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第5章 出会い リーン編
異変
しおりを挟む「うぼぁ」
「あ、リーン!?」
カクカク足を震わせていたリーンが魂魄的なアレを漂わせて卒倒した。
まさか本当にクモ達もダイビングしてくるとは…………!
俺達を捕獲せんと飛んでくる糸を避けながらリーンを抱き上げ、地を砕くほどの踏み込みで一気に差をつける。
くそっ、ここが森じゃなかったらぶっち切れてたのに!
しかしあくまでここは相手のフィールドだ。
そりゃあ向こうの方が巧みに動けるだろう。
「……………うぅ、マシロさん…………血を吸ってもよろしいでしょうか………」
「分かった!いっぱい吸ってかましてくれ!」
今度は早めに復活したリーンが涙目で意を決したように後ろを向き、俺の首筋に噛み付いてちゅーちゅーと血を吸い始めた。
リーンの準備が終わるまで俺は時間稼ぎ。
持ち方を抱え込む形に変え、走りに意識を傾ける。
途中、騒ぎを聞き付けた他の魔物も何体か寄ってきたが、それらは簡単な魔法で牽制しつつ無視して逃げる。
そして。
ちゅぱっ………と妙に艶かしい音を立てて口を離し、物足りなそうに牙の跡を舐めると。
リーンは右手を天高く掲げる。
「【エアロカッター】!」
大量の魔法陣がクモの集団を囲むように形成。
そこから風刃が放たれ、圧倒的な殺意を持って乱舞する。
『ギャア!?』
大概のクモがスパッと斬られてお終いなのだが、時々上手く糸を使って避ける奴もいる。
が、そんな奴には絶妙にタイミングをずらした次弾が命中したり、通り過ぎたはずの風刃が弧を描くように急旋回して真後ろから両断したり。
全方位から襲いかかる風刃に隙は無い。
自動追尾型……………と言う訳ではなく、リーンが全ての気配を感じ取って、対象が避ける度に少しずつ調節しているのだ。
常人なら脳が焼き切れてしまってもおかしくないのだが、リーンの場合は先程俺から吸った血でそこを補っているらしい。
たぶん吸血鬼の超回復力のゴリ押しで、脳をいつでも新鮮な状態にしてるんだろうけど………………文字通り脳筋すぎる。
まぁそのかいもあって、一瞬であれだけ湧き出てきたクモを全滅させた。
はぁ、大変だった…………。
もうこんなのは懲り懲りだ。
帰りは転移魔法で帰ろう………………あ、今使えないんだった……………………よし、ノエルに迎えに来てもらおう。
やっと脅威が去り、落ち着いたリーンを降ろして二人でしばらく歩いていると、不意に木々がまばらに途切れてまたもや崖に出た。
下を覗くとこれまたかなり高いのがよく分かる。
さっき程じゃないけど、それでも相当深いな。
再び視線を上げ向こうを見る。
……………う~む、遠くに何か見えるような見えないような……………あ、あれがダグールか。
平たい何かがあると思ったら、国を守るために築かれた防壁だった。
ちょうどこの崖の下から一直線に森が開けて道ができており、あれを真っ直ぐ進めばダグールに着くのだろう。
「はい、あそこが私達吸血鬼の国、"ダグール"です。あと十数分もあれば到着すると──────────」
ドゴォン!!
突然の爆音に、自慢げに自身の国を指さしていたリーンの肩がビクリと震える。
すごい振動だ。
何事かと辺りを見回すと、国の方から黒煙が立ち上っているのが目に入った。
ただの火事……………って訳じゃないよね。
「なんだこの気配」
急に国付近に出現した巨大な謎の魔力。
ゼグラルと同等くらいか?
さっきまで微塵も感じなかったのに、一体いつ現れたんだ?
また俺の〈気配感知〉をかいくぐって…………アーティファクトか何かの影響かもしれないとは言え、修行が足りないと言わざるを得ないな、この体たらくは。
てか普通は何らかのアイテムを使ってても、気付かないはずがないんだけどな……………。
スキル抜きの五感でも何も感じなかったのには少し違和感が残る。
このレベルの奴が出来る芸当には思えないのだ。
ゼグラルと言い今回の奴と言い、なんか引っかかるんだよね。
「っ!」
「リーン!」
俺が思考に耽っているうちに、さっと顔を青ざめさせたリーンが素早く翼をはためかせて飛んで行ってしまった。
もちろん向かう先はダグール。
そりゃあ自分の国が攻撃を受けているとなれば、居ても立ってもいられないだろう。
俺も慌てて飛行魔法を発動してリーンの後ろ姿を追う。
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