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第5章 出会い リーン編

吸血鬼の王とサキュバスの王妃

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「少しばかり見せてもらった」


バスさんはそう言って自分の右目を指さした。


「私の魔眼………"看破の魔眼"は他者の本質を色として見極めることが出来るのだよ。もちろんそれで全てが決まるとは思っていないがね」
「私のは"追憶の魔眼"と言って~、触れた人や物の記憶を少しだけ除くことができるの~。うふふ~、面白いものを見させてもらったわぁ~」


「あくまでこれは参考程度、実際にどうかは直接会って確かめるのが一番さ」、と付け足して二人は微笑む。
魔眼持ちだったのか……………。


ちなみにここで言う魔眼とは、俺がいつも使っている魔力を目に宿した状態のことを指すのではない。
そっちの魔眼が後天的に視力や第六感的なのを魔力で強化したのに対して、二人が所持しているのは生まれた時から先天的に授かった、魔法のような特殊な能力を保有する目だ。
前者の正式名称が"魔力眼"、後者の正式名称が"天与魔法眼"なのだが、昔の人が書いた書籍とかを読むとなぜかどちらも魔眼と訳されて記録されている。

たぶん魔法がまだ発達していなかった時に、見間違いとかなんかでごちゃ混ぜになってしまったのだろう。
今でも一般的に言う魔眼は前者の魔力眼の方だ。
天与魔法眼は言わば突然変異のようなものなので、そもそもの前例が少ない。
そのため、誰でも出来る周知の魔力眼の方が知れ渡っているという訳だ。

後者の方の魔眼を知る者は長寿のエルフだったり、古代文字が読める一部の変人だったり、数百数千の時を生きた大妖怪だったりと、かなり数が限られている。

また、天与魔法眼は二人のように能力がかぶることは無く、その魔眼は世界で一対しか存在しないと聞く。
唯一無二の特殊能力なのだ。
まさかそんな魔眼持ちが夫婦……………たぶん、史上初?なんじゃないだろうか。


………………………ん?
そう言えば今更だけど、ユラさんの魔眼は"追憶の魔眼"で、さっき面白いものを見たって────────────まって、どこだ!?どこ見られた!?

すごいな~っと二人の瞳を呆然と見ていてふと。
リーンに触れていたので、おそらく見たのはリーンの記憶なんだろうけど…………。
まさか同衾どうきん!?
リーンと同衾したとこ見られたの!?
その微笑みはどっちなんですかね!?


「うふふ~、お義母かあさんって呼んでくれてもいいのよ~?」
「い、いえその、俺にはもう妻が居まして……………」


母性溢れる笑みに若干気圧されたが、かぶりを振ってたじりながらも事情を話した。
うちにはもう四人のお嫁さんが居ること、そして今の家を離れる気は無いこと。
これで諦めてくれるだろう。

……………しかし、そんな俺の淡い期待で断ち切れるほど、リーンの気持ちは小さくも弱くもなかった。


「あら、そんな事は大した問題じゃないわよね~」
「はい。第何夫人でも、例え愛人でも。マシロさんに愛していただけるのならそれで満足です」


母の言葉にしっかりと頷き、真っ直ぐな目で再び俺を見つめる。
あれ、なんかどんどん話が結婚寄りに……………?
だがちょっと待って欲しい。
俺はリーンを娶るつもりは無いし、そりゃまぁリーンはいい子だし可愛くて健気だけど、出会って数日で結婚なんて…………………………………………………………今更か。


目をつぶって、はてと。
あんま今までも変わんなくね?
と思ってしまった。

……………………いや、この開き直り方は良くない!
たしかに前世でハーレムものを読んでる時は俺もハーレム作りたいなぁ…………って気楽に考えてたけど、実際に当事者になってみると、こう…………なんて言うか、すごく葛藤する。
これでいいのか?と。
こんな欲望にまみれた心で(色んな意味で)、後に俺は、リーンは後悔しないだろうか。
生真面目きまじめすぎるか?
でも後で泣くよりは良いと思っている。



「─────────マシロ君」
「え、あ、はい」


葛藤で頭を悩ませるさなか、ずっと黙っていたバスさんが不意に口を開いた。
思わずビクッと肩を震わせてしまう。
いや、何となくね?
怒られるんじゃないかと…………。
悪かったね、小心者で。

しかし、案外険しい顔をしていなかったバスさんの口から飛び出したのは、これまた予想だにしなかった言葉だった。



「せっかくだ、一緒に風呂でも入らないかい?」
「は───────」









で、あれよあれよと今に至る訳で。
そう、別にバスさんはこの厳つい見た目に反してすっごい良い人だったのだ。
物腰柔らかいし、微笑むとダンディおじ的なイケメンだし。
たた……………非常に申し訳ないが黙っているとすごく怖い。
一瞬ヤ〇ザかな?と思ってしまった俺を許していただきたい。

ちなみにリーンも一緒に入りたいと騒いでいたが、普通に却下された。
当たり前だ。
まだ未婚の王女様なのに、旦那でもない男と一緒にお風呂に入らせる訳にはいかないだろう。 

暴れるリーンを、ユラさんが羽交はがい締めにして引き止めていた。
魔王を一方的にボコったリーンの全力でさえビクともしないとは……………しかもうふふ~、と微笑んでいたので割と余裕ありそうな感じ。

……………………ユラさんの力の一端を目撃してしまった気がする。



それは置いておいて。
気まずさを紛らわすように視線を巡らせる。
やっぱり広いな……………どんくらいあるんだろう。
銭湯並みかそれ以上か。

執拗しつように大きい訳ではなく機能面を重視した感じだが、それでもこの広さ。
マーライオンの代わりにがぱっと口を開けてお湯を吐き出すのは白い四足歩行のドラゴンだ。

ドボドボとお湯が落ちる風呂は優に二十人は入れるんじゃないかと思えるほど広々としていて、縁は肌触りの良いスベスベした大理石で埋められていた。

これで王族専用なんだからすごいよなぁ……………。
兵士や近衛兵達が使う風呂場はまた別の場所にあるらしく、そっちはもっと広くて、巨大な丸型の風呂が二つと小さめなのが八つの計十個あるらしい。


「マシロ君もいるかい?」
「あ、いただきます」


もう一つ盃を取り、お酒を注いで手渡された。
日本酒……………じゃないよな。
でも似た味だ。
どちらかと言うと、隠居を決め込んだ猫又のセンリが作ってたお酒の方が似た味わいがするような……………。



「………………どうして私達がのか、気になるかい?」
「ええまぁ…………」


リーンが"運命の人を探してきます"と手紙を置いて姿を消してから、近衛兵含め騎士団や軍部からも隊の選出要請が来てはいたらしい。
しかし、バスさんは許可しなかったと言う。

帰ってくるという確証があったのか?
いや、だとしてもあれほど安堵した表情で我が子を迎えるほど心配していたなら、捜索隊を組んで探すべきだと個人的には思う。
それなのになぜ……………。


「……………私はね、んだ」
「未来を…………?」
「ああ。だがこれが新しい魔眼の力なのか、それとも無意識に発動されたスキルなのか。自分でもまだ分からないんだ」


いわく、ふとした時に、急に見えることがあるそうだ。
力が開花する前兆なのか、まだ不安定ならしい。
もし仮にもう一つの魔眼が発現した場合、一人で二つの魔眼を所持するなんて、これこそ史上初なんじゃないだろうか。
そうじゃないとしても、未来を見れるスキルなんて操れるようになったら相当やばい。


「そこで君を見た。君が娘を助け、共にここに来るのをね」







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