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第4章 猫又編 (98〜104話)
洞窟へ
しおりを挟む「よし、そろそろ行くか~。クロとイナリも待ってるだろうしね」
「んえぇ~、もっと飲も~よぉ~。ボクまだ全然満足してないよ~?」
「どうせ後でたらふく飲むだろうに…………。ほら、い~く~ぞ~!」
「やぁ~だぁ~!」
「子供か!」
さすがにもうそろそろ酒場を出ないと、クロとイナリを待たせちゃう可能性がある。
ただでさえこっちの都合に付き合ってもらっているのに、さらに長時間待たせてしまっては申し訳なさすぎる。
なのでそろそろお会計をと立ち上がろうとしたが、べろんべろんに酔っ払ったシュカが俺の服の裾を掴んで離さない。
くっ、この…………!
典型的な面倒くさい酔っ払いタイプか!
何度かこっちからもグイグイ引っ張るが、ちっとも動ける気配がしない。
いや力強くないっすか?
幼児退行して絶賛泣き上戸中とは思えない怪力だ。
「マシロももっと飲もうよぉ~」
「ちょ、まっ、服伸びるって!?」
………………………なんか、いっそもう懐かしくなってきたな。
前世でもこんな感じの先輩が会社にいたんだよね…………。
相手をするのが大変だったのなんのって。
だが俺もあの時とは違う!
このままじゃ埒が明かないと判断した俺はとんでもなく馬鹿げたステータスに物言わせて、泣き叫ぶシュカを机から引き剥がして脇に抱え、そのまま問答無用でお会計を済ませ外に出た。
一歩間違えれば人攫いかと思われてしまいそうな光景に、少なからず店主達もドン引きしていたのは言うまでもない。
まぁ気にしたら負けだ。
◇◆◇◆◇◆
その後、仲良く(?)ショッピングを楽しんでいたクロとイナリと合流し、予定通り例の洞穴向けて歩を進めていた。
そこに行くためには割と険しい山道を登らなくてはならず、加えてろくに整備もされていないため歩きにくさはピカイチだ。
これ大丈夫か?と思わず二度見してしまいそうなものが時々道に散乱してたりする。
例えば粉々に砕けた岩の残骸とか。
これは果たして誰かが砕いたのか落石したものなのか…………。
落石だったら怖すぎる。
当たったらたまったもんじゃない。
しかも、ここには魔物も出ると来た。
少なくとも、"カディア"村周辺では滅多に見ないくらいの強さを持った魔物でわんさか溢れている。
少し道を外れただけでエンカウントするし、なんなら向こうから襲ってくるしで、倒すの自体は難しくないけどその度に時間が食われて非常に厄介だ。
こんだけ凶暴なのに、さっきの村には一切降りてかないんだから不思議だよなぁ……………。
酒場の店主曰く、プロストの原料である穀物の匂いに理由があるらしい。
という訳で、こんな物騒で危険な山道を登る人はそう多くない。
死者も年々絶えないのだとか。
しかし、そんな心配は俺達には無用だった。
もはやクロもイナリもお手の物。
襲ってくる魔物は片っ端からなぎ倒して、悠々と山道を進む。
うむ、それにしてもやっぱりイナリはあの頃に比べて体力ついてきたね。
このくらいじゃまったく根を上げなくなった。
「─────────いやー、クロさん可愛かったですよ!ご主人様にも見て欲しかったですぅ…………」
「ん、一生の不覚。イナリの記憶は後で消す。物理的に」
「ちょ、やめてくださいよ!?」
と言うかむしろ、こんな風に思い出に浸る余裕さえあるくらいだ。
ちなみにこれは、途中に寄った村唯一の服屋でクロが着せ替え人形になった話らしい。
可愛い系からカッコイイ系まで、幅広い服を着せては脱がして着せては脱がしてされたとクロが死んだ目で語る。
ほうほう、それは俺も見たかったな……………。
クロは今もそうだが、いつも肌にピチッと吸い付くタイプの黒いやつにレザーの短パンとかなり質素な格好をしている。
しかも黒一色な分、相当地味だ。
もちろん俺も服は買ってあげたいし、可愛い服を着せてニマニマしたいのは山々なのだが、何度頼んでもクロに「これだけで大丈夫」と断られてしまっていたのだ。
ぬぅ、イナリめ羨ましい。
「うーむ、写真があれば見れたのに……………」
「しゃしん、ですか?」
「そ。なんて言ったらいいかな…………その瞬間を切り取って紙に保存する、みたいな?」
「ほえ~」
あまりピンと来ていない様子で、ポケ~っとした返事をするイナリ。
もちろんその傍ら魔物を返り討ちにするのも忘れない。
逞しすぎんか?
あの頃の残念な姿はどこへ行ったのやら……………。
「残念じゃないイナリはイナリじゃない」
「激しく同意」
「そんなぁ!?─────────って、ぎゃん!?」
俺とクロのあんまりな言いように涙目になったイナリが抗議しようとした途端、空気を読んだかのようにひょっこり地面から突き出していた岩の破片に足を取られ、それはもう芸術的なまでにすってんころりんと転けた。
地面に強打したおでこからしゅ~、と煙が上がっている。
いやー、ここまで鮮やかなフラグ回収は見た事ないわ!
