて、外からの戦闘音が聞こえなくなった。
響くのはギャアギャア喧しい魔物どもの雄叫びと、ドスドスと近づいてくる恐ろしい足音のみ。
それが馬車のほんの少し後ろで止まった。
男が恐る恐る振り返ると、布で覆われた荷台から見えたのは数々の傷が刻まれた黒い筋肉質な肉体。
大きい。
大きすぎる。
ここから見えるのは腹筋の下半分ほど。
見える景色のほとんどが黒に覆われてしまっている。
ズガッ!
「ひいぃぃぃ!?」
突然、馬車の天井がひしゃげて丸太ほどの太さの何かが突き刺さった。
指だ。
立て続けに侵入してきた五本の指が、メキメキと音を立てて木製の天井を握り潰す。
男が情けない悲鳴を上げて後ずさった。
大きな手のひらが右側の壁を掴み、バキバキ!と勢い良く天井を引き剥がした。
そして、全てが日の元に晒される。
ガクガクと産まれたての子鹿のように足を震わせる男は急に差した日差しに思わず目をつぶる。
その後ろで、太陽光を反射して黒光りするのは巨大な檻だ。
鉄格子の影が中に伸び、もぞっと動いた何かにかかる。
「お、お前!私を助けろ!」
ガシャン!と音を立てて鉄格子を揺らし、男が必死に中に居る何か向けて唾を飛ばしながら怒鳴るが、反応は返ってこない。
苛立ったように鉄格子を殴る。
「………………うっさいわね。そんなの嫌に決まってるじゃない」
やっと日に照らされ姿を見せたのは、なんと小柄な少女だった。
首には厳つい黒の首輪が付けられており、銀に赤をブレンドしたかのような髪と、本来なら若々しい潤いのあるはずの肌は何日も風呂に入っていないようで相当汚れてくすんでいた。
しかし、それでも美しさを失わない朱色の目でへたり込む男を睨み、強気の一言で懇願とも取れる男の願いを一蹴する。
「なっ、お前────────!」
『フンッ!』
バキッ、ぐちょ………!
呆気に取られた男が激昂して何かを言いかけたが、その前に大きな手に弾き飛ばされて動かなくなった。
耳障りな音が消え、檻の中の少女はため息をついて立ち上がる。
『ククク…………ツイニ、ミツケタ……!』
大量の配下を引き連れ、大剣を肩に担いだ大男がにやりと笑みを浮かべた。
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