これでこそイナリである。
「う、うぅぅ~~~…………!」
羞恥で顔を真っ赤にしたイナリがモゾモゾと丸くなる。
へにゃりと垂れ下がった耳としっぽが実に可愛らしい。
二人でモフモフしながら励ました。
さて。
そろそろ気がつく人も居るんじゃないだろうか。
あれ、一人居なくね?と。
いやいや、そんな事ないよ?
皆一緒に頑張ってるよ、うん………………。
別に気がついたら一人減ってる怪奇現象とかじゃないから安心して欲しい。
先程も言ったが、イナリは普段の修行やらなんやらで非常に逞しく(笑)成長しており、実際にこの険しい山道でもちっとも根を上げていない。
駄菓子菓子。
ここに約一名、普段のグーダラ生活のせいで堕落しきり、既に根を上げている鬼人が。
「あうぅ…………おじさんもうダメだよ~…………。マシロ、おんぶして~」
言わずもがな、自分をおじさんと称してまでおんぶをせがむシュカである。
ぜ~、は~、と今にも倒れそうな息遣いで、なんとか俺の裾をちょこんと掴んで付いてきている状態だ。
日々だらけている生活が祟って、体力があっという間に底をついたらしい。
こう言ってしまってはなんだがあまりにも貧弱すぎる…………。
まったく、しょうがないからおんぶをしてあげよう。
「お~、さすがマシロ。なんだかんだ言ってもボクには優しいね~。ソーカちゃんとは大違いだよ~」
「いやたぶん反応としてはソウカが正しいんだけどね?」
「あっ!シュカ様だけずるいです!ご主人様、私もおんぶしてください!」
「ん、クロも」
「えぇ……………じゃあ交代でな」
二人の食いつきが凄まじい。
そんなにおんぶされたいのか…………?
よく分からん。
そんな感じで、わちゃわちゃしながら山道を登ること四十分。
思ったより時間がかかってしまったが、懐かしの大きな洞窟の前にたどり着いた。
ぱっくり開いた入口からは謎の冷気が漂っている。
「うぅ…………まだおしりがジンジンしますぅ…………」
「あれは完全に自業自得でしょうが」
それとは全く関係なく、自慢のムチッとしたおしりを擦りながら恨みがましい目で俺を見つめるイナリ。
実は先程、クロと交代しておんぶしたイナリがクンクンと俺の首筋に鼻を寄せて、「ふへへぇ~…………」と頬をニヨニヨさせた事に純粋にドン引きし、思わず手を離してしまったのだ。
おしりを強打した時もきゃんきゃん吠えていたが、これは誰がどう見ても完全なる自業自得である。
…………………………まぁ俺も、背中に押し付けられる柔らかな感触を密かに楽しんでいたので人の事は言えないが。
ともかく、そんなイナリやクロとシュカと共に、洞窟へと足を踏み入れる。
しばらくは一本道が続き、冷気が強くなってきたのを感じていると、ついに前方に光が差す空間を発見した。
徐々に広がる道を行き、その空間に出ると──────。
そこは一面が氷に覆われていた。
所々がひび割れて欠片が散乱しているものの、ほとんどが綺麗な状態でキラキラと光を乱反射し、輝いている。
鍾乳石の代わりに垂れ下がるのは長い氷柱だ。
全員がその美しい光景に「ほう………」と息をつく。
「わぁ!ご主人様、すごいですよ!氷がいっぱいです!」
「…………おう」
いつも通り復活が速いのもさる事ながら。
イナリが興奮気味に俺の腕を抱いてピョンピョン跳ねる度に、豪快に揺れるお胸が当たってさあ大変。
こっちもすごぉい……………。
「すん…………主、この先行かない方がいい」
「ん?あ、もしかして気づいたか」
クロは近しい存在だから、この奥から漂う気配に気づいていてもおかしくない。
心配だったけどちゃんと居たようだ。
いつもならはしゃぐイナリに何か言ってもおかしくないのに、クロはじっと奥へと続く一本道を見すえるのみ。
それ程までに、その気配は大きいのだ。
「違う。女の匂い。主に媚び売る女の」
「えっ!?」
「媚び売るて……………」
しかめっ面で嫌さを全面に表したクロに、思わず苦笑いしてしまう。
すごく具体的だな……………。
頑なに進もうとしないクロをなんとかなだめて、例の一本道を進む。
今度はそんなに長くない。
唯一最初の道と違った仰々しい鳥居のような物をくぐる。
その先の空間も最初の場所と大して変わらず、目立った違いと言えば一切傷も裂け目もない氷と、中央にそびえるそこそこ高い円錐状の崖だ。
そこの上に、誰かが横たわっている。
ここからでは出っ張った氷のせいでよく見えないが、不意にちょこんと三角の何かが飛び出して、黒く細長いものがフリフリ揺れた。
「んあ~、遥々斯様な所まで客人が来るのは久しぶりじゃのぅ………………………んん?まさかこの匂い…………マシロか!?」
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